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勇者系ロボットが目覚めたら、敵はとっくに滅んでた ~ロボもの世界の人々~  作者: コーキー
第一章「覚醒! その名はジェイカイザー!」
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第4話「ドラマの中の戦争」【Gパート それぞれの帰路】

 【5】


「………ん! ……くん!」


 微かに聞こえる声が脳へと響き、頭がガンガンと痛む。


「うる……さいな……」

「笠本くん! 笠本くん!!」


 重いまぶたを開け裕太が目を覚ますと、視界に入ったのはどアップのエリィの顔。


「うわぁっ!? 痛っ!?」

「目が覚め……あ痛っ!?」


 急に起き上がろうとしたので、裕太とエリィは額同士をぶつけてしまった。

 頭を抑えながら痛みをこらえるふたりを、横で見守っていた進次郎がハハハと笑う。

 落ち着いて裕太が辺りを見回すと、ここはバス停があった河川敷の坂の上。

 空は夕焼けに染まり初め、〈ドゥワウフ〉があったところは焼き焦げたように円形に黒い跡が広がっていた。


「……結局、どうなったんだ?」

「あの後ぉ、ジェイカイザーの目の前で〈ドゥワウフ〉が爆発したのよぉ」

「それで裕太、お前はジェイカイザーごとひっくり返って、今の今まで気を失ったってわけだ」

「そうなのか……」


 未だズキズキと痛む頭を抑えながら、裕太は立ち上がる。

 よく見れば川に半分沈みかけているジェイカイザーの本体を、2機の〈クロドーベル〉とテレビ局の〈ハイアーム〉が協力して引き上げているところだった。


「すごい爆発でしたね。あんな爆発だと、乗っていた人はどうなっちゃったんでしょう?」

「……誰も乗っていなかったぞ」

「え?」


 目をパチクリとさせるエリィに裕太はもう一度言う。


「だから、あの〈ドゥワウフ〉のコックピットに誰も乗っていなかったんだって」

「うそ、あんな動きを無人制御でやったっていうの!? まだキャリーフレーム用の自動制御AIってそんなに発達してないはずよぉ!」

「俺も信じられないんだが、実際に誰も……」

『いや、裕太。あのロボットには確かに人が乗っていたぞ。金ダライを振り下ろすまでは私の生体センサーが中に人間の反応をキャッチしていた』


 突然携帯電話から声を出したジェイカイザーに驚きながらも、裕太は「本当か?」と疑いの目を向けながら聞き返す。


『私のセンサーに狂いはないっ!』


 自信満々で話すジェイカイザーの声を聞いて、裕太も確かにあの動きは人力じゃないと無理だなと改めて認識した。

 キャリーフレームの操縦に少しは自信のあった裕太が、相手が軍用だったとはいえあれだけ苦戦させられた。

 その事実に少し自信を失いかけうつむいていると、背後からズゾゾとストローを吸う音が聞こえてきた。


「ボウズ、こっぴどくやられたみたいだな」


 音の主は、特濃トマトジュースを飲む大田原警部補だった。


「大田原さん、来てたんですね」

「ま、隊長だからな」


 大田原はそう言って腰を下ろし、坂道に足を伸ばす。


「ボウズ、さっきパイロットがいなくなったって言ってたな? 実は数か月前から似たような事件がポツポツと起こっているんだ」

「前から?」

「何もないところに突然キャリーフレームが現れて暴れる。そしてやっとこさ取り押さえたと思ったらパイロットが消えていて機体は自爆……ってな事件だ。まるでマシンがパイロットを食っちまうように見えるってんで警察の中ではグールっていうあだ名をつけて警戒している」


 大田原は空になったトマトジュースのパックをたたみ、懐へしまうと立ち上がって裕太の頭にポンと手を置いた。


「ジェイカイザーの後始末は俺達がやるから、ボウズはもう帰んな。気を失ってたんだから、安静にしなきゃいかんぜ」


 微笑みながらそう言って、大田原は坂をずり落ちながら降りていった。

 ぼーっと大田原を目で追いかけていた裕太へ、背後からエリィが手を伸ばす。


「撮影は残念だったけど…笠本くん、帰りましょ?」


 裕太は、その手を握りながら「ああ、帰ろうか」と笑顔で返した。




 【6】


 メビウス電子の地下格納庫。

 椅子に座ってモニターを見ていたキーザの前に、光に包まれながら内宮が姿を現した。


「戻ってきたか、内宮」

「はぁーっ。原理はようわからへんけども、一瞬でパッとワープするんは気持ち悪いなぁ」

「そのおかげで逃走の手間が省けるのだ。文句は言わないでいただこうか」


 カップに入ったコーヒーを口元へと運ぶキーザに、内宮はポケットから取り出した小さなメモリーカードを手渡す。


「これが〈ドゥワウフ〉から抜き取った戦闘データやけど、ほんまに負けてもよかったんか?」

「構わんよ、どうせあの機体も元手はタダ同然だ。それよりも、これが報酬だ」


 キーザから分厚い封筒を手渡されて、内宮はすぐさま中に入っている札束の数を確認した。


「ひー、ふー、みー……まあこんなもんか。ほな、もう時間も遅いしおおきに!」

「次の時も頼むぞ、内宮うちみや千秋ちあき


 キーザの言葉にサムズアップで返事をしつつ、内宮はもう片方の手で封筒を握りしめたまま足早に格納庫を去っていった。

 キーザは改めてコーヒーを喉へと通し、グビリと音を立てて飲み込む。

 一息ついたところで、内宮と入れ替わるようにして、老いてしなびた顔だがギラリと目の鋭い老人が格納庫へと足を踏み入れ、ややしゃがれた低い声で話しだした。 


「キーザ、あのような小娘で大丈夫なのか?」

「訓馬専務。心配は無用ですよ、腕は確かです」


 訓馬と呼ばれた老人は、キーザの横に老いてある古びたキャスター付きのイスにゆっくりと腰掛けた。


「私が言いたいのはそういうことではなく……」

「あ、専務そのイスは!」

「ん? のああっ!?」


 座ったイスの足が突然メキメキと音を立てて折れ、訓馬は後方へとひっくり返った。


「……そのイスは明日廃品に出す予定だったんですよ」

「先に言え、先に! あだだ……」


 床に打ち付けた腰をさすりながら、訓馬は壁に立てかけられていたパイプ椅子を立て、今度も折れないかと恐る恐る腰をおろした。


「……ふう。私が言いたいのは、我々の行動だと警察どもに漏れやしないかということでな」

「学生という読まれにくい身分でかつ秘密を守り、金で動いてくれるような存在だと彼女以上に優秀な人材はいないと思いますがね」

「大した自信だな、根拠はあるのか?」

「ヘルヴァニア帝国の3軍将の一角『鬼神』と呼ばれたこのキーザの判断というだけではいけませんか?」


 自信たっぷりのキーザに頷きで返しつつ、訓馬は「負け犬がよく言う」とキーザに聞こえないように小声で呟いた。



    ───Hパートへ続く

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