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第35話「勇者VS英雄」【Hパート 子供と父親】

 【9】


 宇宙港まで送り迎えしてくれたシルヴィアに、裕太は頭を下げた。


「それじゃあ、短い間でしたがお世話になりました」


 急ピッチで進められた補給作業は、半日もしないうちに完了したらしい。

 やっと地球へ帰れる安心感と、もうちょっとこのコロニーに滞在したかったなという後ろ髪引かれる思いが裕太の中でせめぎ合う。

 

「お母様、お父様は来れなかったのぉ?」

「さあ……? 試合の後、一目散に家に帰ったから何か用事があったんじゃないかしら。あのひと忙しいから」

「そう……」


 寂しそうな顔をするエリィ。

 あれだけ仲のいい家族なのだ。もう少し一緒に居たいのだろう。

 しかし、それを言い出さないのはひとえに彼女の強がりなのかもしれない。

 友達の前で一人前に振る舞おうとするという気持ちは、裕太にも覚えのあることだからこそよくわかった。


「それじゃあ、裕太くん。エリィのことよろしくね」

「あ、はい」


 カツコツと、ハイヒールで床を鳴らしながら足早に立ち去るシルヴィア。

 裕太がその背中をじっと見ていると、不意にエリィが袖を引っ張った。


「お、おい」

「早く乗らないと怒られるわよぉ? さ、行きましょ!」

「……そうだな!」



 ※ ※ ※



 艦内の休憩室ラウンジの椅子に裕太が腰掛けると、ガクンという揺れとともに窓の外の風景が動き出した。

 向かいの席に座った内宮が、携帯電話を操作しながらほくそ笑む。


「聞いたで。銀川はんの親父とファイトしたんやて?」

「ギリギリで負けたけどな」

「あの大英雄にギリギリっちゅう時点で勝ちみたいなもんやと思うけどな。あ、アホAIども返すわ」


 内宮がそう言って携帯電話をタンと指で叩くと、テーブルの上においた裕太の携帯電話の画面にジェイカイザーの顔が表れた。


『ええい裕太。私がいればその英雄殿との勝負に負けなかったのではないのか!』

「そもそもお前がいたところで変わらねーよ。機体は借り物だったし」

『ご主人さまをこうもボコボコにするとは、やりますねあのオヤジ』

「ジュンナはん、英雄サマをオヤジ呼びはないんちゃうか?」

『いいえ。あんな未来ある若者に対して情け容赦のない大人げないオッサンはオヤジでいいんです』


「はいどうも、情け容赦のない大人げないオッサンで悪かったね」


 背後からの低い声にギョッとしつつ、裕太が振り返る。

 そこには、数時間前に死闘を演じた相手。

 銀川スグルが立っていた。


「ぎ、ぎぎぎ銀川の親父さん!? すいません俺の携帯電話が失礼なことを……!」

「構わないよ。こっちも大人げなかったとは思ってるからね。いやあ、いい勝負だったね今日の戦いは」


 そう言いながら、裕太の肩をポンポンと叩きつつ隣の席に座るスグル。

 ビリっとくるプレッシャーが真横から放たれるなか、内宮は細い目を無邪気な子供のように輝かせていた。


「ほ、ホンマにスグルはんでっか!? うち、内宮千秋て言います!」

「その手の操縦レバーまめを見る限り、君もキャリーフレームパイロットだね?」

「はい! キャリーフレーム部やってました! そや、サインお願いできまっか!?」


 かばんの中からペンと真っ白な色紙を取り出し懇願する内宮。

 裕太は(いつもそれ持ってるのかよ)と思いながらサラサラと慣れた手付きでサインを書くスグルを横目で見る。

 書き終えたサインを手渡し、内宮と握手を交わすスグル。


「はぁー、感激ですわ! ホンマありがとうございます!」

「いやいや、構わないよ。これから地球まで一緒に行く仲間だからね」

「「一緒に!?」」

「ああ、そうだよ。最近は宇宙も物騒だからね、エリィを安心して帰してやりたいんだ」


 ニッコリとした笑顔のまま、内宮の方へと歩いていくスグル。


「そうだ、君。千秋さんだっけ?」

「あ、はい! なんでしょ?」

「君と……裕太くんの仲。僕は応援するから」

「へ?」

「決して! 君と裕太くんがくっついたら娘につく男が減るとか、考えて無いからね? ハハハハ……」


(絶対考えてるだろ……)


 微妙な空気の流れるラウンジで、裕太は深い溜め息をついた。



 ※ ※ ※



「いやあそれにしても、スグルくんが乗ってくるとはね」


 艦長席の隣で腰をトントンと叩きながら、ナニガンがつぶやいた。


「まあ、私としては銀川のおじさんが乗ってくれることで帰路の安全は確約されたものですし。大変ありがたいですけど」

「娘かわいさに身体張れるってかっこいいよねえ。僕にはマネできないや」

「ナニガン副艦長も、父親はしっかりやれていると思いますよ? レーナさん、毎日すごく幸せそうじゃないですか」


 深雪の言葉は、実父への皮肉でもあった。

 けれどそんなことはつゆ知らず、褒められて嬉しそうに笑うナニガン。


「血はつながってないけどレーナは自慢の娘だからね。だからこそ、時々不安になるんだ」

「不安?」


 いつものダジャレを飛び出させず、額を抑えるナニガン。

 横目で彼の表情に薄っすらと表れる怯えのようなものを、深雪は見逃さない。


「いつか、レーナが自分の生まれのことで思い悩むんじゃないかって。そして、私から離れていってしまうんじゃないかって思ってね」

「生まれって……災害コロニーの遺児のことですか?」

「いや。彼女は恐らく────」


 ナニガンの言葉を遮るように、警報が鳴った。

 深雪は目を吊り上げ、「何事だ!」とブリッジクルーへと唾を飛ばす。


「レーダーにキャリーフレーム反応!」

「敵か? 数は!」

「数は1。SOS信号が発信されているのを見るに、どうやら漂流しているようです!」


 深雪の正面の画面に、該当のキャリーフレームが映し出された。

 漆黒の宇宙に隠れるような真っ黒な装甲をした、肩に2つの球体のような物体がついたキャリーフレーム。

 漂流者ならば助けるというのが、宇宙に生きるものの筋である。


「よし、回収班を回してやれ! 識別は何と出ている?」

「識別は……ネオ・ヘルヴァニア? 機体名は……〈クイントリア〉だそうです!」


───────────────────────────────────────


登場マシン紹介No.35

【エルフィス(ストライカー)

全高:8.0メートル

重量:7.7トン


 エルフィスに拡張バックパック「ストライクパック」を装着した姿。

 ストライクパックは高機動戦闘用のバックパックであり、ビーム・スラスターという特殊な推進機構を持っている。

 素のエルフィス自体が現在は型落ちではあるものの、持ち前の高いスペックとバックパックで強化された運動性により、この形態のエルフィスの性能は現行最新機にも引けを取らない。


 ビーム・スラスターはビームを放射する際の反動を利用した推進機構である。

 後方に放ったビームで味方に被害が出ないように、ビームの威力自体は落としているものの、その加速力は驚異的である。

 その真価が発揮されるのは空気抵抗のない宇宙空間であり、劇中の裕太との戦いにおいてはフルスペックをまだ見せていない。

 ストライクパックの設計にはパイロットである銀川スグル本人のアイデアが採用されており、そういった流れもあって彼のお気に入り機体となっている。




【次回予告】


 Ν(ニュー)-ネメシスに回収されたクイントリア。

 その中から出てきたのは、光国グェングージャの決戦で裕太を苦しめた少女・ゼロナインだった。

 相対した裕太たちに回収されたことで混乱する彼女を、レーナが優しく迎え入れる。

 しかし、その出会いがレーナの過去が紐解かれる幕開けであることを、彼女自身はまだ知らなかった。


 次回、ロボもの世界の人々36話「刻まれたゼロナイン」


「進次郎様、この娘にはくれぐれも近づかないでくださいね!」

「ええっ、僕何か悪いことしちゃったかなあ?」

「いえ。進次郎様が近づいたら……一目惚れされてわたしの恋敵が増えちゃうじゃないですかー!」

「ああ、うん? そう? なのかな……?」

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