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第34話「シット・イン・マインド」【Aパート 宇宙と地球】

 【1】


 窓の外を虚無が流れる。

 漆黒のキャンバスを彩るのは、遥か彼方の星の輝き。

 進めど進めど景色は変わらず、宇宙が見せる顔は張り付いたように変わらない。


『裕太、何を暗い顔をしているのだ?』


 Ν(ニュー)-ネメシスの個室の中で、吐いたため息を的確に感じ取ったジェイカイザーが呑気に尋ねる。

 裕太の中の不安、それは借金だった。

 返済のペースを上げるために宝探し、というのが当初の目的だった央牙島おうがじま

 結局、宝は今乗っているこの戦艦であり、裕太の懐は寂しいまま。

 そのうえ転移事故から火星と木星の間という辺鄙へんぴな場所まで飛ばされて今に至る。

 夏休みの大半を使い潰して得たものは、エリィの実家への顔出し旅路だった。


 これが、相手がただの夫婦であればのほほんと茶でも交わしながら世間話もできるであろう。

 しかし、エリィの父は伝説のキャリーフレームパイロット・銀川スグル。

 そして、エリィの母は元がつくが旧ヘルヴァニア帝国女帝、旧姓シルヴィア・レクス・ヘルヴァニア。

 世間ではエリィとは無縁に書いてあるものの、歴史の教科書に載るふたりと借金を抱えたまま会いに行くのはあまりにも気が重かった。


『だが、裕太はまだ正式にエリィどのとお付き合いしているわけではあるまい?』

「銀川の方が乗り気なんだよ。正直言うと内宮のこともあるし、俺はどうすればいいのやら」

『モテモテリア充というカルマが精算される時が来たのだ! 男らしく覚悟を固めるがよかろう!』

「るせー、お前はどうなんだよ。ジュンナには冷たくあしらわれているみたいだが」

『フッフッフッ。今のところ好感度38といったところだ。これから徐々にデレていくとみた!』

「……根拠は?」

『お気に入りのエロゲキャラの攻略過程だ! ちなみに名前はアンジェリッタちゃんと言って……』

「あっそ……」


 ツッコむ気も相談する意味も薄れてきた裕太は、再び窓の外に思いを馳せる。

 地球は、いまどこで輝いているのだろうか。



 【2】


「これで今週三度目。今月に入ってから八回目か……」


 刺すような日差しの中、照瀬は首にかけたタオルで汗を拭う。

 倒壊した家屋の横に横たわる、先程まで相手をしていたキャリーフレームを見上げながら照瀬は電子タバコを手に持った。

 特有のミント風な味付けの煙が口内に充満し、白い息として住宅街の空へと消える。


「照瀬巡査部長、堂々とタバコ吸ってたらまた怒られるでありますよ?」

「いいだろ富永、電子タバコは無害なんだから。それに、こうも何度も愛国社とやりあってりゃ心も休まらねぇんだ」

「無害かどうかは研究段階で……って巡査部長! どこ行くでありますか!」

「予定があるんだよ。隊長には許可ももらってる。後片付けはお前が率先しろともな!」

「……わかりましたでありますぅ」


 納得がいかないといった風に不貞腐れつつ、現場へと駆けていく富永巡査。


 嘘は言ってない。

 もともと午後は非番の予定だったのに、反ヘルヴァニア組織・愛国社が事情も考えずに住宅街に発破をかけたから良くないのだ。


 格闘の際にバランスを崩した敵の〈ドゥワウフ〉が、避難の済んだ豪邸を一棟押しつぶした以外は完璧な仕事だった。

 ヘルヴァニア人らしい家主は泣いて悲しんでいたが、キャリーフレーム保険に入っていれば1グレード上の家に引っ越せる。

 入っていなければ犯人相手に損害賠償。

 大型ロボットの殴り合いが頻発するようになってから、社会もそれに合わせて変化していったのだ。


(しかし、奴ら……何でこのタイミングで活発になったんだ?)


 今月に入ってからの愛国社の活動は異常だった。

 原因を調べ、考えるのは警察の他所であり上層部。

 しかし、前線で何度も〈ハクローベル〉を振り回し連中を黙らせてきた照瀬にも、想像を巡らせるくらいの権利はある。


 笠本のところのガキや、富永と仲のいいガイやらが相手をしていた黒竜王軍。

 そいつらが姿を消したのと、愛国社の活動が活発になったのはほぼ同時。

 一本の線上に事象は並んでいるのだが、間を繋ぐ関係が見つからない。


「……俺が考えてわかるわけねえか」


 照瀬は頭をポリポリと掻きながら思考を放棄した。

 そうこうしているうちに約束の時間は目前。

 待ち合わせの場所へと、小走りで向かった。





  …………Bパートへ続く

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