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第32話「黒鋼の牙」【Gパート 悲しみの背中】

【6】


 それからはスムーズだった。

 基地を出た所は草原の真っ只中であったが、数分も歩いている内にハイパージェイカイザーで探しに来てくれた内宮とすぐに合流できた。

 そして縛られたままのシェンと共にコックピットに乗り込み、宮殿へとあっさり戻ってこれた。


「……で、何で俺はこんな扱いを受けてるんだ?」


 帰り着くと同時に紐のついた首輪をつけられた裕太は、紐の先を握るシェンに連れられて宮殿の廊下を進んでいた。

 時折すれ違う巫女服姿の女性たちから奇異の目でみられ、くすくす笑われながら歩いているのは、もはや一種の公開処刑だ。

 裕太の後ろをついてくる内宮も絶えずゲラゲラと笑い続けているのも、恥ずかしさに追い打ちをかける。


「なぁシェンはん。飽きたらその紐うちに貸してぇな。笠本はんを犬みたいに連れ歩くのごっつ楽しそうやん?」

「おいシェン。俺が人間としての尊厳を失う前に何とかしてくれ。逃げたりしないから」

「うるさい、うるさい! わらわを散々引き回しておいて何を言う! 第一、そなたがヤンロンの誘いを突っぱねたとはいえじゃ! まだ連中とつながりが無いとは言い切れぬ! じゃからこうして、わらわ自ら見張りの任を請け負っているというのに!」

「ぐえっ!! おいこら、引っ張るな!」


 なんで中学生くらいの女の子にこんな仕打ちをされなきゃいけないのかと思いながら、転ばないように廊下を歩いていく。

 そうこうしながら三人でたどり着いた部屋。

 シェンが「ここじゃ」と指差した先の看板には“湯殿”の文字が刻まれていた。


「湯……? 湯!? ってことはここは風呂か!?」

「アカンで、笠本はん! 男湯女湯で別れとらん! まさかシェンはん、三人で入るとか言うんや無かろうな?」

「はい? もちろん全員で入るのじゃよ」


 脱衣所のようになっている部屋に入るとともに、おもむろに身につけている巫女服を脱ぎ始めるシェン。

 上半身の白衣しらぎぬを脱ぎ捨て、下半身の緋袴ひばかまを籠へと投げ入れ、あっという間に彼女は一糸まとわぬ素っ裸になった。

 羞恥心が無いのかシェンは局部を隠しもせず、あわあわとする裕太と内宮の方を向き首輪の紐を引っ張る。


「そなた、何をしておるのじゃ。衣服をまとったまま湯を浴びるつもりではなかろう?」

「いや、まあそれはそうだけどさ……ほら、えっと」

「ええいもどかしい! 使徒様、こやつの服を剥ぎ取ってくだされ!」


 全裸のまま飛びかからん勢いのシェンを、内宮が「まあまあ」と抑えながら裕太から引き離す。

 そして内宮は何やらシェンに耳打ちをすると、納得したように首輪の紐を内宮に預けたシェンが先に浴場へと入っていった。


「何て言ったんだ?」

「うちが脱がすから先に入っとき言うたんや。えと……脱がしたろか?」

「自分でやるから内宮も隅っこの方で脱いでくれ」

「ええー? ここに来る前にあんだけ見せたんやし、いまさら恥ずいことないやろ?」

「見せたって言ったって下着止まりだろうが! 内宮も年頃なんだからもっと恥じらいをだな……」

「ジョーダンや冗談! ムキになるからおもろうてついつい、堪忍な!」


 そう言って脱衣所の隅へと歩き、巫女服を脱ぐ布擦れ音を出す内宮。

 彼女の方を見ないように努めながら裕太は手早く服を脱ぎ捨て、シェンが入っていった浴場へと足を踏み入れた。


 浴場の中は、豪華な銭湯といった風な景観となっていた。

 木々が美しく生え並ぶ中庭の見える大窓。

 その窓に隣接するように広大な浴槽には、壁から突き出た獅子の頭を模した彫像の口から湯が注がれている。


 タイル敷きの床を裸足で歩いていると、洗い場で裕太に背を向けていたシェンが「こっちじゃ」と手招きした。


「ほれ、せっかくじゃから背中の一つでも洗うてくれぬか?」

「何がせっかくだよ……」


 泡立ったタオルを手渡され、渋々シェンの小さな背中をこすり始める。

 見てはいけない部分が見えないように彼女の背中を注視しながらタオルを動かしていて、裕太はシェンの肌に浮かぶ異変に気づいた。

 それは、円状の傷の周りに火傷の跡が縁のように広がった銃創。

 シェンの左肩に3つ浮かんでいる傷跡は、あまりにも痛々しいものであった。


「シェン、この傷って……」

「ああ、それか。1年前のことじゃったかな……降臨祭の最中、反政府軍の者が神事を行うわらわに襲いかかったのじゃ」

「女帝じゃなくて、シェンが狙われたのか?」

「奴らにとってはわらわも敵よ。機械人形を駆り、連中の戦力をなぎ倒しておったからの。わらわを狙って放たれた弾は、女帝様……いや、母様が庇ったことで当たりこそすれ致命傷にはならなんだ」

「でもそれじゃあ、女帝のほうがヤバかったんじゃないか?」

「それが不思議なことに、母様は事件の後ピンピンしておった。思えば、わらわを庇ったのは母様の衣に身を包んだ姉様あねさまだったのかもしれぬ」


 姉様あねさま、という単語に裕太は基地でのやり取りを思い出した。

 その言葉を聞いたヤンロンは激高し、シェンは悲しげな表情を浮かべていたやり取り。


「よかったら、その姉様あねさまって人のこと教えてくれないか?」

「……よかろう。そなたももはや無関係な人間ではないしの」


 シェンは背中越しに、静かにゆっくりと語り始めた。





  …………Hパートへ続く

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