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第32話「黒鋼の牙」【Eパート 反政府軍基地】

 【5】

 

 空中を高速で飛行する黒い機体〈クイントリヤ〉の手の上から、下の景色を見下ろす裕太。

 豊かな緑をたたえる草原が通り過ぎ、景色は華やかに賑わう町の上へと移っていく。


「結構、賑わっているんだな」

「まあな。この国の人口は約300万、ここ以外にも色んな所に町があるし栄えてる。上とかな」


 ヤンロンが指差した上方を見上げると、雲の漂う円筒形コロニーの芯部分の向こうにも、足元の町のような景色がおぼろげに広がっていた。

 ここがスペースコロニーであることを再度認識しながらも、裕太の中に疑問が募っていく。


「そう言えば、この……〈クイントリヤ〉だっけ? この機体のパイロットの子も反政府軍なのか?」

「うん? ああ、こいつは借り物だ」

「借り物?」

「俺たちを後援してくれる外の連中が貸し与えてくれた戦力の一端だ。まあ、詳しいことは基地に戻ったら教えてやるよ」


 そう言って口を閉ざすヤンロン。

 会話が続かないので、再び眼下の風景に視線を移す。

 いつの間にか街を通り過ぎ、ぽつぽつと小さな小屋が点在する農村地帯の上を飛んでいた。


「よーし、そろそろ俺たちの基地だ。しっかり捕まってろよ少年」


 ガクンと〈クイントリヤ〉が高度を落とし、やがて草原の一角へと着地する。

 同時に、周囲の地面が沈み込むように降りていき、地下の空間へと降下していく。

 貧しい農村の風景は、一転して近代的なキャリーフレーム格納庫へと変わった。


「ようこそ、少年。我々“黒鋼くろがねの牙”の秘密基地へ」



 ※ ※ ※



 無機質な金属壁に囲まれた、会議室のような基地の一室。

 椅子に座り、果物ジュースと菓子のようなものを提供される裕太。

 傍らで、縄でぐるぐる巻きにされ床に座らされているシェン。

 宮殿での立場が逆転したような状況の中、裕太の正面に座るヤンロンが足を組んだ。


「さて、だ。気分はいかがかな? 笠本裕太」

「な……!? どうして俺の名前を?」


 名乗った覚えのない相手に本名を言われ、たじろぐ裕太。

 その反応が面白かったのか、ハハハとヤンロンが笑う。


「こんなコロニーでも、色々と情報は入ってくるもんだ。裕太くん、君は君自身が思っている以上に有名なんだぜ?」

「ってことは……ここに俺を連れてきたのも何か目的があるのか?」

「話が早くて助かる。単刀直入に言うと、二日後に催される降臨祭を襲撃する作戦に力を貸してほしい」


「ええい、このっヤンロンめ! 降臨祭を襲撃するなど、バチあたりも甚だしい!」


 足をジタバタさせながらシェンが声を張り上げると、ヤンロンは手に持ったサブマシンガンをシェンに向けトリガーを引いた。

 発射された弾丸が彼女の頭のすぐ側をかすめるように飛び、背後の壁に食い込み着弾の音を軽快に鳴らす。

 恐怖にすくんだのか、シェンは顔をこわばらせたままピタリと固まった。


「姫巫女さんよ、俺は客人と話してんだ。後で話には加えてやるからよ、それまで黙っててくれないか?」


 睨みとドスを効かせたヤンロンの迫力に満ちた言葉は、歓迎されている身の裕太の背筋をも凍らせる。

 すっかり静かになり、コクコクと頷くシェンに怖い笑顔を向けた後、ヤンロンは咳払いをして裕太の方へと向き返った。


「で、どこまで話したんだっけかな?」

「えっと……降臨祭がどうのとか」

「ああ、そうだそうだ。まあ簡単に説明すると、降臨祭ってのは年一度のおめでたい祭だ。そこで俺たちは、女帝を暗殺する」

「暗殺だって?」

「女帝ってのはこの国一番の偉いさんだ。そいつをぶっ殺すのが、俺達の目的なのさ」


 ある程度予想していたとは言え、こうも直球に言われるとゾッともする。

 なにせ今、裕太は強面の男から人殺しの手伝いをしろと頼まれているのだ。

 そしてその話を聞いて、恐怖で固まっていたシェンも黙っては居られなかったのか眉をキリリと吊り上げた。


「女帝様の暗殺のくわだてじゃと!? そのようなことをすればこの国は……!」

「そう、政治システムが完全に麻痺する。全権力をあの一人の女が握っているんだからな、当たり前だろう」

「そうやって民を混乱に陥れ、貴様らは何が狙いなのじゃ!? 女帝様を殺めた者たちに、民たちは簡単になびきはせぬぞ!」

「簡単な話だ。元の鞘に収まるだけだよ」

「元の鞘じゃと?」


 首をかしげるシェンを横目に、裕太の方へと振り返るヤンロン。

 彼はゆっくりと立ち上がり、裕太の前の机に手を乗せる。


「おかしいと思わなかったか? 裕太くんよ。この国が歪んでいることに」

「歪み?」

『文明レベルの古さと相反する、高度なキャリーフレーム運用技術の話ですか?』

「ああ、そうだ。ほう、喋る機械を持っているとは聞いていたが、なかなか賢いようだな?」

『お褒めに預かり光栄です』


 裕太は「褒めてねえって」と突っ込みたい衝動を抑えつつ、ヤンロンの話に耳を傾ける。

 そのことについては、裕太もジュンナも疑問に思っていたことだったからだ。


「話は何百年も前に遡る。俺たち光国グァングージャに住む連中の先祖は、もともと別の惑星に暮らしていた」

「ふん、国の成り立ちのおとぎ話じゃな? そのことは赤子でも知っておるよ。神の命により新しい大地に教えを広めるため、方舟を作り黒き海原に漕ぎ出した……じゃろ?」

「そうやって都合よく広まっているのがおとぎ話だ。本当はな、逃げ出したんだよ……ヘルヴァニア銀河帝国からな」

「ヘルヴァニアだって!?」


 裕太は驚愕した。



  …………Fパートへ続く

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