第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Hパート 星空の目覚め】
【8】
夕焼けを照らす輝きが消え、海上へと静寂が舞い戻る。
「ハイパージェイカイザー、竜騎士機……ともに反応途絶。ロストしました……」
動揺を隠しきれないオペレーターの報告を聞き終え、深雪は艦長帽を脱いだ。
同時に入る通信、モニターに映るフィクサの顔。
「やってくれたね、君」
涼し気な表情の裏に隠れているのは、失望か怒りか怨讐か。
見慣れた顔つきで出てきた想い人の目を、深雪はまっすぐに睨み返す。
「そちらの切り札は潰しました。もう切れる手はないでしょう? こちらにはまだ戦闘可能な機体を多数抱えています。それでもまだ勝負しますか?」
「驚きだよ。君のような子が、味方を切り捨てる判断を下すなんてね」
「……あなたのもとへは、いずれ顔を出します。それまでは、お元気で」
通信を切り、深雪は艦橋を立ち去った。
廊下へ出た彼女を、ふたつの紅の瞳が睨みつける。
「遠坂さん、笠本くんは……どうなったの?」
不調を押してでも問い詰めたかったのだろう。
青白い顔で深雪の服を掴むエリィから、大粒の涙がこぼれ落ちる。
「嘘よね……? 笠本くんが居なくなったなんて……。今から海に拾いに行くのよね……ねぇ!」
「あの人は、もうここにはいません」
「そんな……!」
膝から崩れ落ち、泣き叫ぶエリィ。
廊下の奥からは、悲痛な彼女の姿を遠くから見守るように進次郎たちが立っている。
「ですから、今から探しに行くんです」
「え……?」
「私は、空間歪曲砲でワームホールを開きました。この世界のどこかへと、彼らは飛ばされたはずです。彼は死んでいません、必ず生きています」
「────だから、探しに行くんです」
※ ※ ※
『………………………ぅ太、…………ゆ………』
「う……く……?」
『……裕太、起きろ裕太!』
パイロットシートの上で、裕太は目を覚ました。
ズキズキ痛む額を抑え、映像の映っていないモニターに投げ出されていた上体を起こす。
「ここは、どこだ?」
『わからん、私もついさっきエネルギー不足状態から復帰したところだ』
背後を見る。
気を失ったままの内宮の姿がそこにはあった。
手で揺するとうめき声を上げるのを見るに、息はあるようだ。
ホッと胸をなでおろしてから、裕太は切れていたコックピットの電源を入れる。
エネルギー残量の少なさを示す警告が浮かび上がる中、次々と点灯する周辺モニター。
そこに映し出されていたのは、星空だった。
「夜……か? 眠っていたのは数時間……じゃないよな?」
『裕太、下を見ろ!』
ジェイカイザーに促され、足元を見る。
そこに映し出されていたのも、星空。
右も、左も、上も、下も、すべての方向に暗闇に光の粒を撒いたような星空だった。
「ここは……宇宙なのか?」
『おはようございます、ご主人様』
「ジュンナも無事だったか。ここがどこだかわかるか?」
『少々お待ちを……』
ジュンナが黙って数秒して、後ろから物音。
どうやら、内宮に意識が戻ったようだった。
「んあ……なんや、ここ?」
「内宮、大丈夫か? いまここがどこかジュンナに調べてもらって──」
『わかりました』
「……調べ終わったところだ。で、ここはどこだ?」
『火星と木星の公転周期の間、小惑星帯メインベルトですね』
「火星?」
「木星?」
『めーんべる?』
「「『ええええええっ!!?』」」
ふたりと1機の絶叫が、コックピットに響き渡った。
───────────────────────────────────────
登場マシン紹介No.30
【メレオン】
全高:7.9メートル
重量:不明
黒竜王軍が運用する量産型無人魔術巨神。
二本足で立つカメレオンの獣人といった風貌をしており、頭部から球体部分が大きく飛び出たセンサー類が特徴。
制御系にかつて戦死した竜戦士の魂を宿らせることでコントロールしている。
青龍刀を思わせる形状をした鋼鉄の刀を持っており、切ると言うよりは重量で叩き折る方式ではあるものの、かなりの破壊力を持つ。
カメレオンの口に当たる部分には短射程の魔光弾を発射する機構が隠されており、超接近戦においては不意打ち的に発射することが可能である。
質より量を体現する運用を想定されており、稼働年数の長さから黒竜王軍の中でも最も機体数が多い。
【次回予告】
宇宙へと飛ばされた裕太と内宮。
ふたりは決死の思いで、発見した謎のスペースコロニーへとたどり着く。
コロニーへと入った裕太達が見たのは、古代中国を思わせる異国の風景。
唖然とする彼らに、ガンドローン付きのキャリーフレームが襲いかかった。
次回、ロボもの世界の人々31話「光国の風」
「待てよ、この状態はうちと笠本はんによるデートと言えるんちゃうか?」
「デートするならもっと気楽なところでするよ……」




