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第30話「炸裂! ダブルフォトンランチャー!」【Aパート エリィの血】

 【1】


 発見した戦艦が数時間の内に動かせた理由は、ひとえに保存状態が良かったのと臨戦態勢の状態で放置されていたからに過ぎない。

 そうでなければ、一晩の内に数分間とはいえ一戦闘をこなすまで状態を持っていくことなど不可能だからだ。

 しかし、そうなれば別の方向へと疑問が変わる。


 この戦艦──Ν(ニュー)-ネメシスと皆が呼ぶ船──を運用していた古代人たちは、どこへ行ったのか。

 あまりにも綺麗すぎる艦内、臨戦態勢だった艦の状態、そのどれもが推論に結びつく情報ではない。

 そもそも、この艦が戦う相手として想定していた「敵」は何なのか、戦いはどうなったのか。

 考えてもわからず、証拠になりそうなものもなく、宝探しにやってきた宇宙海賊軍一行はただただ艦の本格運用のための準備に日を費やすだけとなった。


『裕太、今日で島に来て何日目であったか?』

「丸一週間じゃなかったかな?」

『ぐうっ! こんなにかかるとわかっていたらアニメの録画予約をしていたというのに!』

「悔やむくらいなら最初から予約しておけよ……」


 Ν(ニュー)-ネメシスの個室のひとつで、ベッドに横たわりながらジェイカイザーと他愛もない会話をする裕太。

 福利厚生が充実している艦内には十分すぎるほどの数の個室が用意されており、元々のネメシスクルーに加えて裕太たちを含めた全員に割り当てても、部屋が余るほどである。

 その部屋もベッドに机と最低限の家具が一通り揃った八畳の広さで、部屋ごとにトイレ・バスルーム完備というまるで上質なビジネスホテル並の充実度だった。

 このような快適な空間が与えられれば、一週間も艦内で生活することに苦を感じることさえもない。


 そもそも、なぜ裕太達が一週間もこの艦にとどまっているのか。

 それはこの戦艦が現状帰るための唯一の足だからというのがひとつ。

 来る時に搭乗していたネメシス号は途中で修理を放棄され、資材や家具類はすべてキャリーフレーム総出でΝ(ニュー)-ネメシスに移送済みである。

 裕太としてもハイパージェイカイザーを置いて帰るわけにも行かず、かといって機体で飛んで帰ろうと考えれば人数が多すぎる。

 カーティスの機体である〈ヘリオン〉も人員輸送用のユニットを黒竜王軍の最初の攻撃で破損しており、帰りの乗り物にするには不安定すぎた。


 2つ目の理由は、黒竜王軍の存在。

 Ν(ニュー)-ネメシスの攻撃であれだけの兵力を損失したとあっても、相手は異世界の軍勢。

 彼らの世界から無尽蔵に兵力を補充できることを知っているだけに、裕太たちの戦力を今手放すのは危険すぎる。

 確かにこの戦艦Ν(ニュー)-ネメシスは単艦で凄まじい戦闘能力を有している。

 しかし、だからといって艦ひとつで膨大な敵を相手にするには継戦能力が足りない。

 長期戦を強いられれば、数が少ないほうが不利なのだ。


 時折、島の中心の町へと買い物にでかけたり、散歩をしたり。

 そうやって暇をつぶしながら過ごした一週間。

 抜けられない理由はわかっていても変化の乏しい毎日に、裕太はそろそろ退屈を感じ始めていた。


「今日はどうしようかな?」

『進次郎どのとトランプ勝負など』

「それは昨日やった」

『では、内宮どのと外出はどうであろうか?』

「おとといそれをやったせいで銀川が不機嫌になっただろうが」

『ご主人様、では埋め合わせをするようにマスターと何かなさってはどうでしょう?』

「いいアイデアだ、ジュンナ。じゃあ早速……」

『むむむのむ』


 気の利いたアドバイスが出せなかったことが不満なのか、不機嫌そうなジェイカイザー。

 と言っても、数分も立てば忘れてすっかり元気になるので放置し、廊下に出る。

 部屋の鍵をカードキーでかけ、隣室であるエリィの部屋へ赴こうとして、裕太は気づいた。


 エリィの部屋の前の床が、真っ赤な血で染まっていることに。




「銀川ッ!! 大丈夫か!!」


 力任せにドンドンと扉を叩き、呼びかける裕太。

 何者かに襲われたのか、あるいは事故で大怪我を負ったのか。

 最悪の過程がいくつも頭に浮かんでいく。


「50点、どうしたの!?」


 裕太が騒いでいるのが聞こえたのか、レーナが私室から駆けつけてきた。

 事情を説明しつつ床についた血を指差すと、レーナは「あんたはここで待ってなさい」とだけ言い、マスターキーを使ってエリィの部屋に入っていった。


 永遠のようにも思える数分間。

 再び扉が開き、出てきたレーナに裕太は掴みかからん勢いで中の状況を問いかける。


「銀川は、銀川は大丈夫なのか!?」

「ええ、心配はいらないわ。お姫様は、ちょーっと失敗しちゃっただけみたいだから」

「失敗? 何のだ?」

「男であるあなたには関係のない事柄よ。姫様ったらあんたには今の状態見られたくないって言ってたから、放って置いたほうが良いわよ」


 そう言い、立ち去るレーナ。

 あまりのあっけらかんとした態度に、思わず首を傾げる裕太。


『あ、もしかして……』

「ジュンナ、何か心あたりがあるのか?」

『思い出しました。周期的に今日はマスターのあの日です』

「あの日?」

『いわゆる女の子の日です』


 男である裕太でも、保険の授業で聞きかじる程度には習ったことがある。

 けれど、これほどおびただしい量の血が出るものとは思っていなかった。


『ご主人様がマスターとズコバコよろしくヤっていれば避けられた惨状でしたね』

「いやいや、それって止まったら止まったでヤバいやつじゃなかったっけ」

『まあ裕太は童貞であるから、止められた可能性はゼロだがな、わっはっは!』

「うるせー変態AI」

『なにおー!』


 ふたりの口うるさいAIに頭を悩ませながら、また今日の予定を考えるところまで戻された裕太は、頭を垂れて項垂れた。




  …………Bパートへ続く

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