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第29話「伝説の埋没戦艦」【Eパート 強襲 雹竜號!】

 【6】


 Ν(ニュー)-ネメシスの入り口へとつながるタラップを駆け下りたところで、エリィはナニガンを捕まえることが出来た。


「ナニガンさん! 今ものすごい勢いでジェイカイザーが飛び出していったけど、何かあったの!?」


 エリィの問いかけに、腰を抑えながら「まあまあ」と緊張感のない声で返すナニガン。

 風呂上がりに艦内を探検していたところで突然、窓の外にあったジェイカイザーが飛び出していったのだ。

 何事もないはずがないのは、エリィでもわかっていた。


「今、黒竜王軍ってのが目一杯こっちに来てるみたいだねえ」

「ってことは、笠本くんが危ない!?」

「それよりも、ここのほうが危険かもだね。なにせ、レーダーに数えきれないくらい敵影が映ってるんだからね」

「……その割には、落ち着き払っているっぽいけれどぉ?」


 朗らかな笑みを浮かべるナニガンが何を考えているかは、ExG能力でも察せられなかった。



 ※ ※ ※



『到着だ、裕太! 待たせたな! 状況は!?』

「フィクサの奴、黒竜王軍のスパイだったみたいだ! 信じたくはないけどよ……」


 砂浜に降り立ち、かがむハイパージェイカイザー。

 プシュー、と気密が解ける音とともにコックピットハッチが開く。


「その話、本当ですか?」


 開いたコックピットハッチのサブパイロットシートから聞こえたのは、深雪の声だった。

 小柄な幼い体格に見合わない大きな椅子に、ちょこんと正座で座っている。


「遠坂……!? どうして君が」

「この機体について理解を深めようと中に潜り込んでいたんです。それよりも、フィクサさんが敵だなんて」


 表情こそ冷静そのものであったが、声は震えていた。

 無理もない。彼女が父への復讐を止め、前向きになったきっかけとなったのはフィクサのおかげなのだ。

 新しい自分を肯定してくれた恩人が敵だとは、認めたくない気持は痛いほどわかる。


「間違いや冗談であってくれと俺も思ってるけど、フィクサと戦わざるを得ないのは確かだ。遠坂は降りて……」

「いえ、私にも手伝わせてください。あの人の本心を、自分の耳で聞きたいんです」


 覚悟の決まった少女の目に、敬意を評して頷く裕太。

 そのままコックピットハッチを駆け上がり、シートへと腰を下ろす。

 操縦レバーに手をかけ、指先に走る刺激とともに神経を機体と一体化させる。


「行くぞ、ジェイカイザー!!」

『おう!』


 ペダルを踏み込み、ハイパージェイカイザーを飛翔させた。

 海上で滞空していた〈雹竜號ひょうりゅうごう〉の正面へと、高度を上げる。

 向き合い、互いに剣を抜き、刃が走った。


「今日こそ決着を付けるぞ、笠本裕太!!」


 つばぜり合いをする双方の剣が火花を散らす中、通信越しに響くグレイの声。

 しかし、今の裕太にはそっちは本命ではない。


「フィクサ! お前が黒竜王軍のスパイだったなんて、認めたくねえぞ!」

「素性の知れぬ若者を、勝手に信頼したのが君たちの失敗だよ。僕は自分の役目を全うしているに過ぎない」


 抑揚のない冷静な声。

 あくまでも自然体なフィクサの姿が、そこにあった。


「じゃあ、私に声をかけてくれたのも、父への復讐を止めたのも作戦だったんですか?」

「……君がその機体に乗っているとはね」


 初めて、フィクサの声に動揺が走ったように聞こえた。

 深雪にとってそうであるように、フィクサにとっても彼女の存在は敵組織の一員以上の何かがあるようだ。


「答えてください、フィクサさん! 私に言った言葉は……あの微笑みは嘘だったんですか!?」

「ああ! そうだとも! 君たちの中に入り込むための作戦さ! 名演技だったろう!?」

「嘘ですね、あなたは優しい人です。声を荒げているのが、何よりの証拠ですよ」

「僕の何がわかる! 君のような幼子が!」

「わかりますよ。だって私はあなたの背中のぬくもりを……この肌で感じていましたから」


 激しい舌戦が繰り広げられる中、裕太は必死に戦っていた。

 目にも留まらぬ素早い剣戟を、ジェイブレードで受け止め、切り払う。

 フィクサと深雪、二人の事情が落ち着くまでは決着を先延ばしにせざるを得なかった。


 距離を取り、手から無数の氷柱を機関砲のように放つ〈雹竜號ひょうりゅうごう〉。

 すばやく横方向へとバーニアをふかし、フォトンシールドで保険をかけながら回避行動を取る。

 反転して射撃モードでジェイブレードからフォトン弾を発射。

 しかし空中に作り出された氷壁に阻まれ、空中で光弾が氷とともに弾け消失する。


 互いに息もつかせぬ攻防。

 しかし、その緊張はグレイの側から崩壊した。


「おいフィクサ。今のあの子の発言は何を意味している?」


 あの子、というのは深雪のことだろう。

 グレイとフィクサの言い争いが、ダダ漏れの通信越しに響き始める。


「勘違いをしないでくれるかなグレイくんよ! ただちょっとおんぶして運んでいただけだ!」

「ひとり街へと繰り出す私をストーキングしてきた癖に……」

「フィクサ、貴様遅いなとは思っていたが、まさかロリコン行為に勤しんでいたとはな!」

「誤解だ! 誤解だぞ!!」


「……なにこの状況」

『さあ?』


 紛れもなく、死闘をしているはずだった。

 しかしいつの間にか向こうの方でフィクサの糾弾会が始まりつつあり、深雪が隙あらば燃料を投下している。

 したたかな子だとは思っていたが、これほどとは。


『ご主人様、チャンスです。畳み掛けましょう』

「父の前で言ったじゃないですか。娘さんは任せてくださいと」

「いや、あれは泣きつかれた君を運ぶことだって!」

「フィクサぁ! 俺がどれほど貴様が居ない間に苦労をしていたと思っている! だと言うのに貴様は幼女に色目を使っていたのかぁぁぁっ!!」

「話を聞いてくれぇぇぇぇ!」


『そう畳み掛けろと言ったつもりはなかったんですが、今です』

「おうよ、隙あり!!」

「なっ!!」


 もめている最中、どんどんグレイの操作精度が落ちていっているのが目に見えていた。

 ハイパージェイカイザーの放った一閃が守りを抜き、〈雹竜號ひょうりゅうごう〉の右腕を切り落とす。

 胴体から離れた腕が海へと落下し、眼下で小さな飛沫となる。


「舐めるなぁっ!!」


 次の瞬間。

 腕の断面から白い冷気を吹き出したかと思うと、切り落とされたはずの部分がニョキニョキと切り口から生えてきた。


「甘いな、笠本裕太! この〈雹竜號ひょうりゅうごう〉は機体のほとんどが氷で構成されている!」

「ええい、ビックリドッキリメカめ!」

「なんとでも言うが良い!」


 裕太が再生能力に驚愕していた一瞬の間に、肩部のユニットを展開する。

 やばい、と思った時にはすでに白い風が吹き出し始めていた。


「喰らえ、デュアルブリザード!」


 2つの巨大な吹雪の竜巻を放つ〈雹竜號ひょうりゅうごう〉。

 回避の暇もない突然の大技に、ハイパージェイカイザーはその身を氷に包まれながらも砂浜に叩きつけられてしまう。

 レバーをガチャガチャと倒し、ペダルを踏み込む裕太。

 しかし、まるではりつけにされたかのように砂の上から浮き上がれなくなっていた。


「があっ……!」

『身動きがとれないぞ、裕太!』

「ふぅ……。敵の動揺を誘うことには成功しましたが、ピンチですね」

「冷静だねぇ遠坂……。さて、どうするか」


 知恵を絞って、なんとかこの氷の楔からハイパージェイカイザーを解き放つすべはないかと考える裕太。

 考えを巡らす悠長な時間があるのは、ひとえにグレイがなぜか追撃をしてこないからだった。

 繋がりっぱなしでダダ漏れである通信越しに、グレイとフィクサの声が聞こえてくる。


「おいフィクサ、なぜとどめを刺させない!」

「僕が無実であるという証明のためさ。今まさに、僕が突き止めた埋没戦艦の在り処へと魔術巨神マギデウスの大軍が向かっている。あの艦が君の友達を薙ぎ払っているところをその氷の牢獄の中から見ているが良い!」

「……お前って、意外と趣味が悪いんだな」

「散々ロリコン呼ばわりしておいて、今更何だ」


 いよいよ悪役のようなセリフを吐き始めたフィクサに、更生の余地はないなと裕太は直感で察した。

 それに、今の話が本当ならばエリィ達が危ない。

 焦る裕太の後ろで、深雪は呑気に腕を上げ、うーんと伸びをした。


「冷静にもほどがないか? このままじゃΝ(ニュー)-ネメシスが……!」

「大丈夫ですよ。だって……」

『だってとは?』

「だって、あそこは戦略上……落ちようがありませんから」



  …………Fパートへ続く

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