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第29話「伝説の埋没戦艦」【Bパート Ν-ネメシス】

 裕太は半開きの扉から身をよじらせ、未開の空間へと足を踏み入れた。

 いつでも驚ける準備で心を平静に保ちながら、手招きでフィクサに合図を送る。


 入ってきたフィクサが手に持ったランタンを上に向け、揺れる光に照らされて部屋の輪郭が浮かび上がっていく。

 正面に遺跡の壁面が見える大きな窓。

 計器類が並ぶ前に点在する椅子。

 一段高い部分に据え付けられた立派な席。


「ここは……この艦の艦橋みたいだね」

「廊下などと同じく、ここもかなり綺麗ですね」


 そう言いながら、深雪が艦長席と思しきシートに登って腰掛けた。

 そして彼女は、自らの尻の下に何かがあることに気づいたようで、それを手にとり表面を指でなぞる。


「深雪さん、それはなんですか?」

「……本、のようですね」


 ランタンの明かりがメガネのレンズで反射する中、深雪が椅子の上でパラパラと書物のページをめくり始めた。

 裕太たちも、その書物を側から覗き込む。

 そこに描かれていたのは、船の内装と思われるモノクロの図面と、端に印字された日本語だった。


「……どうやらこの本は、私達が今いる戦艦の取り扱い説明書のようですね」

「説明書ったって、なんで日本語なんだ?」

「さあ……。そもそもこの言語は日本だけでなくヘルヴァニア、タズム界でも使われてますし、どこが発祥かはわかりかねますね」


 そう言いながらページを次々とめくる深雪。

 しばらく淡々とめくっていると、1つのページを見てサツキがストップをかけた。

 そのページには『敵』という文字とその横に描かれた一つ目の怪物の絵。


 怪物の外見は球体のような胴体に大きな目玉がひとつ、そして目の下には牙のある大きな口。

 ファンタジーゲームで見るような、浮遊する目玉のモンスターを彷彿とさせるシルエットだった。


「えーと、このページが何か?」

「あの、あの! この子がかわいいなって、思ったんです!」


 サツキの無邪気な言葉に、一同はガクッとずっこけかけた。

 まあ、彼女は水金族であるから、多少趣味や価値観が人間と違ってもしょうがない。


 サツキのボケに緊張感を削がれながらも、改めて怪物の描かれたページを見る。

 敵、と書いてある以上、この戦艦が戦う相手として想定した怪物なのだろう。

 書かれている情報は少なく、外見程度しかつかめなかったので、深雪は再びページをめくる手を動かし始めた。

 

「おや? このシートのこのボタンを押すと、明かりがつくようですね」


 説明書の一点を指していた彼女の細い指が、椅子の側面のボタンをパチリと鳴らす。

 すると、白く淡い光が天井から振り始め、周囲が薄暗いながらもランタンが不要な程度には明るくなった。


「……まだ暗いな?」

「この明かりは予備電源によるものだからのようです。完全に明るくするには──」


「きゃああっ!?」

「銀川っ!?」


 エリィの悲鳴に振り向くと同時に、半開きだった扉が横にスライドし開く。

 いの一番に飛び出したエリィが、裕太の腕に抱きつき、ふるふると震える。

 廊下の方に目をやると、そこにはなぜか抱きつきあってる内宮とレーナ、それから廊下の隅で縮こまってる進次郎の姿があった。


「な、何があったんだ?」

「急に明るくなったから、ビックリしたのぉ……」


 涙目で震えるエリィに、裕太は呆れのため息で返答した。




 【3】


「わかったことがいくつかあります」


 説明書の背表紙を閉じた深雪が、腕の中にその分厚い本を抱えたまま艦長席を飛び降りる。

 着地の衝撃でズレたメガネを指で押し上げてから、この場にいる皆の顔を見渡した。


「まずひとつ、この艦は敵──説明書に描かれていた怪物を倒すために作られた戦闘艦であること」

「ああ、あのかわいい動物ですね!」


 そう思っているのは君だけだろう、という視線を一手に受けながらも、サツキはニコニコと笑顔を崩さない。


「あの怪物については、後でエルフィスにでも聞くとするか。他にわかったことは?」

「はい。この艦は特殊な動力により動くことです。これに関しては後で技術者の方々を交えて説明します」


 特殊な動力。

 わざわざ特殊な、とつけるあたり単純な化石燃料とか電気的な方面ではない何かなのだろう。

 とはいえ、ひごろ裕太が乗っているジェイカイザーの動力であるフォトン・リアクターも特殊に該当する動力なので、驚きは特に少ない。


「他には?」

「この艦の名称と思われるものが……金食い虫なことです」

「かねくいむしぃ?」


 おおよそ艦名とは思えない格好のつかない単語に難色を示したのはナニガンだった。


「えーと、それってさ。この艦がなに? 金食い虫号とか書かれてるってことかい?」

「これが建設中の暗号なのか、あるいは蔑称や愛称なのかは定かではありません。しかし、金食い虫としか書かれていませんでした」


 おそらくは、建設に莫大な金がかかったとか、そういう理由なのだろう。

 しかし戦闘艦の名前が金食い虫というのは、もしこの戦艦を運用するのであれば気が引ける名前ではある。

 艦名は指示の中で何度も呼称される単語なのだ。

 それが格好悪かったり、緊張感を削ぐような名前だと士気に影響も出てしまう。


 皆で頭を抱えていると、エリィが手のひらを合わせてパンっと鳴らした。


「じぁあ、名前をつけましょうよぉ! あたしたちが見つけた艦だもの、名付ける権利はあるはずよぉ!」

「お、銀川いいこと言うじゃないか。でも、戦艦の名前か……」


 さあ名付けよう、としてすぐに名前が思い浮かぶものではなかった。

 名前は一生モノ。安易につけるものではない。


「クックック、これだから凡人はダメなのだ」

「おい進次郎、そう言うからにはなにかアイデアがあるんだろうな?」

「当たり前だよ裕太。天才的な僕からは、ネメシスという単語を使うことを奨励するね」


 ネメシス、というのはナニガンたちの艦の名である。

 いまでこそズタボロで浜に置かれているが、その力でここまで来た自分たちにとって、たしかにその単語は魅力があった。


「なるほど、ネメシス2番艦、みたいな感じですね」

「それだと無骨よぉ。ほら、スーパーネメシスとか?」

「姫さま。それはちょっと安っぽくない? わたしならネオネメシスとかいいと思うけど」


「ニューネメシス、はどうでしょうか」


 女性陣が次々と案を出し合うなか、その提案をしたのは深雪だった。


「ニューって、英語で新しいを指すNEWかい?」

「それもありますが、ギリシャ文字のΝ(ニュー)というのは13番目の文字です。ネメシス号は元々エウロパ級第12番艦なので、その次なら合うと思ったんです」

「……エウロパ級第12番艦? そりゃあ、おじさん知らなかったなぁ。あっはっは」

「……自分の艦の来歴くらい、調べてくださいよ」

「いやはや、もとは中古で買った艦だったからねぇ。っちゅーこって、どうですかい?」


 ニューネメシス、もといΝ(ニュー)-ネメシス号といったところか。

 響きもよく、由来もしっかりした名前に反対を上げる声はなかった。

 提案した名前が採用されたのが嬉しかったのか、深雪の表情がすこしはにかんだ。


「さて、命名も終えたことですし……動力の調査に向かいましょうか」

「深雪ちゃん熱心ねぇ。あたしたち、ちょっと疲れちゃったわぁ」

「……急ぎたい理由があるんです。もしかするとこの艦、金食い虫どころか人喰い艦の可能性もありますので」

「「「人喰い!?」」」



  …………Cパートへ続く

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