第29話「伝説の埋没戦艦」【Aパート 遺跡の宇宙戦艦】
【1】
「どうして、こんなところに戦艦が……!?」
ジェイカイザーのコックピットの中から、裕太は驚愕の声を上げる。
ネコドルフィンが巣にしていた遺跡の奥深く、広大な空間の壁の奥に佇むそれは、紛れもなく近代的な宇宙戦艦であった。
「妙だな裕太……。この島は異世界から転移してきた島なのだろう? それにしてはあまりにも……」
後方のサブパイロットシートに座る進次郎の疑問はもっともだ。
この遺跡は、野生のネコドルフィンが入り込んで住処にしてはいる。
しかし人が訪れたような形跡は残っておらず、しかも壁の奥にこのような巨大戦艦が存在するのは、あまりにも不自然だ。
理解の追いつかなさに、裕太は無意識に栗毛を掻きむしった。
※ ※ ※
ネメシスの整備班の一部とナニガン、そして魔法騎士エルフィスが到着した。
先ほどまで、〈ガーディアン〉という魔術巨神と戦っていた広場に、テントの設営が次々と開始される。
急な事態にもかかわらず、怯えるわけでもなくネメシスの乗員らと遊ぼうとするネコドルフィンたちだけが呑気な空間。
そんななか戦艦を見上げ、感慨深そうな口調で魔法騎士エルフィスが呟く。
「まさか、古代マシナギア文明の遺跡がこの島にあったとは」
エルフィス曰く、古代マシナギア文明とは異世界《タズム界》に存在する超古代文明らしい。
機械種族であるエルフィスの先祖を創造した文明でもあり、その先進技術は異世界《タズム界》にとってもイレギュラーな存在だそうだ。
「ふわぁ……おはようございます」
「あ、深雪ちゃん起きたのねぇ」
眠る前は遠坂艦長のいた空きビルだったのに、ここはどこだという質問もせず、深雪がフィクサの背中から降りる。
メガネの下の眠気まなこをこすりながらあくびをする姿は、彼女には珍しい年相応の少女の姿だった。
……とはいえ、先程の戦闘の真っ只中でも起きなかった熟睡っぷりは常軌を逸しているが。
「やあやぁ。君たち、お手柄だったねぇ。お手玉、お手柄、追手から。なんてね、ハハハ」
得意のなんとも言えないギャグを言いながら裕太たちに近づいてきたのは、腰を片手で抑えながら歩くナニガンだった。
娘であるレーナが駆け寄り、労るように彼の腰を優しげにさする。
「パパ、腰は大丈夫なの?」
「なんとかなってるよ。それよりレーナ、そんなことされると介護老人になったみたいで、少し嫌だなぁ」
「なに言ってるのよ。パパは歳なんだから、介護してくれる相手がいることをありがたがらなくっちゃ」
艦長としての威厳が失われつつある──最初からそんなものは無かったかもしれないが──ナニガンは、懐から何か容器のようなものを取り出し、手に持ったライターで中に火をともした。
揺らめくオレンジ色の明かりが裕太たちの後ろに影を写し、その輪郭をふわふわともてあそぶ。
「ナニガン艦長、それは?」
「ランタンだよ。古風でいいだろう? よし、少年少女諸君。ここはひとつ戦艦探検といこうか」
にこやかな笑顔で、古風なランタンを戦艦へと掲げた中年に、裕太たち若者一同は顔を見合わせて、首を傾げた。
【2】
コツコツ、と硬い足音が暗闇の中にこだまする。
ナニガンの持つ、前時代的な揺らめく明かりに照らされた白く無機質な壁。
長期間放置されていたにしては、あまりにも綺麗すぎる廊下を、深雪の手を引きながらフィクサは進んでいた。
「ねぇ、笠本くん。と、突然上からエイリアンが降ってくるとか、ないわよねぇ……?」
声を震わせながら、エリィが裕太の肩を掴んで怯えている。
言われて怖気が走ったようで、裕太の動きが途端にぎこちなくなった。
「こ、こわいこと言うなよ銀川。なあフィクサ、お前は平気そうだな?」
「まあね」
涼しい顔で返答するフィクサであったが、その心中は穏やかではなかった。
この戦艦についてもう少し情報を得ようと探検に参加したのまではよい。
しかし、何が悲しくて暗闇の中をランタンなどという不安定な明かりで進まなければならないのか。
日頃、おどろおどろしい黒竜王軍の装飾に囲まれて過ごしていたフィクサであっても、このようなお化け屋敷的な恐怖には弱かった。
しかし、横を歩く幼い深雪が平気な顔で歩いているのにビビっているとバレたら面子に響く。
内心ガクガクと震えながらも、その感情を一切外に出すことなく、フィクサは表情を歪めぬまま歩を進めていた。
「進次郎さま、怖かったらわたしに抱きついてもいいんですよ?」
「進次郎さんは強い人ですから、そんな心配は不要ですよ!」
「そ、そうだねサツキちゃん……」
「何かが出たら笠本はんに飛びついたろ……!」
「ちょっとぉ、内宮さん聞こえてるわよぉ」
『ジュンナちゃんも……』
『結構です』
「ええいうるさいぞお前ら」
後方でいちゃつく男女の声。
彼ら彼女らの中で三角関係がふたつも出来上がっていることは周知の事実である。
このような状態でも恋愛という三大欲求の一角に関わる感情は、恐怖を押しやれるのかとフィクサは呆れて額に手を当てる。
若者たちの痴話を聞き流して歩いていると、廊下の突きあたりぶつかった。
行き止まりではなく、横にスライドするタイプの白い扉が半分口を開けており、その奥では暗闇が手招きする。
今までも廊下の途中に扉はいくつかあったが、物理的なロックがかかっているのか、男手を結集してもびくともしなかった。
初めて入れる廊下以外への入り口に、ナニガンはカンテラで照らす高さを変えながら、ふぅむと小さな声を出す。
「おやおや、この部屋以外は入れないっぽいけれど、誰から入るかい?」
ナニガンがいたずらっぽい笑みを浮かべながら、振り返って問う。
それまで色恋を意識する余裕を見せていた女性陣の表情がが固まり、ぶんぶんと首を横に振る。
結局、去勢を張っているフィクサと、勇者の自覚があるのか震えながらも名乗り出た裕太。
そして平気な顔で手を上げた深雪とサツキの4人で部屋に突入することになった。
…………Bパートへ続く




