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第28話「央牙島の秘密」【Dパート 秘密の事実】

 【5】


 意気揚々とサツキと飛び出したはいいが、情報を手に入れるすべがなく一度ネメシスへと戻ったエリィ。

 ふたりで砂浜に腰を下ろし、夕日の沈む水平線を見ながら、コンビニで買ったペットボトルのジュースに口をつける。


「何一つ手がかりがない状態から、探すなんて無理よねぇ。ExG能力でピーンと来るかな? って思ったんだけどぉ」

「他の人も頑張ってますから、のんびり行きましょう! あ、ネコドルちゃんあまり離れちゃダメですよ」

「カニさんニュイ~」


 砂浜を横歩きで駆け抜けるカニと戯れるネコドルフィンに目を移しつつ、エリィは深雪のことを考える。

 父親同士が仲の良い友人である遠坂家と銀川家。

 エリィも向こうの家族がいかに中の良い家族であったかは知っていた。


「どうして遠坂のおじさま、あんなことしちゃったのかしらぁ……」

「私、知ってますよ?」

「そうよね。金海さんに聞いても仕方が……って、え?!」


 衝撃のあまりつい手に持っていたペットボトルを落としてしまうエリィ。

 カニを諦めたネコドルフィンが柔らかい頭でペットボトルを受け止め、勝手に飲むのも気にせずエリィはサツキへ詰め寄った。


「ど、どうしてあなたが知ってるのぉ!?」

「水金族のネットワークを通して、太陽系内の大体の事情は知っているんです。トーサカってひとのことについても、私の母の記憶の中にありました」

「それで、どうして遠坂のおじさまは……」

「それは、ひとえにExG能力の起こした悲劇だったのかもしれません。トーサカさんの息子さんは、あるとき木星圏の外れで起こった異常を確かめるために自分の艦隊を動かしました。当時、それはそれは凶悪な宙賊がいたらしいので、小さな異変にも戦力を割かなければいけなかったそうです」


 サツキの口から、まるで昔話の朗読をしているかのように当時の状況が話されていく。


 トーサカの息子さんは、異常をのあったエリアにたどり着くと、とても驚きました。

 なぜなら、警戒していた凶悪な宙賊が彼らの船ごとバラバラになっていたからです。

 彼らは、破壊された宙賊の船へと調査隊を送りました。


 しかし、その調査隊からの連絡はすぐに絶たれてしまいました。

 何かあったに違いないと、トーサカの息子さんはしっかりと武装を固めた人たちを大勢、宙賊の船へと送りました。

 ですが、彼らもまた通信が途切れてしまいました。


 その時です、船からとても多くの、強い恐怖の感情がトーサカの息子さんに流れ込んできました。

 トーサカの息子さんはとても優れたExG能力を持っていました。

 しかし、優れたExG能力は人の感情を強く鋭敏に感じ取ってしまうのです。

 大勢の人間の、それも底知れない恐怖の感情を一度に受けてしまったトーサカの息子さんは耐えられるはずもなく、自らもまた恐怖によって暴走を始めてしまいました。

 目に映るすべてを命を狙う敵とみなし、彼は銃口を、大砲を……味方に、仲間に向けて撃ってしまいました。



 ※ ※ ※



「……私が問題の宙域に到着したとき、モニターに映し出された息子のいる艦橋は、死体の山となっていた。私は、私の艦へと砲口が向けられたとき……攻撃指示を出した」

「だから、兄さんを……」

「もはや、あいつに人の心は残っていなかった。私は、私と部下の命を守るために息子を撃ったのだ」


 重い沈黙が、ビルの一室を包み込んだ。

 想像以上の壮絶な事実に、この場にいる誰もが言葉を失っていた。

 フィクサだけ、ひとり表情を崩さずに耳を傾けているようだった。


「あいつは自我を失う前に、家族用の連絡回線にひとつのテキストを残していた」

「ひとつのテキストとは、何だったのですか?」


 フィクサが問いかけると、深雪が携帯電話を取り出し、その画面を裕太たちに見せる。

 そこには、チャット画面の最後に「オウガジマテキハソコニ」とだけ書かれていた。


央牙島おうがじま、敵はそこに……?」

「私は騒動の元凶となった存在が、この島にいると考えた。相手は未知の敵かもしれん。どんな危険があるかもわからない。だから、私は一人でその正体を確かめに、ここへと来たのだ」


 遠坂艦長が腰を下ろし、事務椅子に座り込む。

 ギシリと錆びた金属の擦れた音が、彼の話に相槌を打つ。


「しかし、この島は平和そのものだった。島は荒くれ共の集まる場所ゆえ小さな諍いこそあれど、凄腕の宙賊を葬るほどの敵がいるとは思えなかった」

「ということは……」

「私は未だ、目的を果たせていない」

「……事情はわかりました」


 深雪が俯きながら、声を震わせる。

 ぽたりぽたりと、彼女の顔から雫が落ち、ホコリまみれの床に小さな水たまりを作り出した。


「けれど、だったらどうして。どうして一言、私達に言ってくれなかったんですか……? せめて、何かひとつでも言葉があれば、母さんは死ななかったかもしれなかったのに……!」

「……すまない」


 不運に巻き込まれた、不器用な親子の、不幸なすれ違い。

 座り込み、声を殺してすすり泣く深雪が、年相応に大きな声を上げて泣けないことに、彼女の苦労がにじみ出ていた。



  …………Eパートへ続く

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