第28話「央牙島の秘密」【Aパート 上陸】
【1】
波の音とカモメの鳴き声がこだまする静寂の空間。
場所が場所ならリゾート施設が立ってもおかしくない、央牙島の白い砂浜。
その一角に、多数のキャリーフレームに支えられたボロボロの艦艇が挫傷するように砂へと食い込んだ。
「ふう。50点や他のみんなご苦労さま。深雪、そっちはどう?」
「とりあえず安定しているみたいです。レーナさんたち、ありがとうございます」
ひとまずは一件落着ということらしい。
損害により航行機能を失った戦艦ネメシスは、ここで宝探しをしながら修理をすることになった。
甲板からワラワラと修理のために整備班が現れ、攻撃を受けて大破している主砲の方へと集まってゆく。
「笠本はん、修理する言うてたけど大砲から直すんか?」
「なんでも、いつまた襲撃があるかわからないから武器が先なんだと」
『けれど、キャリーフレーム隊総出でこんな無茶をしたんですから。この機体は大丈夫でも他はしばらく修理が必要と思われます』
さっきまで艦を支えていたキャリーフレームたちが、ひしゃげた入り口から格納庫へと入っていく。
見ればどの機体も、肩やら腕やらが歪んでおり、関節から火花を出している機体もある。
映画じゃあるまいし、こんな大質量の物体を支えようとすればこうなるのも無理はない。
『よし、では我々は着陸するぞ!』
一方、腕部どころか全身正常のジェイカイザーが声を張り上げる。
「ふっふふふ、笠本はんと一緒に宝探し……!」
後ろでExG能力がなくてもウキウキしているのが見て取れる内宮の姿に呆れながら、裕太はペダルの踏み込みを調節し、なるべく砂を巻き上げないようにネメシスの側にハイパージェイカイザーを着地させる。
そのまま機体を片膝立ちの体制にさせ、コックピットハッチを開いて砂浜に足を踏み入れる。
「なあ笠本はん。まずはどこから──」
「ちょっと、あたしを忘れないでくれる?」
砂の上に降り立った裕太たちの前に、不機嫌そうな顔で腕組みをするエリィが立ちはだかった。
その怒りの矛先が内宮であることは明白なので、裕太は涼しい顔で「よう」と声を掛ける。
「笠本くんはあたしと宝探しするの!」
「はん、うちの方が役に立つでぇ! なあ笠本はん!」
『裕太! 女子高生ふたりに取り合いになるなんて羨まけしからん! ジュンナちゃん、私はいつでもウェルカムだからな!』
『では、今度分離したらビームをその頭部へと打ち込みますね』
『いや、ウェルカムというのはそういう意味ではなく……』
ふたりと2機の喧嘩漫才に挟まれ、はぁ……とため息を付きながら肩を落とす裕太。
去年までこんな気苦労とは無縁の生活を送ってたはずなんだけどなあと思いながら、同じくそう思っているであろう人物の方へと目を向ける。
「進次郎さま~! あたし、かわいい水着持ってるんです! 見せてあげましょうか!」
「水着姿なら、進次郎さんは海水浴で私のを見たことがありますよ!」
「しおかぜニュイ~」
「進次郎さまは、もっとあたしみたいなスタイルのいい子の水着姿のほうがみたいに決まってるわ!」
「スタイルなら私だってやろうと思えばボンキュボン? ってやつになれますよ!」
「うみのにおいニュイ~」
「裕太~~~助けてくれ~~~~!」
情けない顔で助けを求める親友に憐れみの眼差しを送っていると、遅れて降りてきた深雪が砂に足を取られながらクルーを引き連れて出てきた。
まるで修学旅行の引率の先生のように集合をかける彼女の前に、裕太たちもなんとなく二列に並ぶ。
体躯に見合わない大きな拡声器を持ち上げた深雪が、大きく息を吸う。
「みなさ」キーーーーーン!
突然、浜辺中に響き渡ったハウリングにこの場の全員が耳を抑えてつんのめる。
自らの失敗に恥じているのか、深雪が赤面しながらコホンと咳払いをし、再び拡声器を両手で構えた。
「みなさん、臨時の艦長を務めさせていただいた遠坂深雪です。ぎっくり腰を療養中のナニガン艦長からの連絡を代行させていただきます」
わざわざ言わなくてもよい病名を言ったり、前置きを言ったりするあたりに生真面目な深雪の性格が出ているように思える。
ナニガンから渡されたメモ用紙か、台本かは定かではない紙を一枚取り出した深雪がその内容を読み上げ始めた。
「えーと。キャリーフレーム隊のA班とB班が半日交代でネメシスの護衛に回ること。それ以外の面々は宝の情報を集めるように。なお、島内にライバルを出さないように情報の集め方には留意すること。それから一人ひとりがネメシスのメンバーであることに自覚をもって、恥ずかしくないように過ごすこと。以上です」
まるで終業式の校長先生みたいな締めをもって、深雪がぺこりと一礼する。
裕太の頭の中では、宝探しをしなければいけないのに、その情報を集めるために宝であることを伏せなければならないとは難しいな、ということでいっぱいになった。
一方、両脇では睨み合う二人が「先に情報を手に入れたら」「笠本はんはいただくで!」と勝手なことをのたまう。
「勝負よぉ!」「勝負や!」
「勝負ですよ!」「ニュイ!」「しょーーーぶ!!」
後方の進次郎の方からも似たようなやり取りがあったのか、かくして一人の男を取り合う女二人が2グループ、気の合う仲間とつるみはじめた。
片方のグループはエリィとサツキ。
これは普段から学校でも仲良くしている友人同士なので、この組み合わせはある程度予想がつく。
もう片方、こちらは内宮とレーナ。
荒っぽい同士というか、なにか波長が合ったのだろう。
突き出した拳を合わせるという、男の友情めいた儀式と共に意気投合したようだ。
こうして、よくわからないまま裕太と進次郎は両手に花とは名ばかりの監獄から割とすぐに解放された。
「よし、裕太。僕たちも情報集めにいこうか」
「今日は気が合うな、進次郎」
「それ、混ぜてもらってもいいかな?」
背後からの爽やかな声に振り向き、相変わらずの涼しい表情のフィクサに手を上げて挨拶の代わりをする。
フィクサの人の良さは、深雪の相談に乗ったことで知れている。
彼と一緒に行動することは、この見知らぬ土地での清涼剤になってくれるだろう。
※ ※ ※
(落ち度を取り返す方法は一つ。笠本裕太よりも先んじて宝の情報を手に入れてくることだ!)
笑顔の裏で、フィクサは脳内で冷や汗をドバドバと垂れ流していた。
場の流れに乗ってしまい幼女の相談に乗ったことで、彼女の指揮によって黒竜王軍は大損害を被ってしまった。
実力主義の黒竜王軍では、たとえトップであろうとも失態が重なれば立場を落とし、切り捨てられることはゴーワンの例からも明らかである。
生来の人の良さが裏目に出てしまったため、なんとしても有用な情報を持って帰らなければという使命感だけがフィクサを突き動かしていた。
波の音に合わせるイメージで、長めの前髪をサラリと手で払う。
客観的な意見から合いそうだと言われて始めた格好つけを、ついつい癖でやってしまう。
「せっかくだから、そのお宝探しとやらに参加したいんだ」
「いいぜ、フィクサ。けど、情報はどうやって探したものか……」
裕太は予め印刷しておいた島の上面図を取り出し、頭をポリポリとかいた。
ネメシスが上陸した場所は島の西側の砂浜である。
中央に行けばこの島を利用する人たちの集落があるらしいのだが……。
「クックック、だから貴様は凡人で僕は天才なのだ」
これ見よがしに眼鏡を指でクイッと押し上げ、太陽の光をレンズで反射させる進次郎。
フィクサはこっそりと「どうして彼はあんなに偉そうなんだい?」と耳打ちで裕太に尋ねるも「あいつがあいつだからだよ」と的を射ない答えしかもらえなかった。
「考えてもみたまえ諸君。僕らがこの島を宝島だと断定した情報は、誰からだ?」
「えーっと、魔法騎士エルフィスだっけ」
「ガイだったような気もするが、まずは彼に聞いてみるのが一番だろう」
(これは願ってもない状況だ! 情報を得たらグレイ達と合流し先手を打つ!)
イケメンオーラ全開の表情の裏で、フィクサの頭脳はニヤリと笑った。
…………Bパートへ続く




