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第27話「艦長は小学五年生」【Aパート 病床のナニガン】

 【1】


「俺が行く」


 遅々として進まないフィクサの捜索に業を煮やしたグレイは、ひとり立ち上がった。


「お待ち下さい、グレイ様!」

「止めるなペスター。このまま指導者不在だと宝を探すどころではない。奴にはまだまだ働いてもらわねばならんのだろう」


 海に落ちたというのが最後の目撃情報なら、早めに見つけたほうがいい。

 運良く流れ着いている可能性があればよかったのだが、あの海域は生憎の大海原。

 周りに陸地がなにもない場所で長く生きられるほど人間の身体は頑丈ではない。


「うう……そこまで言われるのでしたら、グレイ様。あなたに見せたいものがあります」

「何……?」


 背を向けて歩きだしたペスターを、グレイは無意識に追いかけ始めた。



 ※ ※ ※



「パパは、パパは大丈夫なの!?」


 ナニガンの部屋から出てきた船医の白衣を掴み、食いかかるレーナ。

 彼女の問いに、船医は首を横に振ることで返答をする。


「そ、そんな……」

「最低でも一週間は安静でしょう。レーナ様も艦長が無理しないように見ていてください」

「そう、一週間も……あれ?」


 話の噛み合わなさに、ふっと真顔になるレーナ。

 裕太はどういう状況か、なんとなく察することができた。


「えーと、レーナ様。勘違いされてるかもしれませんが、艦長はぎっくり腰です」




 【2】


「と、いうわけだ。いやはやこんな時に迷惑かけるねえ」

「んもうっ!! わたしすっごい心配したんだから!!」


 病室でベッドの中からハハハと笑うナニガンと、頬を膨らませて怒るレーナ。

 命に別状があるわけでもなく、文字通りぎっくり腰で倒れたのが情報不足で大事になってしまったようだ。


「まあ、よかったじゃんレーナ。ナニガンさんが大事じゃなくて」

「50点に言われる筋合いはないわよ」

「なにおー」

「でもぉ、ナニガンさんが起きれない状態でどうやって指揮を執るのぉ?」


 無事なことが分かって、次の問題となるであろう事象に対してエリィが切り込む。

 現時点で一番重要な問題であることは間違いない。

 現在、この戦艦ネメシスはリーダーを欠いているに等しい状態だ。


「そこなんだよねえ。艦橋のお仕事って複雑だから、中心となる人物がいないと成り立たないんだよね」

「じゃあ、どうするのぉ?」

「そうだねえ。映像を送ってもらって無線越しに指示を飛ばす……とかかな」

「パパ、それでできるの?」

「無理だろうねぇ」


 だめだこりゃ、と一同頭を抱える。

 ここで裕太が解決策の一つでも提案できれば格好がつくのだが、それができるほど頭の回転が早ければ苦労はしない。

 それ以上にこの(誰か何か案を出せよ)という空気から早く抜け出したい気持ちが強いまである。

 これは決してこの場から逃げたいという無責任な欲求なのではなく、しっかりと適した人物を集めて話し合いをしないと不毛な会議になるのが目に見えているのが主な理由だ。

 自分が戦艦の運用論に対して意見ができるほどの知識が無いのは百も承知である。


「あの……」


 扉の開かれる音とともに、幼い女の子の声。

 この状況を打破してくれる救世主の登場に、裕太とエリィは息があったように同時に振り返る。


「あ、遠坂さん」

「あなたたちが拾ってきた人、立ち上がれるくらいまで回復しましたよ」


 拾ってきた人、というのは前回の戦いの後で回収した男のことだろう。

 救出した直後こそ意識があったが、この戦艦ネメシスに引き渡す頃には漂流による衰弱もたたってかフラフラになっていた。

 助けた以上は最後まで面倒を見るべきだという意識と、この場からの離脱という2つの意識の利害が一致した今、裕太の行動に迷いはない。


「えっと、じゃあ俺見てくるよ」

「じゃああたしも!」


 逃げるように病室を後にする裕太とエリィ。

 あの無機質な白い空間から脱出できた安心感と、幼い女の子をあの場においてきてしまってよかったのだろうかという不安が混ざりつつも、目的の部屋はどこだっけど二人で案内板の前で立ち止まるのだった。



 ※ ※ ※



「ねえ、あなたってあの遠坂艦長の娘なんでしょ?」

「それが、どうしましたか?」

「だったら、艦の指揮とか……無理かな?」


 父と一緒の病室の中、レーナは目の前の幼女にダメ元で尋ねた。

 日本のことわざで「猫の手も借りたい」とか「藁にもすがる」とかいう言葉があるという。

 今の状況は、いうなれば「女の子の手にもすがる」と言ったところか。


「……無理ですよ、私なんて」


 予想はできていた返答。

 年端もいかない少女のうつむき顔は、光の反射で彼女の眼鏡が瞳を隠していても心が痛む。

 どう言葉を紡げばいいのか頭を悩ませていると、ベッドの上の父が意味深に腕を組んだ。


「……そういえば、君が央牙島おうがじまに向かう理由をまだ聞いてなかったね」


 ナニガンの口から放たれた核心に切り込む質問。

 そういえばと、レーナはこの娘・遠坂深雪がこの船に乗り込む理由を知らないでいた。


 木星のコロニーから地球を目指すための出発直前、客人だと言って深雪を連れてきたのはナニガンである。

 二人の間にどんなやり取りがあったのかは知らないが、ついでに人を乗せることは特段珍しいことではない。

 実際、以前には裕太たちを乗せて地球に赴いたこともあるくらいだ。


 父ナニガンからの質問に口を閉ざす深雪の前で、ナニガンが組んでいた腕をほどく。


「言いたくない、か。その君の態度で僕はあの噂が本当だと確信したよ」

「え……」

「噂? パパ、何か知ってるの?」


 レーナの質問にナニガンはゆっくりと頷いた。



  …………Bパートへ続く

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