第26話「出発! 伝説の宝島へ!」【Fパート 重なる問題】
【6】
「グレイ様、リバイA3がやられちゃいました! おのれ光の勇者!」
「人探しにあんなデカブツを使うからだ馬鹿モノが!」
「いたっ」
わたわたとローブの中の両腕を振り回すペスターをデコピンで黙らせるグレイ。
マスク越しに叩かれたというのに痛がっている彼を放っておき、机の上の報告書を手に取る。
「まったく、貴様らの言う秘宝を連中も狙う可能性ぐらい、考えればわかるだろう」
大した情報の書かれていない書類を投げ捨て、会議室を後にする。
ゴーワンが機械魔獣で街の一つを壊滅させて以降、黒竜王軍は雌伏を余儀なくされた。
地球の軍隊と真正面からぶつかれば、勝ち目が無いのは元首領たる黒竜王がその命を持って証明済みである。
現在はこの世界に拠点を設けるため、そして戦力増強を狙い「宝」があるという央牙島を目指しているのだったが。
「そう言われましても……」
「だいたい、奴らよりも早く央牙島とやらに行かなければならないときに、まさかフィクサの奴が遭難するとは……」
※ ※ ※
「ここは……わっ!?」
巨大なマシンの手の上で目を覚ましたフィクサは、ジェイカイザーの頭部に驚愕した。
と同時に、自分がなぜこのような状態になったのか経緯を思い出しながらも頭の中で整理する。
央牙島へと黒竜王軍の飛行戦艦〈エルカーゴ〉を航行させている最中、初めて見る地球の海を自分の目でみるという無邪気な欲求のために甲板に出た時。
突如吹いた突風で船体が大きく揺れ、陸地の見えない広大な海へと投げ出されてしまった。
あの時は死を覚悟したが、今置かれている状況はある意味……死よりも厄介だと言っても過言ではない。
「おーい、大丈夫かー?」
目の前のコックピットハッチが開き、栗毛の少年がパイロットシートの上から身を乗り出しながら声を掛けてくる。
何度も資料で目を通した光の勇者、笠本裕太。
そして彼の背後にはヘルヴァニア女王の娘、エリィ・レクス・ヘルヴァニア。
黒竜王軍の首領としても、旧ヘルヴァニア帝国摂政の息子としての立場としても、最悪の敵が両方とも目の前にいる事実に身を震わせる。
「笠本くん、怖がってるみたいよぉ?」
「無理もないか、漂流してたんだからな……。とりあえず〈ネメシス〉まで運んでやろう」
そう言って、ハッチを閉める裕太。
フィクサにとって幸いだったのは、この二人組が自分のことについて知らないということである。
そして、自分を哀れな漂流者だと思いこんでいる。
これを利用すれば、これから宝を巡るライバルになるであろう彼らの情報を内部から得ることができるだろう。
フィクサは覚悟を固め、不安定なマニュピレーターの上にしがみつきながら揺られていった。
【7】
次々と〈ネメシス〉の格納庫へと入っていく、宇宙海賊のキャリーフレーム。
それに続いてジェイカイザーも入ろうとしたところで、背後からレーナの〈ブランクエルフィス〉に肩を掴まれ止められた。
「ストーップ! 50点、あんたうちの艦を壊す気?」
「何だよレーナ。何が問題なんだ?」
「あのねえ、あんた。今自分たちが乗っている機体の大きさ、いくつよ?」
「大きさ? えーと……」
『よくぞ聞いてくれた! このハイパージェイカイザーは全長14.7メートルなのだ!』
『正確には14.72802メートルですね』
自慢気に話すAIコンビの声を聞き、裕太はハッと気がついた。
通常、キャリーフレームは大型でも8~9メートル級が最大である。
それゆえ、戦艦の格納庫というものもそれに合わせた大きさ・広さを持っている。
しかし、いま裕太たちが乗っているのは規格外のマシン・ジェイカイザー。
しかも合体して巨大化したこの機体がキャリーフレームと同じ格納庫に入れる道理はなかった。
「笠本くん。大きいのが問題なら、分離しましょ! ねえジュンナ、どうやったら分離できるの?」
『不可能です』
「え?」
『我々の合体は複雑怪奇ゆえ、設計関係者である訓馬どの立ち会いのもとで手作業で分離をしなければ元の戻ることは出来ないのだ! ワッハッハ!』
「笑ってる場合かよ! どーすんだよ島に着くまで!」
裕太はコンソールに映るジェイカイザーのアイコンを殴りつけながら、操縦レバーをゆっくりと押し倒す。
先程救出した少年を乗せたハイパージェイカイザーの手を、〈ブランクエルフィス〉の前に差し出す。
「50点、それは?」
「さっき助けた漂流者。怖がってるみたいだから先にネメシスに乗せてやってくれ」
「いいけど……結局そのマシンの収納はどうするの?」
「ちと格好は悪いだろうが、できないことはない方法を取る」
「ふーん……なんでもいいけど、入り口壊さないでよね。うちの艦、もうガタが来てるんだから」
少年を受け取ったレーナは、そう言って〈ブランクエルフィス〉を格納庫へと進ませた。
彼女の機体が完全に格納されたのを見届けた裕太は、今から行う行動を頭の中でイメージする。
「銀川、しっかり捕まってろよ」
「え? どうするのぉ?」
「こうする! でりゃあっ!!」
裕太は操縦レバーを横へグイッと倒すと同時に、両ペダルを思いっきり踏みしめた。
するとハイパージェイカイザーの身体にある姿勢制御用のバーニアが巧みに火を吹き、その巨体を90度横へと回転させた。
突然横倒しになったコックピットの中で、エリィがジタバタともがきながら叫びだす。
「きゃああっ!!? ちょちょちょちょっと笠本くん!!?」
「口開けてると舌噛むぞ! 横にすれば入るだろ!」
そのままバーニアを噴射させ、足から格納庫へと突っ込むハイパージェイカイザー。
本来であれば勢いよく格納庫へ入ってきた機体を受け止めるクッションを踏みつける形で、巨大な機体が静止した。
『ええい、なんて格好のつかない搭載方だ!』
「文句をいうんじゃねえジェイカイザー。入るだけマシだろうが!」
「早く降りましょうよぉ、このままだと酔いそ……」
「わかったわかった」
ジェイカイザーが携帯電話に戻ったのを確認し、ハッチを開けて外に出る裕太。
これからこの状態で整備するであろう整備員たちに申し訳ない思いを抱きつつ、エリィの手を引いて彼女を安全に降ろしてあげた。
階段を登り、廊下へと通じる足場へと足を乗せると、進次郎とサツキがにこやかな顔で出迎えてくれた。
「よう裕太。大活躍だったな」
「裕太さん、エリィさん、かっこよかったですよ!」
「ニュイ~!」
「ま、俺にかかりゃああれくらいちょちょいの……どわっ!?」
得意げに鼻をなでていた裕太を、レーナが突然突き飛ばす。
何をするんだと文句を言おうとした裕太は、彼女の涙目の表情にその言葉が喉で詰まった。
「レ、レーナちゃん? どうしたんだい?」
「進次郎さま、大変なの! パパが……パパが倒れたって!!」
「「「「ええっ!?」」」」
遠坂艦長の娘、漂流した少年に続き、新たな問題が裕太たちに覆いかぶさった瞬間であった。
───────────────────────────────────────
登場マシン紹介No.26
【ラノド】
全高:7.3メートル
重量:不明
黒竜王軍の翼竜型空戦魔術巨神。
簡易量産されたものであり、搭乗員が居るわけではなく制御系に飛竜の魂を宿らせることでコントロールしている。
背部にあるハッチに無数のミサイル・魔法弾頭が格納されており、空中から敵へと飽和攻撃を行う。
個々の戦闘能力は低いが、数で攻めるというシンプルなコンセプトの機体である。
【次回予告】
央牙島の道中で艦長無しの航海を迫られる戦艦ネメシス。
戦力が低下したところを狙い、新型機で奇襲をかけるグレイの魔の手が迫る。 絶体絶命の状況下、ひとりの少女が艦長席へと座る。
次回、ロボもの世界の人々27話「艦長は小学五年生」
「そもそも僕、艦長ってガラじゃなかったんだよねえ」
「それは言っちゃダメよ、パパ」




