第26話「出発! 伝説の宝島へ!」【Dパート 襲撃の呼び声】
【4】
整備員が走り回り慌ただしい格納庫。
赤色の警告灯が回転し、あたりをデタラメに赤く染め上げている。
「50点、あんたは機体が無いならおとなしくしておきなさい!」
私服のまま〈ブランクエルフィス〉のコックピットに飛び込んだレーナが、ハッチを閉めながら叫んだ。
そのままカタパルトに足を載せ、艦の外へと出撃する。
「坊主、お前さんも戦うなら〈ザンク〉の一つでも回してやるがどうだ?」
背後からポンと肩を叩きながらそう言った老人は、この艦の整備士長であるヒンジーだった。
突き出された拳に拳をぶつけ、裕太は片手で携帯電話を操作する。
「ヒン爺さん、俺にはこいつがあるから結構だ。来いッ! ジェイカイザー!」
目一杯腕を上げ、高らかに叫ぶ。
格納庫の空いたスペースに魔法陣が浮かび、ジェイカイザーの本体が姿を現す。
その光景を見た整備士たちが、忙しい中だと言うのに拍手と口笛を次々と鳴らした。
「粋な事するじゃねえか。レーナお嬢の背中は頼んだぜ」
「ああ! 行くぞ、ジェイカイザー!」
『おう!』
※ ※ ※
格納庫から飛び出した裕太の目に写ったのは、プテラノドンを思わせる翼竜の姿をした戦闘兵器だった。
その内の一機の背中がフタを開けるように展開し、中から無数のミサイルが煙の尾を引きながら放たれる。
周囲の翼竜も次々とミサイルを打ち出し、レーナの〈ブランクエルフィス〉を覆い尽くすように襲いかかった。
しかし、そこは宇宙海賊のエース。
前方からのミサイルは手首を回転させることで形成したビームセイバーの螺旋に巻き込み、上下左右から迫る弾頭は背部から分離したガンドローンが的確に撃ち落としていく。
爆煙の中から姿を現す無傷の機体は、彼女の操縦能力を言葉無しに物語っている。
「レーナ、手助けはいらなかったか?」
「何よ50点。邪魔しに来たなら帰りなさいよ」
「まあそう言うなって。思ったとおり、奴ら黒竜王軍だな」
「黒竜王軍?」
「さっき説明したタズムから来た、悪い連中だよ」
バーニアを吹かせ続けて高度を保ちながら操縦レバーを操作し、国外故に使用許可を得なくても使えるビームライフルを手に取って翼竜へと射撃を行う。
ビームを受けた翼竜は爆発を起こし、次々とその破片を水柱へと変えてゆく。
次の標的へと銃口を向けた途端、脇から竜巻が翼竜を貫きその身体を海面へと叩きつけていく。
竜巻が飛んできた方へと目を向けると、足元に竜巻のような気流を付けて浮遊する魔法騎士エルフィスと、鮮やかなエメラルドグリーンが飛んでいた。
「勇者どの、助太刀に参った!」
「魔法騎士エルフィス! ……と銀川か」
「ちょっとぉ、ついでのように言わないでよぉ!」
〈ブラックジェイカイザー〉がエリィの感情を代弁するかのように両腕をバタバタとさせて抗議をする。
モニター越しに膨れ面を晒すエリィに苦笑しつつも、周囲では〈ネメシス〉の対空砲や、他の海賊の機体が艦にまとわりつこうとする翼竜を迎撃している中、空に開いた大穴へと視線を移す。
「……ったく、連中も宝を狙ってやがるのかな」
「ふふふ……あははは………」
「レーナ、どうしたのぉ?」
通信越しに薄気味悪い笑みを浮かべるレーナ。
顔を上げた彼女の瞳は、まるでテーマパークに来た子供のようにキラッキラに輝いていた。
「わたし、今すっごく楽しいの! 空から飛来するドラゴンを海の上で退治する! こんな昔見たアニメみたいな展開大ッ好き!!」
そう言いながらガンドローンを射出し、大穴へと飛ばす〈ブランクエルフィス〉。
空に閃光がいくつも走ったかと思うと、爆炎の丸い光が空を覆うように次々と膨らみ青空と海を覆い隠さんばかりに散りばめられた。
「あっはーん! 気持ちい~~!!」
恍惚とした表情でトリップするレーナに、半目で呆れる裕太。
もはや相手がファンタジックなものだからとかは抜きに、敵を大量虐殺することに対して快楽を得ているだけにしか見えない。
その光景を見たエリィとエルフィスに至っては、口を半開きにして呆然としている。
「こ、黒竜王軍の〈ラノド〉相手にあれほど戦えるとは。こ、この世界の戦士には勇敢な者が多いのだな」
「エルフィスさん、あれを普通だと思わないほうがいいと思うわぁ……」
「そうなのか……。むむっ、あれは……!」
空の雰囲気が一変し、あたりが突然暗雲に包まれ暗くなった。
先程までエルフィス曰くの〈ラノド〉を吐き出していた大穴が稲妻に包まれ、激しい光を放ち始める。
「この感じ……機械魔獣がくるわよぉ!」
それはExG能力の為せる業か。
エリィがそう叫んだと同時に穴から巨大な体躯が現れ、海面に吸い込まれていった。
巨大な質量が急に叩きつけられたことにより水面が激しく振動し、大波の形で青い海水に真っ白な模様を描き出す。
「あれは機械魔獣リバイA3! 巨大なウミヘビ型の強敵だ!」
水面に黒い影が浮かび、水しぶきを上げながら巨体が姿を現す。
例えるならば先端に牙を持つ大口をつけた巨大な芋虫といったところか。
機械魔獣は体表面にある無数の赤い宝石状の器官から、無数の光線を吐き出しながら潜水する。
飛んでくるビームを反射的に盾で受け止め、直撃を避ける。
レーナとエリィも同様にかわし、エルフィスは手のひらから発する気流で軌道を逸らす芸当をしていた。
「ねえ、何よあの大物! 50点、やらせなさいよ!」
「やめとけレーナ。前にああいうの相手にしたが、でかすぎてビームですら致命傷にできやしないぞ」
「じゃあどうするのよ?」
「まあ、見てなって。銀川、準備はいいか?」
「おっけー!」
この間、機械魔獣と戦ったときのプロセスを思い出しつつコンソールを操作する。
あの時は水金族が設計図をもとに変身したパーツを使っての合体だったが、今回はちゃんとした完成品が用意されている。
そして合体コードを実行することで、そのパーツは普段ジェイカイザーを呼ぶときに使うワープで転移してくれるとも聞いている。
「行くぞ、みんな! ジェイカイザー、ハイパー合体!!」
『おう!』
「ええ!」
『はい?』
てんで一体感のない応答と同時に、2機のジェイカイザーが上昇した。
エリィの乗るブラックジェイカイザーの四肢が分離し、巨大な手足へと変形する。
空中に転送された合体パーツがジェイカイザーの足を火花を上げながら包み、そこに変形したブラックジェイカイザーの脚が合体。
今度は合体パーツがジェイカイザーの腕を通し、一体化。
足のときと同じようにブラックジェイカイザーの変形した腕が装着される。
エネルギーが通り光のラインを浮かび上がらせる腕から、金色に光る手が伸び力強く宙を握る。
残されたブラックジェイカイザーの胴体が上下に分離し、上半分が仮面をかぶせるようにジェイカイザーの頭部を包み込む。
残りの合体パーツが次々と舞い上がり、ジェイカイザーの胴体を覆っていく。
最後に残されたブラックジェイカイザーの胴体がコックピットハッチを守るように装着され、胸に輝くエンブレムが現れた。
そして、仕上げとばかりにジェイカイザーの口元が鋼鉄のマスクで覆われる。
『正義の力をこの手に握り! 悪を倒せと轟き叫ぶ! 輝光勇者ハイパージェイカイザー! えーと……とりあえず見参っ!!』
「決め台詞のシメを忘れてんじゃねーーよッ!!」
……Eパートへ続く