第26話「出発! 伝説の宝島へ!」【Aパート 密航者】
【1】
青い空、白い雲。
太陽の光を反射して輝く大海原。
「わぁーい! 気持ちいぃー!」
窓から身を乗り出して長い銀髪を風になびかせるエリィを見て、頬杖をつく裕太。
「ねえ笠本くん。二人っきりで旅行って、なんだかハネムーンみたぁい!」
「銀川、旅行じゃなくて、宝探しだぞ。それに……」
「勝手に俺様を忘れるんじゃねぇ。バカップルがよぉ」
操縦席に座るカーティスは、ぼやきながらも操縦桿を片手にタバコを胸ポケットから取り出す。
「まあ良いではないかカーティス殿。この私、魔法騎士エルフィスが彼ら二人を手伝うゆえ、カーティス殿の手を煩わせはしない」
SD体型に合わない大きなシートに腰掛けているエルフィスが、カーティスの隣の助手席から手を伸ばしライターでタバコに火をつける。
裕太とエリィ、そしてカーティスと魔法騎士エルフィスを乗せたキャリーフレーム〈ヘリオン〉の下を、青い海が走ってゆく。
『ワハハ! 共に旅行とは照れくさいな、ジュンナちゃん!』
『何がですか? そもそも互いに本体が別の場所にいる以上、通信機越しですよ』
『いや、こう雰囲気がだな……』
『ただ海の上を進んでいる状況の雰囲気が何ですか?』
『むむむ』
いつもどおりの不毛な会話を、ふたりの携帯電話を介して行うジェイカイザーとジュンナ。
退屈なやりとりを聞きながら、裕太はひとつ大きなあくびをする。
現在、裕太たちがいるのは太平洋のど真ん中。
ヘリ型形態に変形できる〈ヘリオン〉の人員輸送ユニットに揺られながらぼんやりと海面を眺める裕太。
あまりの眠気で壁から小さな声のような幻聴が聞こえ始めた裕太は、こんな大海原を進む要因となった出来事をぼんやりと思い返していた。
※ ※ ※
──数日前。
「タズム界の宝島?」
「そうでござる。地図で見た形も一致しておるし、間違いないでござるよ」
夏休みが始まって間もないある日。
溜まり場と化しているカーティス屋敷の一室で、裕太がガイから知らされた情報。
それは、この世界にガイ達のいた異世界の宝島が転移していたという事実だった。
借金の返済予定が遅れている裕太にとって、一攫千金が狙えるその情報は渡りに船である。
ガイが使い慣れない携帯電話で表示した地図を見て、進次郎がメガネをクイっと持ち上げる。
「日本では央牙島と呼ばれている元無人島だな」
「元無人島ってなんだよ進次郎」
「今は人が住んでいるっていう程度の意味だよ裕太」
馬鹿にするような目で見下す進次郎に、睨みで返す裕太。
しかしその視線に気付いてないかのように、進次郎は説明を続ける。
「公海、いわばどの国も領有できない海域に突然現れた島だったかな。現れた当初は無人島だったんだが、宇宙で食い詰めた連中とか、宇宙海賊とかそういう連中が住処にするために集まって、ちょっとした町になったんだと」
「宇宙海賊ねぇ……。でも、そういう連中が占拠してるんなら、とっくにお宝なんて掘られてるんじゃないか?」
「ところが、でござる。ぱそこん? という機械で魔法騎士エルフィス殿が調べたところ……島から宝が出たなどという報はなかったのでござるよ」
デフォルメ体型の西洋騎士がパソコンを扱っている光景を想像しながら、裕太は首を傾げる。
因果関係を見出だせない裕太の横で、やれやれといったわざとらしい仕草をする進次郎。
「駄目だなぁ裕太。つまりは、だ。島が宝島という情報は彼らタズム界の住人と、今話を聞いた僕らしか知らないということさ。あると知らないものを探す人間なんて居やしないからね」
「なるほど……」
そこからの裕太の行動は迅速だった。
まず案内役として魔法騎士エルフィスと、運び役として宝の分け前を報酬としてカーティスを引き入れる。
そして一人では寂しいのでエリィを同行させ、手早く準備を整えた裕太は晴れて宝探しの旅路へと乗り出したのだった。
【2】
「カーティス殿、ちょっと」
「あんだぁ?」
変わらない風景に飽き、まぶたが眠気に押され気味になったところで魔法騎士エルフィスとカーティスの会話が聞こえてきた。
「燃料の減りが予定よりも多い気がするのだが」
「本当だな、どうなってやがる? この減り方は積載量オーバーの時のものに似てるが……」
「はて、予定していた荷物以外は我々くらいしかおりませぬが」
「……まさか、密航者がいるとか言わねえよな?」
「笠本くん、密航者ですって」
いつの間にか横に座っていたエリィに耳打ちされ、裕太は眠気に負けかけていた目をこする。
「って言ったって、このクソ狭い機内のどこに隠れる場所なんて……」
「でもね、あたしそこの壁からすこーし気配を感じるのよねぇ」
「気配? それってエクスジェネレーション能力によるものか?」
「さあ……?」
「壁か……ちょいと試してみるか」
立ち上がり、エリィが指さした壁の方へと歩み寄る裕太。
そして右足を持ち上げ、つま先で軽く小突いてみる。
「ぐえっ」
聞き覚えのある声が響いてきたので、今度は強めに蹴り飛ばす。
すると壁がグラグラと揺れたかと思うと、溶けるように変形してそのままサツキの姿へと変わっていった。
「……ほらな。言ったとおりバレてしもたやないか」
「本当ですね! さすがはおふたりです!」
「ニュイ~!」
「あらぁ! 内宮さんとサツキちゃんにネコドルフィンと……」
「進次郎、お前らだったのか密航者は」
…………Bパートへ続く