第3話「金色の転校生」【Eパート ショックライフル】
「な、なんだ銃なんぞ持ち出して! 脅しか、脅しなんだな!?」
〈ハイアーム〉から、パイロットの慌てふためいてる様子が見て取れるような声が上がる。
『裕太、有人機のコックピットに向けて撃っても大丈夫なのだろうか?』
「確か、キャリーフレームのコックピットには対落雷用に電気を逃がす仕組みがあるって銀川が言ってたような……」
「その通りだ、ボウズ。だが、外してそこらのビルに当てるなよ。建物ん中のコンピューターが高電圧で全部吹っ飛ぶぜ」
「……撃ちにくくなるから、そういうのは撃ったあとにでも言ってくださいよ」
大田原からプレッシャーをかけられ、レバーを握る裕太の手が震えだす。
キャリーフレームの操縦は、パイロットの思考と操作の動きから望んでいる動作を読み取り、ロボットの動きに反映させる仕組みとなっている。
そのため、武器の扱いなどに関してはパイロットの経験が物を言うのである。
しかし、裕太は今まで銃を握ったことも、キャリーフレームで銃を撃ったこともなかった。
それ故に裕太は、これまでになく気を張っていた。
『裕太、撃て!』
「いきなりそうするわけにもいかんだろうが。おとなしく投降しろ! さもなくば……撃つぞ!」
緊張をごまかしながら裕太は大声で警告し、同時にジェイカイザーに両手でショックライフルの銃身をしっかりと構えさせる。
巨大な銃口を向けられ怯えたのか、〈ハイアーム〉が一歩後退した。
「こ、こんなところでぶっ放そうって、迷惑を考えろ!」
「暴れてるくせによく言うぜ……」
震える声で自分を棚に上げたような発言をする〈ハイアーム〉のパイロットに、裕太はやや呆れつつ呟いた。
※ ※ ※
ショックライフルを構えてからどれくらい経っただろうか。
お互い身動き一つせず睨み合うジェイカイザーと〈ハイアーム〉。
(来るな、来るな、来るな……)
裕太は心の中でそう願いつつ、手から脂汗を滲み出していた。
一方ジェイカイザーは『早く来い、早く来い』とショックライフルを撃ちたい衝動に駆られウズウズした声を出す。
緊張感に包まれた空気は裕太だけでなく、周辺の野次馬や心配そうな表情で見守るエリィさえも一言も発させず、静寂な空間を作り出していた。
「ヤロォ! 脅しなんかに屈するかぁ!」
ついにしびれを切らしたのか、〈ハイアーム〉が手近な乗用車を掴み、投げる構えをとった。
同時に裕太も反射的にジェイカイザーに引き金を引かせた。
「来るなってのに!」
『偉いっ!』
パイロットとロボットで正反対のセリフを吐きつつ放たれた粒子の弾丸は、ビームのように発光しつつ〈ハイアーム〉へと飛んでいく。
そしてコックピット部分の中心に当たり、激しい光とともに弾け散り、〈ハイアーム〉全体に電撃が走った。
ショックライフルの直撃を受けた〈ハイアーム〉は、全身をビクンと一瞬痙攣させたような動きをした後、長い腕が力を失ったようにだらんと垂れ落ち、カメラアイから光が消えた。
「あ……当たった……」
『火器管制は私の管轄だからな! 照準の補正はしておいたぞ!』
「……先に言えよ」
〈ハイアーム〉を拡大して表示している正面モニターには、慌てた様子でコックピットから飛び出したパイロットが警察官に取り押さえられている様子が映る。
裕太は事件の解決を改めて認識し、どっと疲れたようにだらしなく足元へと尻を滑り落とした。
【5】
「俺が到着する前に片付けるとはな!」
遅れて現場に〈クロドーベル〉で乗り付けた照瀬がジェイカイザーから降りたばかりの裕太の肩をバンバンと叩きながら言った。
「痛っ! ったく、遅いですよ照瀬さん」
「現場までの道で別の事故があって酷く混んでてな……。おい富永、お前なんて体たらくだ!」
「うう……面目ないでありましゅ……」
トラックから這い出てきた富永が呂律の回らない声で言うと、照瀬が携帯電話を富永に投げ渡す。
「富永はさっさと救急車を呼んで病院に行け!」
「わ、私はなんともなく」
「気絶したのが問題なんだよ! ただでさえ俺達は人手が足りないんだから、さっさと無事を証明してもらえ」
「わ、わかりました! えーと119番……」
そう呟きつつ携帯電話を操作しながら、富永は不安定な足取りでその場から離れていった。
「笠本の小僧。後片付けは俺達がやるから、お前も怪我したっていう友達んところに行ってやりな」
「あ、はい!」
裕太がエリィのいる方へと走っていったのを確認した照瀬は、予備の携帯電話を取り出し大田原へと電話をかけた。
「隊長、俺です」
「照瀬、ご苦労だったな。犯人の様子は?」
「どうやら一度警察に捕まった腹いせに暴れていただけのようで、背後関係は無さそうです。あと、富永が負傷を」
「そうか、じゃあとっとと片付けて帰ってきな。富永の見舞いに行ってやらにゃあならんしな」
「……了解です」
電話を切った照瀬は、ひとりコックピットを開けたまま動かないジェイカイザーを見上げる。
キャリーフレームの規格から外れたこのロボットは、一体誰が作ったのだろうか。
ジェイカイザーが開発されていたという研究所も、現在手の空いた整備班に調査させているのだが予想以上に広大で複雑な構造をしており、未だ全貌はつかめていない。
後々、機会があったらあの小僧とロボットに直接問いただしてみるか、と照瀬は普段署内では吸えないタバコを懐から取り出し、ライターで火をつけながら考えた。
※ ※ ※
照瀬の元から離れた裕太が辺りを見回していると、進次郎の2脚バイクに乗ったエリィが「こっちよ」と手を振っていた。
「銀川、進次郎から連絡はあったか?」
「さっきね。開発地区の自然公園で追いついたって! ジェイカイザーは?」
『私の本体は照瀬殿に任せたぞ!』
「そ、じゃあ早く乗ってぇ!」
そう促されて裕太が2脚バイクの後部座席に乗ると、エリィはハンドルのグリップをいっぱいに捻る。
すると、2脚バイクがウォンと唸り声を上げて大股開きで走り始めた。
あまりの速さに裕太はガクガクと上下に揺られ、視界がぐわんぐわんと回り出す。
「ちょっ!? 銀川っ、飛ばしっ、過ぎっ!!」
「ちょっとぐらい我慢しなさいよぉ! 男の子でしょ!」
「それってっ、性差別って、言うんだぞぞぞぞ!」
「何!? 聞こえないわよぉ!」
抗議を受け入れてもらえないまま、裕太は死に物狂いで後部座席の手すりにしがみついて目的地への到着を待った。
───Fパートへ続く