第25話「奇跡のハイパー合体!」【Cパート 大怪獣】
【4】
「これは映画の撮影でも合成映像でもありません! 怪獣です! 怪獣が現れましたっ!!」
リポーターが絶叫するその後ろで、巨大な脚が歩道橋を薙ぎ倒す。
怪獣映画に現れるものと同じような、二足歩行をする恐竜を思わせるフォルムの影が、高層ビルを覆う。
怪物がけたたましい鳴き声を放ち、周囲のガラス窓が次々と砕け散る。
激しい振動とともに道路のコンクリートが砕け、逃げ惑う人々の列が放つ悲鳴で包まれた空間。
周囲はパニックに包まれていた。
「ゴーワンのやつ、やるねぇ。機械魔獣を持ち出すなんて」
天井からぶら下がるモニターを見ながら、まるで他人事のようにフィクサが椅子の上で足を組む。
グレイはその隣で、黒竜センベイと書かれた菓子の袋を破り、中身を頬張った。
「機械魔獣?」
「食べながらしゃべるんじゃないよグレイったら。機械魔獣というのは、まあ黒竜王軍お抱えの巨大モンスターさ。英傑共の魔術巨神と戦うためのね」
「なるほろ、ゴクン。それよりもあんなに派手に暴れさせていいのか?」
「いいんじゃない? 黒竜王軍の屋号付けてないし、僕らはゴーワンを焚き付けこそすれ魔獣を出したことについては無実だし」
「それでいいのか……もぐもぐ」
グレイは二枚目のセンベイを食べながら、再びニュース映像に目を向ける。
警察のキャリーフレームが手に持つショックライフルを何度も放つが、機械魔獣はビクともせず前進を続ける。
20メートルはあるだろうその巨体は小石を蹴飛ばすかのようにキャリーフレームを跳ね除け、大空に向かって咆哮した。
※ ※ ※
「そんなぁ……街がめちゃくちゃよぉ!」
「……くっ!」
隣で拳を握り、震わせる裕太を見て、エリィは彼が怒りに震えていると悟った。
……のだが。
「こんな騒ぎだと早く行かないと自衛隊が出てきて手柄が取られちまう!」
「ちょっ!? 笠本くん、あなた破壊される街はどうでもいいのぉ!?」
「どうでも良くはないけど、知らない街だしな。それよりも実は借金の返済計画が予定より遅れてだな……」
『情けないぞ裕太! 貴様はそれでもヒーローか!!』
ある意味、裕太らしい考えに呆れつつも、エリィは彼の制服の袖を掴み、ぐいっと部屋の外へと引っ張ろうとする。
「ほらぁ、早く行かないといけないんでしょ!」
「いてて、引っ張るなよ! 金海さん、悪いが俺たちを運んでくれ!」
「はいです!」
廊下に出たサツキが融解し、見慣れた高級ホバーボードへと姿を変える。
裕太が変身した彼女を抱え、「じゃ、行ってくる」と行って外へと駆け出した。
なんだかんだ言いつつも正義を成そうとする裕太のことが、エリィはたまらなく好きなのだ。
ホバーボードの上に乗る裕太の後ろに乗り、彼の腰をしっかりと掴む。
「よし、飛ばすぞ銀川!」
「ええ!」
「……ところで、あの怪獣が出たのってどこだっけ?」
今更な質問に、エリィはガクッとずっこけそうになった。
【5】
「はあっ! 風神剣!!」
魔法騎士エルフィスがスカーフを掴み、風を切るように振るう。
剣へと変化したスカーフから放たれる無数の刃が次々と怪獣へと突き刺さるが、まるで効いていないかのようにその歩みは止まらない。
先程まで、ガイのアパートでくつろいでいた魔法騎士エルフィス。
なんとなく見ていたテレビに映った、怪獣出現のニュース映像を見て飛び出してきたのであるが……。
「私の魔法が効かない……!」
先程から自身の持つ様々な攻撃手段を眼の前の機械魔獣にぶつけたものの、その全てが通用しなかった。
恐らく、物理的な耐久力やパワーは巨大な体躯そのものの頑強さに任せ、耐魔法用のフィールドを全開にしているのだろう。
考えうる限り、今の魔法騎士エルフィスには最も分が悪い相手だった。
この世界の軍事力は物理的な方面に偏っているため、この機械魔獣を倒すこと自体はたやすいだろう。
しかし、そのような激しい戦闘になった場合、戦場となった街はただでは済まない。
人の営みにより作られる集落が破壊されること、それを魔法騎士は防ぎたかった。
いや、まだ諦めるのは早い。
こちらには頼れる味方がいることをエルフィスは思い出す。
「うわっ、思った以上にずっとデカイな」
『周囲の建造物から察するに、およそ20メートルはあるだろう! 強敵だぞ!』
「ジェイカイザーよりおっきいのねぇ……。魔法騎士エルフィスさん、大丈夫?」
タイミングよく駆けつけてくれた頼みの綱に、魔法騎士エルフィスは微笑みを返した。
────Dパートへ続く