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第25話「奇跡のハイパー合体!」【Bパート 老人の正体】

 【2】


『ふう、やはりこの端末の中は落ち着くな。ややっ、内宮どのからの着信記録があるではないか! フラグでも立てたか裕太!』

「えーい黙れポンコツ! エロゲ脳も大概にしやがれ! ……それで、訓馬さんの用ってジェイカイザー届けるだけ?」


 職員室に隣接した位置にある、冷房のよく効いた応接間。

 その中で裕太は、冷たいお茶の入った湯呑みを傾けた。

 冷房は効いてこそいるが、エリィや進次郎、サツキまでいるので若干暑さを感じてはいる。

 机を挟んで向かい側に座る訓馬が、額の汗をハンカチで拭いつつ口を開いた。


「それもあるが、ジェイカイザーについて君達と少し話をしたくてな。君達は、ジェイカイザーについてどこまで知っている?」


 急な訓馬老人の問いかけに、四人はしばし顎にに手を当てたり腕組みをし、考えを巡らせる。


「ロボのくせに女好きで」

「エッチなゲームが大好きでぇ」

「かと言って女の子との付き合い方を心得ているとは言えんな」

「そうですね進次郎さん! ジェイカイザーさんはジュンナさんに振られてばっかりです!」

『ひどいぞみんな!』


「ブハッ! くっくくく……!」


 四人と一機のやり取りがツボに来たのか、口に手を当て吹き出す訓馬。

 露骨に笑いをこらえながら、訓馬がシワだらけの手で湯呑みを持ち上げ、中身を一気に飲み干した。


「いや失礼、言葉が足りなかったな……くくっ……! ゴホン。君たちがジェイカイザーという機体についてどこまで知っているかを問いたかったのだ」

「えーっと……」


 言われて、改めてジェイカイザーの出自を思い出す裕太。

 ヘルヴァニア銀河帝国の侵略から地球を護るため、一人の科学者の手によって生み出されたマシン。

 動力こそフォトンとかいう結晶化する謎の粒子を使った特別性だが、機械自体はほぼ全て地球製だ。


『ええい嘆かわしい! 私は科学者デフラグ博士によって作られた正義の……』

「正義かは置いといて、よく考えると全然わかってないな。ジェイカイザーのこと」

「ふむ、やはりか……」


 おもむろに立ち上がり、背を向ける訓馬。

 歳のせいかやや曲がって見える彼の背中に、裕太は妙な迫力を感じた。


「君たちには言うべきかもしれないな。聞くが良い、私は──」


 振り返り、覚悟を決めたような顔つきになる訓馬。

 

 その場にいる全員が、ゴクリと息を呑み老人の言葉に耳を傾ける。


「私は、この星の者ではない!」


「……というと?」

「というとというと……」


 大きな反応もなく、エリィから投げかけられた質問に質問で返す訓馬。

 その顔からはなにか残念そうな、思っていた反応が得られなかったような感情が読み取れる。


 それもまあ無理も無い話で、最近は異世界《タズム界》からの来訪者が来たせいで意識から外れているが、現在の地球はヘルヴァニアという異星種族と共存がなされている。

 そんな中で、例えるなら私は実は外国人だったのだ同然の発表をされただけで、そんなに衝撃は走らない。


「ゴホン、反応が薄かったのはさておき。私の訓馬という名前も地球で生きるための名でな。真の名前はフォルマット・ストレイジと言うのだ」

『ストレイジだと!?』


 その名にいち早く反応したのは、意外にもジェイカイザーだった。

 聞いたことのない苗字に、進次郎とエリィも裕太の携帯電話を覗き込む。


「知っているのか、ジェイカイザー?」

『知っているも何も、私を作ったデフラグ博士のフルネームが、デフラグ・ストレイジなのだ!』

「えっ!? ということはぁ、訓馬さんって……」

「想像のとおりだ。私はジェイカイザーの生みの親、デフラグ・ストレイジの実弟なのだよ」


 ようやく伝えたい事実に行き着いたのか、ホッとしたような顔をして再び椅子に腰掛ける老人。

 ここで話を終わらせるわけには行かないと、裕太は軽めに机を叩き音を立てる。


「訓馬の爺さん、あんたは何者なんだ?」

「私は旧ヘルヴァニアの占領惑星、イェンス星の生き残りだ」

「イェンス星……」

「そこのお嬢さんは心当たりがあるようだな。当然か、エリィ・レクス・ヘルヴァニア」

「あ、あたしもお母様から聞いた話でしか知らないけれど……。その……ごめんなさい」


 立ち上がり、頭を下げるエリィ。

 訓馬は彼女の行為に「もう過ぎたことだ」と手を突き出し、天井を見上げた。


「ジェイカイザーを託された君たちに話しておこう。私の故郷、イェンス星と我が兄上について」



 【3】


「イェンス星だと?」


 壁にかかるドクロの中に揺らめくろうそくの明かりの中、グレイはいかにも悪役の部屋といった禍々しい応接間でフィクサに聞き返した。


「かつて、科学力を著しい速度で発達させ、わずか数万年で恒星間航行を可能にするまで発展した文明。その発祥の惑星さ」


 悪魔の頭蓋骨を象ったワイングラスを回す黒竜王軍の新首領。

 グラスから小物まで、絵に描いたような邪悪なデザインに、グレイはしかめ面で意思表示をする。


「私もかつては父に連れられ訪れたことがあるんだ。かの星の者たちは、ちょうどこの地球のように緑豊かな惑星を守るために戦いに繋がる技術の一切を封印した。だから技術レベルでは下のはずのヘルヴァニアに一瞬で敗北し、制圧された。本当に愚かな連中だよ」

「自らを守る力さえも放棄したのならば、なるべくしてなった事柄だろう。だが、その後イェンスはヘルヴァニアの属国となったのだろう? なぜ地球に連中の残滓ざんしがある?」

「先ほど思い出したんだ。ヘルヴァニアはイェンスのテクノロジーを吸収しようとしたけど、そのすべてを手に入れることはできなかった。かの星で封印されていた、争いに関する技術を頭に入れた唯一の科学者兄弟が逃げ出していたのさ」

「科学者の兄弟……その連中が地球に来たと?」

「そういうことだね」


 グラスの中身を飲み干し、机に置くフィクサ。

 グレイは彼のグラスの隣りにあった小皿に盛られた菓子を手に取り、口に運ぶ。


「グレイ。彼らは地球に来てどうしたと思う?」

「……祖国を襲ったヘルヴァニアへの復讐でも企てたんじゃないか?」

「そこまで考えたかは定かではないが、彼らは地球人と変わらぬ姿を活かして地球の住人となったらしい。いつか、イェンス星へと帰れる日でも夢見ていたんじゃないかな。兄弟そろって、さ」



 ※ ※ ※



「つまり、その兄弟のうちの一人が……」

「そう、私だ」


 裕太の言葉に、訓馬は深く頷いた。

 目の前の、見知った老人がそういう生い立ちを持っていたなどとは露とも思っていなかった。

 いや、何かしらの過去があるだろうとは予想ができないわけではなかった。

 ジェイカイザーを改造・改良できるほどの技術力や知識、戦闘データからほぼ同等の能力を持つブラックジェイカイザーを設計できる技能。

 少なくとも彼が、只者ではないことは確かであった。


 そこまで出来の良くない頭でぐるぐると考える裕太。

 その目の前で、訓馬は二杯目の茶を飲み干した。


「私はこの惑星にたどり着き、まず地球人という存在に驚愕した」

「地球人類の特異性である、好戦性と平和愛の両立した思考だな?」


 進次郎の発言に頷きを返す訓馬。

 裕太は覚えのない特性に「そうなのか?」とエリィに耳打ちすると、呆れ混じりのため息で返答された。


「あのねぇ笠本くん、多星交流時代ともなった今では当たり前の価値観よぉ。普通、宇宙進出レベルにまで発展する文明は、どこかで同族の戦争をやめにして、惑星統一──つまりは星自体を一つの国家にするの。宇宙に出るってことは種族全体の力を合わせないと難しい大プロジェクトなんだから」

「けれど地球人類は惑星統一はおろか、国家同士で争いながらも宇宙へと出たという。全宇宙規模で考えても他に例が思い当たらない」


 そうなのか、という他人事のような感情しか湧かない裕太。

 地球人が宇宙規模で特別だとしても、今の議題はそれではないからだ。


「とにかくさ、爺さん。話がだいぶ脱線したんじゃないか? 俺が今知りたいのはジェイカイザーについてなんだけど」

「おお、すまない。初めて身の上話をするので少々興奮してしまっていた」


 年甲斐もなく、といったふうに手で照れ顔を隠す訓馬に呆れる裕太。


「まあ、そんなわけで私はジェイカイザーの隠された機能を一つ解放することに成功した」

「どういうかけでなのかはしらないが、どんな機能だ?」

「それは──」



「勇者どの! 大変でござるぞぉっ!!」


 訓馬の言葉は、突然押し入ってきたガイの叫びによって遮られた。

 邪魔しやがって、という気持ちのこもった細めた目を一斉にガイへと向ける裕太たち。


「オヤジ、どうした? 富永さんに振られでもしたか?」

「いやいや、最近はよく富永どのと食事に行ってでござるのでな……ではなくっ! これを見るでござる!」


 そう言って差し出された携帯電話に映るニュース映像に、裕太たちは釘付けになった。



  ────Cパートへ続く

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