第25話「奇跡のハイパー合体!」【Aパート 炎天下の平和】
【1】
夏らしい痛いほどの炎天下の中。
校長先生の長ったらしいありがたいお言葉を聞き終え、灼熱の体育館から出た裕太。
ふと、ポケットに入れている携帯電話の震えに気がついた。
「悪い進次郎、電話だ」
「こんな昼前の時間に誰からだ?」
「……内宮だ」
「ハッハハハ、色男は辛いねえ! んじゃ、僕らはお先に教室に戻っておくよ。おーい、サツキちゃーん!」
進次郎の軽口に口を歪ませながら、体育館裏の日陰へと入り込む裕太。
携帯電話を取り出し、通話スイッチを入れる。
「もっしもーし!」
「おい内宮、おまえ病院の中から電話して大丈夫なのか?」
「アホぬかせ。ちゃーんと電話オッケーなとこからかけとるわ」
「ならいいけどよ、要件は?」
「うち、明日退院て決まったで。あと一日早かったら終業式間に合ったんやけどな」
「校長の長話を聞かなくてよかったじゃねーか」
先日の戦いの後、黒竜王軍による肉体改造および精神制御を受けていた内宮は検査入院となった。
幸いにも大きな後遺症はなく、体力回復のために数日間安静にする流れだとすでに聞いている。
それゆえ裕太は過度に驚いたり、祝福の言葉を贈りはしなかった。
「なんやツマラン返事やな。結局うちの顔に浮かぶ光る線、消せへんやったんやで」
「それと引き換えにエクスジェネレーション能力だろ? 俺にもよこしてほしいぜ」
「せやったら、あんさんも黒竜王軍に捕まったらええやん。良くしてくれるで」
「冗談じゃない」
「せやな」
にしし、と苦笑いを浮かべる内宮の声を聞きながら、裕太は彼女に似た顔をした少年のことを思い出した。
「内宮、今朝おまえの弟が頭下げに来たぞ」
「春人が? 何て?」
「前に、お前を助けられなかったからって殴ってきたのの詫び。内宮の無事を涙流して喜んでたから、退院したらちゃんと弟にも構ってやれよ」
「あいつ、そないなことしとったんかいな。そらぁエラいスマンかったな笠本はん」
「済んだことだし、気にしちゃいねえよ」
「今度、菓子折りっちゅうわけやないけど詫びになにか持ってくわ。ほなな!」
一方的な切断に、自分の手で取り戻した平和を噛みしめる。
グレイの協力もあったとはいえ、不始末の尻拭いを成功させたことは裕太にとって何よりの励みでもあった。
教室に戻ろうかと足を踏み出すと、進路上に人の影。
「今の電話、内宮さん?」
「ちょ……銀川、何だ?」
「軽部先生に、笠本くんを呼んでこいって言われたの。ホームルーム終わっちゃうわよ?」
「今から行こうとしてたんだよ」
エリィの横に並び、校舎へと足を動かす。
照り返す地面からの反射熱が、裕太たちの肌にベタついた汗を浮かばせた。
「それで、内宮さんから何って?」
「明日、退院だってよ」
「それだけ?」
「それだけ……って、何だよ」
「抜け駆けでアプローチとかされなかった?」
その言葉で、裕太は内宮の告白を思い出し、額を思わず手で抑える。
洗脳を解除するための決め手。内宮の告白。
自分を巡る恋敵として火花を散らせるエリィと内宮に、裕太は辟易としていた。
(ラノベとかアニメに出てくるハーレム系主人公って、肝座ってるよな……)
検査入院中の内宮に、何度か見舞いに行った裕太。
その時に内宮はさり気なく裕太に体を寄せたり、露骨に退院後の予定を立てようとしていたことの意味を裕太がわからないはずもない。
その時は遅れてやってきたエリィが睨みを利かせたことで事なきを得たのだが。
それが男を巡る女の戦いの火蓋が落ちる瞬間であったことは想像に難くない。
「いいよなぁー進次郎は。もうひとりの女の子は遠く宇宙を旅してて。日常は金海さんにだけ構ってればいいんだから」
「それが僕が天才たる所以だよ色男。ま、僕はサツキちゃん一筋だけどね」
思わず「げっ」と絵に描いたような声を裕太は出してしまう。
校舎の入口を塞ぐように、サツキの手を握り格好つける進次郎の姿に、裕太はペッとツバを吐く真似をした。
「汚ねっ!」
「吐いてねーよ進次郎。それより、ホームルーム真っ最中じゃねーのか?」
「ホームルームはまだなんですけど、裕太さんにお客さんが来たって職員室から連絡がありました!」
「お客さん? 笠本くん心当たりある?」
「ああ、多分──」
「私では不服かね?」
しゃがれた声とともに背後から裕太の肩に手を載せたのは、スーツ姿の正装をした訓馬だった。
────Bパートへ続く