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第24話「新世代」【Fパート 心の中】

 【8】


 何かが失敗したというのは、誰の目から見ても明らかだった。

 それが何を狙い、何をするつもりだったかを理解していたのは格納庫に署員たちと避難していたエリィだけだった。


「あぁん、もう! あたしが居れば……」

「銀川さん、裕太は何をしようとしていたんだ?」

「あら岸辺くん、いたんだ?」

「ひどいな……」

「私もいますよー!」


 肩を落とす進次郎と元気に跳ねるサツキに苦笑いを送るエリィ。


「あのね、笠本くん。多分だけどフォトン結晶で内宮さんと交信しようとしたのよ」

「交信?」

「内宮さん、自分の心とか理性とか抑え込まれて戦う機械にされちゃってるの。だから奥底に封じられた心に呼びかけて、正気に戻そうとしたのよ」

「……へぇ?」


 あ、これは理解できてないな とエリィは確かに進次郎から感じ取った。

「とにかく、エリィさんがいれば解決するんですね?」

「ええ、そうよぉ」

「だったら行けばいいんですよ! ほらっ!」


 そう言って、いつかの時のように2脚バイクに姿を変えるサツキ。

 まっすぐな彼女の言葉は、エリィの背中を押すには十分すぎた。


「笠本くん、今行くから!」


 サツキが扮する2脚バイクに跨がり、エリィはアクセルを全開にした。



 ※ ※ ※



 ガンドローンから放たれたビームを間一髪で回避しつつ、ショックライフルで反撃する。

 宙に浮いていた砲台が地に落ちると共に、再びガンドローンが〈エルフィスGD〉から分離する。


「いったいいくつ積んでんだあいつは!!」

『魔法的な要素で無限に生み出しているのではないか?』

「物理法則もあったもんじゃねえな! ちくしょー!」


 汗だくの裕太とは対象的に、グレイが操縦する〈ハクローベル〉の動きは冷静だった。

 ガンドローンに囲まれながらも的確にビームを避け、警棒とショックライフルで1機ずつ落としていく。

 操縦技能もさることながら、それに付いていく〈ハクローベル〉の性能も目を見張るものがあった。


(あれが量産されりゃあ、安泰だろうがよ……)


 裕太が大きくため息をつこうとすると、足元からエリィの声が響き渡った。


「笠本くん、2時方向下!」

「えっ? どわっ!!」


 地に伏していたガンドローンのひとつが、スパークしながらもビームを吐いた。

 咄嗟の回避が間に合ったものの、ハッチの表面をかすめたのかコンソールから被弾を示すアラートが鳴り響く。


「銀川、お前危ないから避難してろって……」

「内宮さんと、あたしなら交信できるから! 乗せてちょうだい!」


 その言葉で、エリィの言わんとしていることはなんとなく理解した。

 下ろしたジェイカイザーの手に乗って、エリィがコックピットに入り込む。

 シート脇の空間に収まり、裕太の肩を掴みバランスをとるエリィ。


「笠本くん、フォトン結晶を〈エルフィスGD〉に!」

「わかった! グレイ、もう一度さっきのをやるから押さえててくれ!」

「ちっ! 笠本裕太、今度こそしくじるなよ!」


 再び〈ハクローベル〉が〈エルフィスGD〉に飛びかかり、背後から羽交い締めにし動きを封じる。

 出力は〈エルフィスGD〉の方に分があるのか、抜け出そうとする動きに〈ハクローベル〉の腕フレームがひしゃげていく。


「早くしろ、笠本裕太!!」

「ジェイカイザー、フォトン残量は!?」

『あと一度が限界だ! 外すなよ裕太!』

「行くぜ、ウェポンブースター起動!」


 ジェイカイザーの腕に残っていた砕けた結晶の中から、再びフォトンが溢れ出す。

 バーニアを全開に吹かせて〈エルフィスGD〉に組み付き、結晶をコックピットに押し当てる。


「銀川、頼んだぞ!」

「笠本くんも一緒に呼びかけるの! 目を閉じて集中して!」

「あ、ああ!」


 言われるままに、裕太は目を閉じて精神を集中させた。

 ただひとつ、内宮へと呼びかけるために。

 その瞬間、裕太の意識が体から離れていくような感覚が走った。



 【9】


 気がつくと、裕太は不思議な空間に浮いていた。

 言葉で表すのなら緑色に染まった宇宙といったところであろうか。


(あ、これ精神世界ってやつか)


 漫画やアニメで見たことのあるような不思議空間であったが、直前の出来事からたどって現在の状況を察する裕太。


「笠本くん!」

「銀川……? わっ!!? お前、服! 服!!」


 声につられて振り向くと、なぜか一糸まとわぬ姿のエリィが空間に浮いていた。

 光に反射して肌こそ見えなかったが、スタイルのいい身体のラインが嫌でも目に入ってくる。

 咄嗟に目を手で覆い、ワーワーと騒ぐ裕太の姿にエリィも自分の状況に気がついたのか、キャーキャー騒ぎながら胸と局部を両手で隠した。


「なんで精神世界ってやつは服を反映してくれないんだ」

「そりゃあやっぱり、服は人とは別だからじゃない?」


 裕太も自分の股間を手で隠し、ため息の後に辺りを見渡す。

 星のような光が一面に広がる緑の空の中で、ひときわ小さい人影が黒い影をまとっていた。


「笠本くん、あれ……」

「内宮か! 内宮、おい!」


 呼びかけながら近づくと、裕太たちと同じく裸の内宮が、膝を抱えてうずくまっていた。

 体勢的に局部が見えないのが、裕太にとっては幸いだった。


「内宮、もうやめよう。俺たちが戦い合う必要なんて無いんだ。帰ってこいよ、それで元通りだ」

「…………がう」

「確かにあたしたちは知らずに内宮さんと戦っていたわ。でも、それは仕方なかったからで……」

「違うんや……」


 内宮が顔を上げ、涙で濡れた顔を見せる。

 彼女のそんな顔を見て、裕太たちは閉口した。


「うちは……うちは……」

「俺たちの知らないわだかまりが内宮にはあるのか? 話してみろよ、聞いてやるから」


 裕太が優しくそう言うと、内宮は涙を手で拭い、再びうつむいて言った。

「うちはな、笠本はんが好きになってしもうたんや……」

「えっ?」


 思いもがけない突然の告白に、思わず素っ頓狂な声を出してしまう裕太。

 しかし内宮は気にも止めず、言葉を紡ぎ続ける。


「最初はな、そんなでもなかったんや。うちの誘いにも乗ってくれへんし、いけ好かない奴やなと思うてたんや。けどな、戦いの中での真っ直ぐさとか、周りの人を助けよ思う動きとかに、いつの間にか惹かれてん……」

「内宮さん……」

「けど、笠本はんには銀川はんがおる。二人の仲の良さはよう知っとるから、うちの出る幕はないんやて思うと悔しゅうて……」


 掛ける言葉が見つからずにしどろもどろになる裕太。

 最終的に内宮の弟のことを持ち出せば、正気の戻せるのだろうという考えはあったのだが、ここからどう軌道修正するかが当事者である裕太には思いつかなかった。

 仕方がないので、隣でうーんと考え込むエリィに目でチラチラと合図を送ってみる。

 すると、エリィは「仕方ないわねぇ」と一言言って、内宮の肩に手を載せた。


「あのね、内宮さん。あたし、まだ笠本くんに告白してなかったのよぉ」

「……ホンマに?」

「そうよ! そうなのよ! だから笠本くんなかなか手を出してこないし……キスだってやったこともないし……」


「おい銀川、お前なに言って……!」

「だからぁ、内宮さんにもチャンスはあるのよ! 諦めるのは早いわ!」

「うちにも……チャンスが……」


 なぜだか気持ち口元が緩みつつある内宮に、裕太はもうヤケだと言葉を投げることにした。


「そう、お前にはまだ未来があるだろ! 弟のことはどうするんだ! お前の弟な、お前のために俺を殴ったんだぞ! あんないい弟を放ってお前は……」


 我ながら無理やりな軌道修正と思いつつ、思いつく限りの言葉を内宮に投げかける。

 語彙豊富な進次郎ならもっとマシな言葉をかけられたんだろうが、今の裕太にはこれが精一杯だった。


「うちに……未来が……」


「さあ内宮」

「一緒に帰りましょう」


「……せやな」


 内宮が立ち上がると、空間が真っ白な光で満たされ、なにも見えなくなった。




  ────Gパートへ続く

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