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第24話「新世代」【Aパート ExG能力】

 【1】


 ある日曜の昼下がり。

 裕太はエリィと進次郎とサツキとともに、警察署のオフィスに座っていた。

 神妙な面持ちの大田原が手に持った書類を、裕太たちが挟む机の上にそっと置き、口を開く。


「……違えねぇ。嬢ちゃん、あんたエクスジェネレーション能力者だ」

「やっぱり! そうだったのねぇ!」


 結果を聞かされ、飛び跳ねて喜びを全身でアピールするエリィ。

 急に進次郎にと一緒に連れてこられ、そもそも何の用でここに来たかもわからない裕太はしかめっ面を浮かべるくらいしか不服を訴える手段が思いつかなかった。


「裕太……まさかとは思うが、エクスジェネレーション能力について知らないわけではあるまいな?」

「いやいや、知るわけ無いだろ。ひとの気も知らずに勝手に話を進めやがって」

「……つくづく、君の視野が地球の重力圏で止まっていることに驚くよ。まあ、この歳になるまで宇宙に行ったことがなければ無理もないか」

「進次郎さん! 私もよくわかりません! わかりませんけどダメですか?」


 親友に対しての弄りめいた皮肉が、最愛のサツキという予想外の方向に突き刺さったのがショックだったのか、大げさにゴホンと咳払いをする進次郎。

 少し困ったような表情で、つぶらな瞳を進次郎へ向け続けるサツキの破壊力は絶大だったようで、顔つきをキリッとさせメガネを指で押し上げた天才は教師気取りで解説を始めた。


「エクスジェネレーション、通称ExG能力とは宇宙進出した人類に発現した超能力のようなものだ。優れた結果予測や並列思考マルチタスクの効率化といった効果が主に確認されているな」

「……悪い進次郎、よく意味がわからん」

「フッ、天才的な噛み砕いた説明をしてやろう。例えば僕がこうやって手を上げるとするだろう? その場合、手を挙げるという動作を行うための予備動作があるわけだ。能力者はそのわずかな動きから相手の行動を予測し、一瞬で捉えることができる。なあ銀川さん」


 そう言いながら突然手に持ったペンをエリィに向けて勢いよく放り投げる進次郎。

 しかしまるで示し合わせたかのように、エリィはそのペンを難なく空中でキャッチした。


「おおー」

「うふふ、ざっとこんなもんよぉ! ぴーすぴーす!」


 笑顔でピースサインを送るエリィを見ながら、頭の中で合点がいく裕太。

 最近のエリィはなんというか、やたら勘が良いというか察しが良すぎることが多々あった。

 特に説明をしなくてもこちらの意図が伝わったり、初めて触れる機械をすんなり使いこなせたり。


「ちょっとしたことで先が読めちゃったりするから、いろいろと便利なのよぉ。例えば、今日は笠本くんが一緒にお昼を食べたいって思っているな~とか。あとで一緒に帰ろうって誘ってくれるんだな~とか♥」

「毎日いっしょに昼は食ってるし、毎日一緒に帰ってるだろ」

「んもう! そういうことじゃないのにぃ!」

「どうどう、どうどう」


 頬をふくらませるエリィをなだめる裕太。

 裕太はこうやって彼女とバカらしいやり取りをするのもなんだか久々に感じていた。

 なにせ、最近は黒竜王軍が引き金となったあれやこれやで日常が遠ざかっていたのだ。

 懐かしい気分になりながら、裕太はエリィの頭を掴みつつ進次郎の話に耳を傾ける。


「結果予測の方はわかったよ。それで進次郎、マルチクタス? っていうのは何だ」

並列思考マルチタスクは簡単に言うと、何かをしながら別のことを考える能力だな。例えば本を読みながらテレビを見るとか、頭の中で計算をしながら別のことを考えたりとかが可能となる」

「ちょっとぉ、それじゃあまるであたしがズボラみたいじゃないのぉ」

「ものの例えだと言っているだろう。あとそうだな……ガンドローンなどのドローン兵器の適正にも関わるな」


 ドローン兵器。

 裕太は一度だけそれを見たことがあった。

 宇宙を巡る修学旅行の終わりに出会った宇宙海賊。

 そのエースパイロットである女の子、レーナが搭乗していた機体に搭載されていた武装がそれだった。

 独立したビーム砲が宇宙を飛翔し、相手を取り囲んで四方八方からビームの雨を浴びせるえげつない武器である。


「ってことは進次郎。俺をさんざん顔面点数で呼んでた海賊のあいつもそのエクスジェネレーション能力者ってことか」

「そうなるな」

「なるほどなるほど……!」


 話を聞いていて裕太はひとつの可能性を考えていた。

 相手の動きを予測でき、強力な武器であるドローン兵器を使える様になる能力。

 それを自分が得れば今まで以上に強くなれるのではないかと。


「……天才的見解から言わせてもらうが、ExG能力は宇宙生まれにしか発現しないぞ裕太」

「ガーンッ」

「つまり、この歳になるまで宇宙に行った経験がない貴様には発現確率はゼロだ。残念だったな」


 秒速で希望を打ち砕かれ、裕太はガックリと肩を落とした。


「ガンドローンは能力によって送られた精神波、いわゆる意思を読み取りエネルギーとして使う武器だからねぇ。便利で強いから使いたい気持ちはわからなくはないわよ笠本くん」


 聞いてもいないのに真意まで見透かされ、裕太の肩は更に深く落ちた。



 【2】


 ゴーワンは焦っていた。

 前総帥たる黒竜王を亡き者にし、鳴り物入りでリーダーの座について、メビウス電子に取り入ったまでは良かった。

 しかしその後は憎き英傑たちと光の勇者に惨敗の連続。

 ろくな戦果も挙げられぬまま、いたずらに消耗していく戦力。

 黒竜王軍の内部でも、ゴーワンの手腕に疑問が浮かび上がってきているのを自身で感じていた。

 おまけに、最近は副官であった妖精のフリアも不在気味ときた。

 もはや、手段を選んでいられる状況は終わりつつあった。

 

 ワニの牙同然の鋭い歯でギリギリと音を立てながら、メビウス電子の地下研究所の扉を乱暴にねじ開ける。

 薄暗い室内、液体で満たされた大きなカプセルだけがぼうっと光る中で、トカゲ顔の研究員が「ヒッ」と小さな悲鳴をあげた。


「ごご、ゴーワン総帥! ご機嫌麗……しくはないようですね?」

「当たり前だ!!」


 ゴーワンの拳が机を跳ね、いくつかの試験管やビーカーがひっくり返る。

 震える研究員の傍らでカプセルの中に浮かぶ何かが、細い目を薄っすらと開けた。


「こいつを、使うぞ!」

「ええっ!? この子はまだ調整段階でして……」

「精神が不安定ならば、狂戦士化とか洗脳とか、やりようはあるだろう!」

「そう言われちゃあ、やるしかないですけど……」


 研究員がカプセルの前の機械をカタカタと音を立てて操作すると、中の液体が排出されていき水位が下がっていく。

 そして中に残されたのは、座り込んだ格好の一糸まとわぬひとりの少女。

 肌の表面に薄っすらと光る線を浮かばせながら、その少女はうつろな顔のまま立ち上がった。


(こいつなら、やれるはずだ)


 沈黙を続ける少女の身体を見て、口角をあげるゴーワン。

 頭の中に都合の良い勇者抹殺作戦のプランが次々と浮かび上がる。


「ゴーワン様」

「ン……何だ?」

「ゴーワン様、ずっとこの子の裸を見つめてますけど、もしかして人間の少女の身体に興味がお有りで……ブベッ!!?」


 言い終わらないうちにゴーワンの豪腕が空を走り、研究員の身体が宙で一回転した。



  ────Bパートへ続く

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