第3話「金色の転校生」【Dパート 召喚、ジェイカイザー!】
『裕太、もう我慢ならんぞ! 私を呼べ!』
憤慨したような声で携帯電話の中からジェイカイザーが叫ぶ。
とほぼ同時に携帯電話に着信が入った。
「こんなときに……もしもし?」
「ボウズ、俺だ。大田原だ。お前今、現場の近くにいるな?」
「どうしてそれを?」
「ジェイカイザー経由でそちらの位置はキャッチしている」
「俺のプライベートは無視かよ……」
「そこにいるなら話が早い。道が混んでて、俺達は到着にちぃとかかる。ジェイカイザーで止められるか?」
「……ええ。友達が怪我させられました」
「許可は俺が出す。命を取らない範囲で好きにやれ!」
「……わかりました。報酬は弾んでくださいよ」
「おう、期待しな」
裕太が電話を切ると、エリィが心配そうな顔で覗き込んできた。
「笠元くん……」
「銀川は進次郎のバイクを見ててくれ。……へへっ、こういうのやってみたかったんだ」
裕太はすぅぅと大きく息を吸い込み、腕を振り上げて叫んだ。
「来いっ! ジェイカイザー!!」
……辺りが静寂に包まれた。
周辺にいた野次馬や警察官が「なんだこいつ」と言った様子で裕太に冷ややかな目を向ける。
彼らがヒソヒソと話す言葉の中には裕太のことを中二病かなにかではないかと噂する声も混じっていた。
裕太は思わず、顔を赤くして携帯電話を握る手をプルプルを震わせる。
「どうしたんだよジェイカイザー!? 思いっきり叫んじゃった恥ずかしい!」
携帯電話の中のジェイカイザーに文句をいうと、ジェイカイザーは怒り顔のアイコンをピョコピョコと跳ねさせた。
『呼んですぐ来れるか! 十秒待て!』
数秒後、大通りの空いたスペースに、初めてジェイカイザーと出会ったときのような魔法陣が出現し、その中からジェイカイザーの本体がせり上がってきた。
裕太はカッコつけ損にならなかったことにホッとしつつ、屈んだジェイカイザーの腹部から伸びるコックピットハッチを駆け上がり、コックピットに座り込む。
正面モニターの横に携帯電話を置くと、免許試験のときと同じようにジェイカイザーがチープな音を出しながら本体を起動させた。
裕太はコックピットハッチを閉じると、ジェイカイザーを立ち上がらせ〈ハイアーム〉の方へと向かせ、スピーカー越しに叫ぶ。
「そこの暴れハイアーム! これ以上暴れるのはやめろ!」
裕太がそう叫ぶと、〈ハイアーム〉のパイロットがジェイカイザーに気づいたのか、カメラアイを不気味に光らせながら〈ハイアーム〉がジェイカイザーに向き合った。
「サツのマシンじゃねぇ……ってことは民間なんちゃらってやつか。公僕の犬に何ができるってぇんだ!」
〈ハイアーム〉のパイロットは強気な姿勢を崩さず、裕太を煽るようにスピーカー越しに啖呵を切る。
『裕太! 話の通じる相手ではないぞ! 戦うんだ!』
「しゃあねえ!」
裕太が正面モニターを操作すると、ジェイカイザーの右足側面が開き、そこから警棒が飛び出した。
『ジェイ警棒!』
「剣、まだ返してもらってないのかよ!」
警棒を握って格好の付かないポーズを決めるジェイカイザーに、裕太が思わずツッコミを入れる。
『大田原殿いわく、いろいろと法律違反になるとかで没収されたままなのだ……。それより、ジェイ警棒ってJK棒に聞こえて何かよくないか?』
「なんだよ女子高生棒って! 自撮り棒か!? アホなこと言ってないで奴を止めるぞ!」
警棒を構えて向き直るジェイカイザーの様子を見てか、〈ハイアーム〉のパイロットが高笑いをする。
「来れるなら来やがれ! この渋滞した車を踏み越えていけるならな!」
「ぐっ!?」
そう言われて裕太は足元を見ると、事件の影響で渋滞した車が〈ハイアーム〉のもとまでズラーッと並んていた。
一部の隙間もなく車が敷き詰められたこの状態で、やや離れたところを陣取っている〈ハイアーム〉に車を傷つけずに近づくのは困難極まりない。
「乗用車は数百万円もする高額品……! 父さんだって未だに車のローンに苦しんでいるのに、人様の車を踏み壊すことはできねぇ……!」
「そこは、運転手が心配とかにしなさいよぉ!」
エリィのツッコミに聞こえないふりをしていると、再び大田原からの着信が携帯電話に入る。
「ボウズ、状況はどうだ?」
「大田原さん。渋滞してて敵に近づけないんです」
「そうだな……お前の近くにトラックがねぇか? 富永が運転してるはずだが」
「トラックってまさか……」
裕太は嫌な予感がしながら、先程投げられ横転したままになっている大型トラックにジェイカイザーのメインカメラを向けた。
すると予想通り、運転席の中で目を回している富永の姿が。
「やっぱり……。大田原さん、見つけました」
「そのトラックの荷台に警察の新兵器がある。うまく使え」
「うまくって言われたって……」
裕太はボヤきながらジェイカイザーを操作し、大型トラックの荷台コンテナをマニピュレーターでこじ開けた。
「中には、キャリーフレーム用の盾と、これは……?」
ジェイカイザーの手が掴んだそれは、黒光りするグリップと巨大な銃身を備えた、キャリーフレーム用の銃器だった。
それはアニメに出てくるロボットが持っているような、白い装飾がついているゴテゴテとした外見をしている。
『かっこいい武器だな、裕太!』
呑気にはしゃぎ声を上げるジェイカイザーとは対象的に、裕太は頭を抱えつつ。
「……大田原さん。まさかこれ、ビームライフルだとか言わないですよね?」
「馬鹿野郎。何で警察がビーム兵器持つ必要がある」
「まあ、言われてみれば確かに」
「そいつはショックライフルってぇ武器でな、帯電させた粒子を発射して一発で敵機を機能停止させるっつぅ代物だ」
「ショートさせるわけですか。にしてはデザインに趣味が入っているようにも見えるんですけど」
「技術部の連中が勝手にやったことだ。気にするな」
「へぇ……それじゃ早速」
裕太は操縦レバーを引きつつペダルを踏み、ジェイカイザーの持つショックライフルの銃口を〈ハイアーム〉へと向けた。
───Eパートへ続く