第23話「新たな英傑、新たな力」【Eパート 炸裂!合体攻撃!】
「あの爺さん、こんな隠し玉持ってたのか」
『……見たところ、この間エリィどのが操縦していた〈ブラックジェイカイザー〉に内宮どのが乗っていた〈ウィングネオ〉のパーツを使ったものみだいだぞ!』
「それでブラックジェイカイザーネオカスタムウィング?」
『ブラックジェイカイザーウィングネオカスタムだ!』
「……修飾子のバーゲンセールみたいになってるな。もうブラックでいいだろ」
呆れながら、裕太は心強さを感じていた。
魔法騎士エルフィスが張った風でできた魔法の壁が消えると同時に、裕太はペダルを踏み込んだ。
駆け出すと同時にビームセイバーを抜き、一刀のもとに〈メレオン〉を両断する。
その横をバーニア全開で飛ぶブラックジェイカイザー。
少し頼りない動きながらも腰部に格納されていたジェイブレードを抜き、射撃モードで遠距離にいた〈メレオン〉を撃ち抜いていた。
(あのジェイブレード、前にブラックジェイカイザーに渡したやつだ……)
エリィの戦いぶりを見ながら裕太はそう思ったが、武器には困ってないしいいか……と気にしないことにした。
「き、貴様ら卑怯だぞ!」
遠くから響く、自らの行為を何段も棚に上げたゴーワンの叫び。
裕太も外部スピーカーを全開にして、
「何が卑怯だ! 不意打ちくらいしかできないくせに、このワニ野郎!」
「なんだとぉ! 貴様ワシをワニと呼んだな! 許せん!!」
ゴーワンが怒声を放ち、手に持った斧を空高く振り上げる。
すると上空に穴のようなものが広がり、その奥から円盤のような巨大な物体が出現した。
『な、なんだあれは!?』
「グハハハハ! あれこそ黒竜王軍の戦闘要塞、〈エルカーゴ〉である! 〈エルカーゴ〉よ、光の勇者を叩き潰せ!」
ゴーワンの指令を受け、底面から光弾を発射する〈エルカーゴ〉。
距離がありすぎるためか見当外れな場所に着弾する弾丸が、地面にボコボコと穴を開けていく。
「うわっ! なんだよこれ!?」
『測定したところ小型の宇宙戦艦クラスの大きさはあるぞ!』
「当たったら痛いじゃ済まなさそうだが……デカイだけならやりようはある。おい銀川!」
通信回線を開き、ブラックジェイカイザーに乗るエリィを呼び出す裕太。
コンソールに、やたら嬉しそうな顔をしたエリィが映し出された。
「はぁい! 笠本くんなにかしら?」
「同時攻撃であのデカブツを仕留めるぞ、いいな?」
「おっけー!」
まるでこちらの意図が100%伝わったかのようなやりとりに違和感を覚えつつも、裕太は操縦レバーを押し込んですぐに戻し、ギュッと握るように力を込めた。
裕太のイメージをトレースするようにジェイカイザーの腕がビームセイバーを手に取り、その光の刃を発現させる。
ブラックジェイカイザーもまた、名にふさわしくない緑色の腕でジェイブレードを構えていた。
「合図をしたらウェポンブースターで剣を強化しながら、バーニアを吹かせて突っ込むぞ!」
「おっけぃ! ……ってどうやってやるのかしらぁ?」
『不甲斐ないマスターの代わりに、私がご主人様に合わせます』
『裕太! 私もジュンナちゃんに合わせたいぞ!』
「うるせージェイカイザー! お前は格闘戦シロートだろうが!」
文句を垂れる相棒に悪態をつきながら、コンソールを操作しウェポンブースターを起動。
ジェイカイザーの腕からエネルギーを増幅するフォトン結晶が伸び、ビームセイバーを包み込む。
ちらり、と横を見て、ブラックジェイカイザーの方も準備できているか確認。
肥大化していく結晶の刃を見た裕太は正面を見据え、大きく息を吸った。
「…………いくぞッ!」
『はい、ご主人様』
背部のバーニアが同時に火を吹き、ふたつの巨人が大地を蹴る。
息の合った動きで敵の〈エルカーゴ〉へと接近する中、間の抜けた声が通信越しにこだまする。
「ああん! あたしが笠本君に応えかったのにぃ!」
『私もジュンナちゃんに合図を送りたいぞ!』
「ええい、黙ってろお前ら!!」
光弾の雨をかわし、ぐんぐん上昇する2機。
その間にもフォトン結晶は緑の光を放ち、手に持つ武器を活性化させていく。
「今だ!」
「『「『必殺!!』」』」
「強化同時斬!」
『ジェイカイザーダブルスラッシュだぁぁ!』
「ハイパーコンビネーションアタックよぉ!」
『ツインクロスブレイド!』
四者四様、思い思いの合体技名を叫び、ふた振りの巨大な光の剣が空中にXの字を描いた。
その交点に位置する〈エルカーゴ〉が、切り口から火を吹き、光を漏らす。
刹那、その巨大さに見合う凄まじい爆発が空を覆い尽くさんばかりに広がった。
周囲の大気は振動し、爆風で地面が悲鳴をあげる。
さしもの空中要塞〈エルカーゴ〉もこのダメージには耐えきれなかったのか、炎を上げながらフラフラと高度を落とし始めた。
「あっ」
地面に着地したジェイカイザーの中で、裕太は声をこぼした。
「どうしたのぉ?」
「あのままアレが落ちたら、大惨事じゃね?」
『あっ』
「あっ」
『あら』
合体技の時以上にシンクロした声を出す一行の前で、〈エルカーゴ〉はどんどん地面に近づいていた。
落下地点に人はいないだろうが、大規模な山火事に繋がることは想像に難くない。
「この局面、魔法騎士エルフィスが引き受けた!」
声とともにジェイカイザーの前で、ボロボロのエルフィスが飛び上がった。
その驚異的な跳躍力は、おそらく魔法の類から発揮されるものであるのだろうが、全身に傷を持ちながらを〈エルカーゴ〉へと迫るその小さな背中は、この場のどの機体よりも大きく頼りがいがあると裕太は感じた。
「我が手に集う風よ、吹き荒れろ! ドルオーン!」
エルフィスの叫びとともに突き出された掌底から、目に見えるほどの激しい風が竜巻のように吹き荒れる。
その風は支柱となるように〈エルカーゴ〉を下から持ち上げ、その高度の低下を食い止めた。
「黒竜王軍に告ぐ! 我らとしても無駄な人的資源の損失は願うところではない! 祖国に戻ればそなたらにも、打つ手があろう! 即刻この世界より立ち去れ!」
ドスの効いた、迫力のある訴え。
エルフィスの覇気に押されたのかは知らないが、素直に言うことを聞くかのように〈エルカーゴ〉の上空に穴が開き、出現した時の光景を巻き戻すかのように穴の中へと巨大な要塞は姿を消した。
「すげぇ……」
静寂を取り戻した空に浮かぶ、異世界から来た英傑。
その小さくも頼もしい姿に裕太は素直な称賛を送った。
※ ※ ※
「そ、そんなバカな……!」
この事態に愕然するのは、地上から戦いを見物していたゴーワンだった。
旋風の英傑を不意打ちで倒し、軍隊さえ出しゃばって来なければ〈エルカーゴ〉をぶつければ済むという驕りが、自らの敗北を招いた結果となった。
メビウス電子からショックライフルを借りたのは、こちらの世界へ来る魔法騎士エルフィスが機械種族ゆえに、対機械の武器が効くだろうという予測からだった。
しかし、機械生命体という種族のバイタリティが想像を越していた。
ゴーワンの脳裏に、この世界に来てからのことが思い出され、よぎる。
黒竜王を抹殺し、総帥の座についてからというもの、彼はたった一度の勝利も手にしていなかった。
光の勇者暗殺のために送りこんだ刺客は逮捕され、手持ちの軍勢は次々と数を減らしていく一方。
更には自らの魔術巨神は修復中に、本国《タズム界》から呼び寄せた〈エルカーゴ〉も大破。
このままではせっかく手にした総帥の座も危うくなってしまう。
「こうなったら……!」
冷や汗と青筋に溢れた顔を押さえながら、ゴーワンはその場をあとにした。
…………Fパートへ続く