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第23話「新たな英傑、新たな力」【Dパート 裕太の決意】

 【7】


「フ……鍵も閉めぬとは、少々不用心がすぎるのではないかな?」

「お前は……! よく俺の前に顔を見せられたな……!」


 閉め切った暗い部屋のドアを開けた老人を見て、裕太は反射的に悪態をついた。


「笠本裕太くん。君が私を恨むのも、無理はないか」

「当たり前だ。お前があいつを……内宮を殺したも同然だろうが!」

「……そして、君の闘志をも殺してしまったか。紛れもない大罪だ」


 訓馬が電灯のスイッチを入れ、部屋の隅にある椅子に腰掛ける。

 老人の目的がわからない裕太は、泣き腫らした目を片目で抑えながらも、警戒心をむき出しにして老人を睨みつける。


「私は罪を償わなければならない。この世界にも、君にも」

「……何が言いたいんだ」

「落ち込み嘆き、悲しんでも気がすまないのならいっそ、元凶であるこの老いぼれを殴り倒すがよかろう。それで君の気が晴れるなら私は構わんよ」

「人を殴るのは嫌だ」

「……優しいのだな」

「違う、お前を殴っても内宮を守れなかったことが無くなるわけじゃない」

「そうか……」


 立ち上がり、背を向ける訓馬。

 裕太は、彼の頼りない背中へと言葉をぶつけるように口を開いた。


「俺はヒーロー気取りになってた。周りから持てはやされてさ。勇者って呼ばれていい気になっていたんだ。友達ひとり守れないのに」

「状況は知っている。だが、決して君の責任では……」

「いいや、俺が敵に気づいていれば! もっと早く敵を倒せていたらああはならなかったかもしれないだろ!」


 裕太の叫びが、虚しく部屋に響き渡る。

 もし、たら、れば……そう言っても状況が変わるわけでもない。

 しかし、自尊心を失った心とはいとも簡単に自分を傷つける。


 短くも長い静寂の後、訓馬がため息とともに振り向き、懐からひとつのタブレット端末を取り出した。


「笠本裕太くん。君がヒーローかどうか、勇者かどうかはさておこう。しかし、今何が起こっているのか、君は知る義務がある」


 そう言って訓馬がタブレットのボタンを押すと、その画面に映像が映し出された。

 映像を見た裕太は目を見張り、奪うように訓馬からタブレットを取り上げ、食い入るように画面をくまなく見つめる。

 背景には河原と木々、飛び交うショックライフルの光弾、響くジェイカイザーとエリィの声。

 エリィがジェイカイザーに乗った状態で、何者かに襲われているのはひと目でわかった。


「こ、これは……!?」

「現在、ジェイカイザーが見ている光景だ。今、彼らは黒竜王軍の襲撃を受けている」

「警察は!?」

「場所が結構遠く離れていてな、到着には時間がかかるだろう」


 裕太は歯を食いしばりながら、その場に自分がいないことを憂いた。

 助けに行ければ、ジェイカイザーに乗れるのなら……。

 裕太が拳を床に叩きつけると、訓馬がポケットから小瓶を取り出し、裕太に手渡した。


「それは……?」

「そのビンの中に、ジェイカイザーのワープ移動に使う粒子が入っている。君が助けに行きたいなら、ビンを開けて行きたい場所を念じるといい」

「……!」

「フッ……あの場で助けを待っている者たちは、自分たちのヒーローを待っているのだよ。笠本裕太というヒーローをな」

「俺が、ヒーロー……!」

「世界を守るヒーローなどは、別の者に任せておけばいい。君は、君の大切な人が求めるヒーローになればよいのだと、私は思うがね」


 大切な人の……エリィのヒーローになる。

 等身大の高校生である裕太には、その身の丈にあったヒーロー像が必要だったのかもしれない。

 ビンを握りしめ、立ち上がる。

 涙を拭い、


「訓馬さん、本当にこいつであそこにいけるんだな?」

「ああ。内宮もよく使っていた」

「……わかった」


 裕太はビンのフタを思いっきり引き抜き、心のままに叫んだ。


「今助けに行くぞ、銀川とジェイカイザー!」



 【8】


「きゃああっ!」


 回避しようとして片足が河に入ってしまい、底で足を滑らせてバランスを崩すジェイカイザー。

 目の前にいるカメレオン型の〈メレオン〉はその手に持ったショックライフルを次々と発射し、ジェイカイザーを追い詰めていく。


『エリィどの! このままではエリィどのもろともやられてしまう!』

「逃げろっていうの!? そんなことしたら笠本くんになんて言えばいいのよぉ!」

『しかし、エリィどのが傷つきでもしたらその時こそ裕太に申し訳が……』


 そんなやり取りをしている最中だった。


「どわっ!?」

「きゃっ!?」


 一瞬の光と同時に、突然エリィの膝にかかる重量。

 眼の前にいきなり、裕太が現れたのだった。


「ここは……ワープは成功したのか?」

「笠本くん!? お、重いわよぉ……」

「あ、悪ぃ」


 コックピットの壁に手をついて、パイロットシートの脇に立つ裕太。

 


「笠本くん、大丈夫なの?」

「ああ、心配かけてすまなかった。あとは俺に任せて……」

『今、任せるんじゃない! 正面から撃たれるぞーっ!』


 ジェイカイザーの叫びを受け、エリィは反射的にレバーを捻り上げる。

 ヘッドスライディングをするような動きとともに、地面を削る巨体。


「なんだって連中ショックライフルなんて持ってんだよ!」

「知らないわよぉ! どこかから盗んできたんじゃないのぉ?」

『早く起きなくては……!』

「あっ!」


 もたもたと立ち上がろうとするジェイカイザーの前で、〈メレオン〉がショックライフルを構えていた。

 この体勢からは、回避は無理。


 そう思った時だった。


「ウィンドウォール!!」


 勇ましい叫びと共に、ジェイカイザーの周りを竜巻のような風が取り囲む。

 足元にカメラを向けると、膝をついた魔法騎士マジックナイトエルフィスが息を切らせ胸に手を当てていた。


「エルフィスさん!?」

「私の体力では、これが限界だ。今のうちに……!」


 エリィは、裕太と顔を見合わせて頷いた。



 ※ ※ ※



「マスター。とても危なっかしい操縦でしたね」


 裕太にコックピットを任せ、地面に降りたエリィを待っていたのは、魔法騎士マジックナイトエルフィスを背負ったジュンナの辛辣なセリフだった。


「仕方ないじゃない。あたしは操縦へたっぴだし、ジェイカイザーのコックピットは笠本くん仕様の調整されているし……」

「では、マスターが使うことを前提にセッティングされた機体があればいいのですね?」

「へ? それってどういう……」


「ブラックジェイカイザーウィングネオカスタム、転送」


 ジュンナがそう唱えると、ジェイカイザーの後方が白い光に包まれた。

 魔法陣こそ出ないものの、光の中に1機のキャリーフレームが出現する。

 その外見は名前とは裏腹に緑色の装甲に覆われた、ウィングネオそのものの格好をしていた。


「こ、これは……?」

「たった今、訓馬と名乗る老人から通信が入りまして。なんでもマスターが操縦できるように良いOSを積んでいるとか」


 経緯はともかく、エリィはその言葉の意味が何となく理解できた。

 ちょうど、自分の力の無さに不満を持っていたところに渡りに船。

 この機体なら裕太の手伝いができると、直感的に感じ取った。


 急いでブラックジェイカイザーウィングネオカスタムに乗り込むエリィ。

 乗り込みながら(名前長くなぁい?)と思いつつ、パイロットシートに座り電源を入れる。

 見覚えのあるOSの画面を見て、エリィは以前に乗ったキャリーフレーム〈ヴェクター〉を思い出す。


「やっぱり、あのOSなのね。これならあたしでも……」

『マスター、うぬぼれは禁物ですよ』

「ひゃあっ!?」


 コンソールから突如響いたジュンナの声に、驚いてひっくり返るエリィ。


「ど、どこから!?」

『驚きすぎです、マスター。ジェイカイザーと同じように、私がマスターのサポートをさせていただきます』

「そんなことできるんだったらジェイカイザー操縦してたときにやってほしかったわよぉ」

『嫌ですよ、あの中に入るなんて』


 地味に拒否られたジェイカイザーに同情しながら、エリィは操縦レバーを握りしめた。

 指先のビリっとした感触とともに、自分の神経が機体と同調するのを全身で感じる。

 エリィはゆっくりと、力強くペダルを踏み込んだ。



  ────Eパートへ続く

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