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第23話「新たな英傑、新たな力」【Bパート エルフ族の魔法騎士】

 【3】


 ──守れなかった。


 裕太は自室の隅で、膝を抱えていた。


 内宮という、それなりに交流を持っていた人物を目の前で喪ったことは、裕太の心に甚大なダメージを負わせていた。

 その人間が周りからいなくなってしまった虚無感だけではない。

 彼女の親類──内宮春人(はると)から裕太自身の無力さを叱責されたのも、心に追い打ちをかけていた。


(また、繰り返しちまった)


(ヒーロー気取りで、バカやってたんだ)


(結局、母さんのときから何も変わっていないじゃないか)


(俺は……)


 母に続いて内宮を救えなかった裕太には、それが何の解決にもならないとわかっていても、自分自身を責めて傷つけることしかできなかった。



 ※ ※ ※



「はーい、律取りつとる署に行けばいいのねぇ? おっけー!」


 ルンルン気分で、エリィは先程まで大田原と通話していた自分の携帯電話を耳から離した。


『ふっふっふ、エリィ殿も楽しみなのだな!』

「そりゃあもちろん! だってぇ、あのエルフよ!」


 弾んだ声のジェイカイザーに、似たような声質で返す。

 この前の戦いで見たワニ男を除けば、初めて出会う異世界の異種族。

 水金族やワタリムシといった宇宙由来の存在とは顔を合わせてきたが、ファンタジックな異世界ともなれば話が別である。


「きっと俳優も顔負けのイケメンに違いないわぁ!」

『いやいや、きっとグラマーな美人かもしれんぞ!』


『ご主人様が大変だというのに、マスターもジェイカイザーも呆れたものですね』

「『!?』」


 手に持ったエリィの携帯電話から響く、静かな声にギョッとするふたり。もとい一人と1機。


『じゅ、ジュンナ……ちゃん?』

「どうしてあなたの声が!? 電話……じゃないわよねぇ」


『ジェイカイザーがご主人様の端末に施したプログラムを解析し、マスターの端末に同じような構造を入れ込んだのです。この程度、私には造作も無いことです』

「あなたって……結構、有能なのねぇ」

『それほどでも』

『カーティス殿にパンツを見せなくて良いのか?』

『しばらく見せてたら飽きられました』

「そう……」


 こうしている間に本体は大丈夫ななのだろうかとエリィは疑問に思ったが、日頃の毒舌の仕返しにあえて言わないことにした。



 ※ ※ ※



「あそこね、律取りつとる署!」


 律取りつとる区は、普段エリィたちが暮らしている代多よた市の外縁に位置する地区である。

 背の低い住宅や商店が立ち並ぶ、田舎に片足を突っ込んだのどかな場所だ。


 エリィは空がよく見える風景の中、無駄に駐車場の広いコンビニの隣にある、灰色の交番に足を踏み入れた。


「えっとぉ、大田原さんから話聞いてないですか? 迷子の人を引き取りに来たんですけど」

「あ、ああ。迷子ね……エルフさーん」


 エリィの話を聞いた警官は困惑したような表情で、奥の椅子に腰掛けた人物に声をかけた。


「そうか、君がガイの言っていた迎えの者か」

「え……あなたが英傑……さん?」

『あれが、エルフだというのか!?』

『あらまぁ……』


 椅子から立ち上がった人物を見て、次々と言葉を失うエリィ達。


 1メートルちょっとの身長、西洋鎧にそのまま短い手足が生えたような体型。

 そして兜の全面から覗かせる顔は、例えるならキャリーフレーム〈エルフィス〉の顔のカメラアイ部分に瞳を描いた……そんな形状をしていた。


「私は魔法騎士マジックナイトエルフィス。旋風の英傑だ」


 デフォルメされたエルフィスが鎧を着たような人物は、爽やかな声で名乗った。



 ※ ※ ※



「エルフ族、って《《エルフ》》ィス族って意味だったのねぇ……」


 黄色いスカーフを首元(?)に巻いた魔法騎士マジックナイトエルフィスを連れてカーティスの家に向かいながら、エリィは呟く。

 確かにガイの情報通り、彼の耳の部分には後方に長く鋭く伸びた、ブレードアンテナが存在する。


 もともと、〈エルフィス〉という機体名はファンタジー世界の耳長種族であるエルフから取ったものである。

 エルフの長耳を思わせるブレードアンテナや、その叡智えいちを思わせる高度な操作補助AIなどからは、決して名前負けさせないぞという設計者の意気込みが感じられる。


「我々エルフ族はタズム界の機械種族・マシーナの中でも、ザンク族やガブリン族に並ぶ武勇に優れているのだ。一族としての誇りのため、そして正義のために私は英傑として黒竜王軍と戦っている」

「ザンク族? ガブリン族? それってこの世界だと、キャリーフレーム……ええと、大きなロボット・キャリーフレームの名前なんだけどぉ」


 次々と魔法騎士マジックナイトエルフィスの口から飛び出す、聞き覚えの有りすぎる単語に面食らうエリィ。

 話を聞くに、どうやらタズム界(向こうの世界)では彼のように、キャリーフレームをモデルにしたとしか思えないような機械種族が各地で生きており、人間や他の種族と共に共存しているだという。

 しかもその姿もまた彼同様、名前の由来となった機体をデフォルメしたような姿をしているらしい。


 偶然の一致にしては不可思議である。

 こちらの機体をベースに向こうの世界で種族が生まれているのか、それともその逆なのか。

 鶏が先か卵が先かと考え始めそうになったが、後方から突如聞こえた叫び声にその思考は打ち切られた。


「だ、誰か止めてくれー!!」


 車がほとんど走っていないいた道路を踏み抜きながら、1機の作業用キャリーフレーム〈ハイアーム〉がエリィ達の横を通り過ぎていった。

 ひと目見て、エリィは何が起こっているのかを理解した。


 広く普及している〈ハイアーム〉は、初期生産型だけに致命的な欠陥が存在する。

 それは、移動を司るフットペダルの押し返しが弱く、メンテナンスを怠ると押しっぱなしになってしまうというものだった。

 きちんと整備さえすれば避けれる不具合だっただけに発見が遅れ、メーカーが無料修理リコールを実施した後もその不具合を孕んだままの機体は決して少なくない。


『マスター、このままではあのマシーンは高層建造物に激突してしまいますよ』

『エリィ殿! 私を召喚してくれ!』

「って言われてもぉ、もう間に合わ──」


 言いかけて、一陣の風が走った。

 隣にいたはずの魔法騎士マジックナイトエルフィスが駆け、一瞬で暴走する〈ハイアーム〉を追い抜き、その進路上に立つ。

 続いてマントを翻し、首に巻いていた黄色いスカーフをほどいてその手に握った。


「エルフィスさん!? 危ないわよぉ!」

「心配は無用だ。唸れ、風神剣!!」


 魔法騎士マジックナイトエルフィスが手に持ったスカーフを勢いよく振った瞬間、周囲に突風が吹き荒れた。

 と同時にうっすらと見える透明な白い刃が空中を走り、次々と〈ハイアーム〉の関節部分を貫き、スパークさせる。

 一瞬の後、〈ハイアーム〉は前のめりに倒れて動かなくなった。


 エリィは風でめくれ上がりそうなスカートを手で抑えながら、目の前で起こる超常現象に口をぽかんとあけて見守ることしかできなかった。





  ────Cパートへ続く

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