第22話「出現! ブラックジェイカイザー」【Eパート 完敗】
背後から飛んでくる光弾に対し、無駄だとわかっていてもエリィは反射的に顔を守るように腕を上げるしかなかった。
自分が先程組み上げた、何世代も前のOSに自動で被害を抑える体制を取るダメージコントロール機能など存在しない。
たとえこの機体に防御装置が積んであったとしても、OSが対応していなければ何の役にも立たない。
まっすぐに自分へと向かってくる業火の炎に、少女はあまりにも無力だった。
──死なさせへんで!!
頭のなかに電撃が走るような感覚とともに響くように聞こえた声。
その声に導かれるようにエリィは閉じていた目を見開いた。
カメラ越しに映る、若草色の装甲に身を包んだ〈ウィングネオ〉の姿。
スローモーション映像のように、エリィを守った機体は、炎の中へとゆっくり崩れていく。
「あ……あ…………!」
そのキャリーフレームに誰が乗っていたのかは分からなかったが、それが悲しいことであると、彼女の直感は告げていた。
※ ※ ※
内宮千秋は、宙を舞っていた。
無我夢中、戦闘機形態の〈ウィングネオ〉で黒いジェイカイザーを庇った彼女は、光弾に当たった衝撃で吹き飛んだコックピットハッチから、その身体を投げ出されていた。
(ああ、これ陰になっとるな)
一瞬のはずの数秒を、まるで何時間もの長い時かのように感じながら、内宮は自分が崩れゆく〈ウィングネオ〉で隠されて、裕太やエリィからは見えないなと、ひどく冷静に分析していた。
(見えんほうがええか。笠本はんに哀しまれるのも、なんか嫌やしな)
燃え盛る地面に近づきながら、内宮は顔を上げる。
アニメに出てくるヒーローそのものな格好のジェイカイザーが、視界に映る。
(うちも、正義の味方に……なりたかったんかな。いや、笠本はんの隣におりたかったんかも知れへん。今となっては、遅いな……)
そうして、少女は炎の中へと消えた。
【6】
エリィの頬に、涙が一雫伝う。
目の前の出来事に、なぜだか涙を流さずにはいられなくなった。
「こなくそっ!!」
電話越しに聞こえる裕太の怒声。
不甲斐ない自分を守るために、戦っている。
気づいた時には、自然に指が動いていた。
巨大なカメレオンのような口をこちらに向けて開ける〈メレオン〉の方を見ること無く直感でレバーを操作し、攻撃を回避しながらキーボードを叩く。
無心に、ただ研ぎ澄まされた自分の感覚だけを信じて、エリィは手を動かし続けた。
※ ※ ※
黒いジェイカイザーが横に跳び、身体をかがませ、跳躍する。
死角からの攻撃でさえも的確に交わすエリィの操縦に、裕太は舌を巻いていた。
「あいつ、あんなに動かせたんだな……」
『感心している場合ではないぞ! 今のうちに反撃だ!』
「おう!」
エリィを守ることに向いていた意識を、攻撃に転用する。
ショックライフルを抜き、照準を合わせてトリガーを引く。
放たれる電撃弾が、次々と〈メレオン〉を射抜き、機能を停止させた。
「キシャァァッ!」
「くっ!!」
唸り声をあげながら巨大マチェットを振り下ろす〈メレオン〉の攻撃をすんでのところでかわし、ジェイカイザーの脚で蹴り飛ばしてショックライフルを浴びせる。
『裕太、弾切れだ!』
「だったら、こいつだ!」
脚の収納スペースから飛び出したビームセイバーを握り、輝く刀身で近寄ってきた〈メレオン〉を両断する。
「……今更だけど、連中に人乗ってないよな?」
『生命反応はないが……』
「だったら遠慮なしだ!」
裕太はペダルを踏み込み、〈ブラックジェイカイザー〉へと向かう敵へと駆けた。
※ ※ ※
「……よし、調整完了! 笠本くん、ジェイブレードを!」
キーボードを仕舞いながら、携帯電話に声をぶつけるエリィ。
ジェイカイザーの手から投げ渡されたジェイブレードをキャッチし、コンソールを操作してエネルギーを伝達させる。
緑色に輝く結晶状の刃が現れ、その刀身が描いた半円に〈メレオン〉が飲み込まれる。
「やったわぁ! 見た、笠本くん!」
「やるじゃないか銀川! このまま押し切るぞ!」
「ええ!」
※ ※ ※
襲い来るカメレオン型の魔術巨神を次々と切り伏せるふたつのジェイカイザー。
レーダーから次々と消えていく敵を表す光点。
「「ラストぉっ!」」
ビームセイバーとジェイブレードを同時に突き刺された最後の〈メレオン〉が爆発の中へと消えていった。
「……これで、終わったんだな」
倒した機体の残骸が散らばる荒れ地を見渡し、裕太は一息をついた。
その中に1機倒れる、エリィを庇い倒れた〈ウィングネオ〉へと視線が向く。
コックピットハッチが吹き飛び、その周囲の装甲が熱で溶けかかっている惨状に、思わず息を呑んだ。
『む、この機体は……以前私を助けてくれたものと同じだ』
「以前?」
覚えのないジェイカイザーの発言に、首をかしげる裕太。
裕太の疑問に応えるように、エリィが電話越しに口を開いた。
「笠本くんが風邪を引いた時、あたしがジェイカイザーに乗ったのよぉ。その時に、ピンチになったあたしを助けてくれたの」
「そうなのか……」
裕太はカメラ越しにボロボロのコックピットを覗き込んだ。
光を受けてキラリと光る、パイロットシートの上の何か。
カメラをズームアップした裕太は、見覚えのあるその物体を見て、言葉を失った。
小さな歯車をあしらった、ネックレス。
首にかける鎖はちぎれているが、それは紛れもなく裕太が内宮へと送った……あのアクセサリーだった。
「まさか、この機体に乗ってたのって……!!」
「笠本くん、危ない!!」
横から突き飛ばされ、倒れるジェイカイザー。
と同時に地面へと突き刺さる巨大な青龍刀、肩から切断され宙を舞う〈ブラックジェイカイザー〉の右腕と、崩れる右脚。
「銀川っ!!」
「グハッハッハ! 光の勇者の女を侮っていたのは吾輩のミスだが、こうなれば直々に引導を渡してやろう!!」
上空から降り立つ巨大な影。
悪魔のような両翼を羽ばたかせながら地響きを立てて着地したその機体は、ファンタジーゲームに出てくる竜人・リザードマンそのものだった。
ひとつ異様な点を上げるとすれば、その大きさがキャリーフレームの標準サイズを大きく超える、15m近い巨大な体躯をしていることだった。
指先からワイヤーのようなものを出し、青龍刀に巻き付けて回収するリザードマン型のマシーン。
「こ、こいつは……!?」
「恐れ慄け人間ども! この吾輩専用の魔術巨神・〈ライザード〉の力を……ぐはっ!」
真横から飛んできた弾丸に頬を撃ち抜かれ吹っ飛ぶ〈ライザード〉。
弾丸の飛んできた方へ裕太が振り向くと、そこにはカーティスの〈ヘリオン〉が巨大な右腕レールガンを構えて格好をつけていた。
「おうおうおう、デカトカゲさんよ! それ以上俺様のビジネスパートナーと下着供給係をいたぶらせはせんぜ!!」
色々とツッコミたいことが沢山あるカーティスの発言だったが、その衝動をぐっと堪える裕太。
一方、不意打ちを受けて倒れた〈ライザード〉だったが、立ち上がったものの挙動不審な動きをしていた。
外部用のスピーカーがつけっぱなしになってるのか、ゴーワンと名乗った者が出していた野太い声と、子供のような声が響き渡る。
「あわわわ、ゴーワン様! 軍がきたですよ!」
「ええい、もうか! 仕方がない、撤収だ!」
そう言って、〈ライザード〉が大きな翼をはためかせ、空に開いた黒い穴の中へと逃げるように消えていった。
おそらく、カーティスの機体を見て米軍が来たのだと勘違いしたのだろう。
『……なんとか、勝ったな』
「いや──」
片腕と脚をやられて地面に転がるエリィの〈ブラックジェイカイザー〉、ボロボロで地に付す内宮の〈ウィングネオ〉。
カメラ越しに壊れた2機を見て、裕太は乱暴にコンソールへと拳を打ち付けた。
「──俺達の、完敗だ……」
【7】
少女は、夢を見ていた。
できれば永遠に見続けたいと思えるような夢を。
「笠本はん、一緒に帰ろうや」
「いいぞ、内宮」
自分の理想だけが形となったような都合の良い風景。
「なあ、笠本はんの家に遊びに行ってええか?」
心に秘めた思いが、伝えられなかった気持ちが幻として現れていた。
「笠本はん。実はうち、笠本はんのことが……」
幻が消え、現実が見える。
手や足に感覚はなく、鈍い痛みが全身を包み込む。
薄っすらと開いた目には、人陰のようなぼんやりとした輪郭だけが映っている。
「……なかなかのサンプルだ」
「……これならば…………耐えうる…………」
聞いた覚えのない声を聞き、内宮は深い眠りへとついた。
その身体が、一糸まとわぬ姿で培養液に満たされたカプセルに浮いているとも知らずに……。
……続く
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登場マシン紹介No.22
【ブラックジェイカイザー】
全高:8.9メートル
重量:8.8トン
ジェイカイザーと瓜二つの外見をしたマシーン。
青を基調としたジェイカイザーとは違い、装甲は黒に塗装されている。
ジェイカイザー同様フォトンエネルギーを動力源とし、ジェイブレードも使用可能。
訓馬がジェイカイザーの戦闘データをもとにリバースエンジニアして作成した設計図から作り出された。
戦闘用AI「イドラ」を動かすための特殊OSを搭載していたが、エリィに書き換えられて旧式のOSへと移し替えられた。
【次回予告】
内宮を失い、失意の底へと落ちる裕太。
そんななか、ガイが異世界より疾風の英傑であるエルフ族を招く。
新たな英傑に対抗心を燃やすジェイカイザーが、決闘を仕掛けた。
ぶつかり合う英傑と勇者、その時、エリィが立ち上がる。
次回、ロボもの世界の人々23話「新たな英傑、新たな力」
『貴様ごときに、ジュンナちゃんは渡さん!!』
「いつ私があなたのものになったのですか?」