第22話「出現! ブラックジェイカイザー」【Dパート 度重なる危機】
【4】
──どうするか。
裕太は思案を巡らせた。
こちらは人質を取られ防戦一方。
向こうは自動で殴り放題。
カーティスやガイなど、頼れる仲間を呼ぶという手も考えたが、エリィのいるコックピットに爆弾でも仕掛けられていたら目も当てられない。
影であの黒い機体を操る何者かにさとられぬよう、状況を打破しなければならない。
「……待てよ? ジェイカイザー、この電話って盗聴とかされてないよな?」
『うむ? 特に怪しげな電波の類は感じられぬが』
「電話はセーフか。まあ異世界の連中がこっちのテクノロジーに精通してたら怖いわな」
『私のテクノロジーはコピられてるがな』
「ちょっと笠本くん、何を言い合ってるのよぉ? 仲良くしないとだめよぉ」
緊張感のない間の抜けたエリィの声を聞いて、少し冷静になる裕太。
「銀川、お前はキャリーフレームに詳しいよな。だったら内部からOSのハッキングとかできないのか?」
「できないことはないんだけどぉ……、見たことのないOSだしどうしたら」
『見たことのないOSならば、見たことのあるOSにしてしまえば良いのではないか』
また、何をワケのわからないことを……と裕太は呆れ返ったが、エリィはどうやらその意味が理解できたようで「なるほど!」と手を打つ音の後に電話の向こうでガチャガチャと携帯電話用の小型キーボードを叩く音が聞こえ始めた。
「バイオスとのリンク構築プロセスの管理クラス定義えっとメモリ開放処理例外対応構築基礎動作プリセットはランタイムを経由して自動定義それから……」
ブツブツと専門用語をつぶやきながらものすごい速度でタイピング音を唸らせるエリィに、裕太はせめてもと〈ブラックジェイカイザー〉との間合いを維持し、攻めて来られないような立ち回りを心がけた。
※ ※ ※
「笠本くん、できたわよっ!」
「何が?」
「キャリーフレームのOS!」
「どこから!?」
「プログラム暗記してたの。昔お父様が持ってたOSのソースコードを丸暗記してたから!」
「つくづく人間じゃねえなお前……」
「でも、インストールしようにも操作にはプロテクトがかかってるみたいで」
「プロテクト?」
「8文字のパスワード入れないとダメみたいなのよぉ」
「当てずっぽうでは当たりそうにないな……うおっと!」
一瞬の隙をついて斬りかかる〈ブラックジェイカイザー〉の攻撃を反射的に受け止める。
即座に後方へと距離を取り、間合いを取る黒い巨体。
隙を見せれば前進して攻撃、防げば後退。
ある種のパターンに入ったのだと、裕太は気づいた。
「考える時間はたっぷりありそうだ。って言ってもパスワードがわかんないとな……」
『……むむっ! エリィ殿、T_5656FGと入力してはどうか?』
「ええ? ティーアンダーバーコロコロフグっと……あっ! 通ったわよぉ! インストール開始っ!」
「おいジェイカイザー、なんでわかったんだ?」
『今ふっと受信した電波がそういったのだ!』
「電波?」
※ ※ ※
「……兄上が律儀に緊急用の回線を用意してくれて助かったな」
ジェイカイザーが闘う戦場を見下ろす丘の上で、訓馬は特製通信機の電源を切った。
一族が代々使う特殊周波数の電波受信機。
その受信機に対してダメ元で放った通信が彼らの助けになったのなら良かった、と老人は一人大きく息を吐く。
「三輪にゴーワンめ。連中の思い通りに進ませはせんぞ」
訓馬には戦う力を持ってなかった。
この場でキャリーフレームにでも乗り込んで、連中の計画を台無しにできればどれほど痛快だったろうか。
今の自分にできる最大限の援助を終え、非力な老人はその場から立ち去ろうと戦場に背を向けた。
「──む?」
不意に鳴る携帯電話。
番号は、メビウス電子。
「もしもし。私は既に立ち去った身だが……」
「訓馬さん! 内宮という少女に出撃を命じましたか?」
「そんな覚えは……まさかっ!?」
【5】
「ゴーワン様ぁ、何か様子おかしくないですか?」
「む?」
妖精のフリアに頭をつつかれ、双眼鏡で〈ブラックジェイカイザー〉を覗くゴーワン。
目に当たる部分の赤い光がチカチカと点滅し、光の勇者操るマシンと戦う動きも鈍っていた。
「故障ですかね?」
「……いや、それにしては妙だ。怪しい動きを見せたらすぐに出せるよう、小隊を召喚する準備を進めておけ」
「せっかく作ったのに壊しちゃうんです?」
「魔術巨神でない兵器ならいくらでも替えが効くからな」
「はーいです」
※ ※ ※
「70%……80%……90%…………100%いったわよぉ!」
「よし、銀川やれ!」
「はぁい! リブート!」
電話越しに勢い良くエンターキーを叩く音がすると同時に、眼前の〈ブラックジェイカイザー〉のカメラアイから光が消え、項垂れたように頭を垂れる。
数秒の後、緑色の明かりを目に宿した黒い巨体が、両腕をゆっくりと上へと持ち上げた。
「初期動作正常……やったわ! 操作できるぅ!」
「ふぅ、これで戦いは終わり……とはいかねぇようだな」
レーダーに次々と現れる光点。
裕太はそれが、黒竜王軍の兵器であると一瞬で察した。
空に広がる黒い穴の中から、キャリーフレームサイズの人型カメレオンが次々と降り立つ。
『来たぞ! 数、10機!』
「えっとあれって、確か図鑑で見た〈メレオン〉って魔術巨神よ!」
「銀川、やれるか?」
「うん! ……あっ」
「あっ……?」
不安を煽るエリィの声に、裕太は思わずオウム返しをする。
見れば、〈ブラックジェイカイザー〉の手に持つ剣からフォトンの輝きが消え、動きが明らかに鈍くなっていた。
「おい、どうした銀川!?」
「ああーっ! あたしが暗記してたOSって何十年も前のだから、武器が未対応なんだわ!! 駆動系も幾つかエラー出てるし! 何とか修正しないと……」
『エリィ殿! 右だ!』
「えっ?」
棒立ちの〈ブラックジェイカイザー〉に向け、サイドから緑の蛍光色の装甲を不気味に光らせる〈メレオン〉が、手に持つ無骨なマチェット状の剣を振り上げた。
間一髪、ジェイカイザーが間に割り込みジェイブレードで剣を受け止め、巨大カメレオンを押し返す。
「銀川、大丈夫か!?」
「あたしは平気だけど……」
『裕太、エリィ殿の後ろ!!』
「何っ!?」
振り向いた時には既に遅し。
エリィの乗るコックピット目掛けて〈メレオン〉の口から放たれる光弾。
とっさに伸ばしたジェイカイザーの手も、彼女を守るには、届かない。
「銀川ぁぁあ!!」
裕太は、絶叫した。
────Eパートへ続く