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第22話「出現! ブラックジェイカイザー」【Cパート 狡猾なゴーワン】

 【3】


「う……ん?」


 まどろみの中から、エリィはゆっくりと目を覚ました。

 暗闇に目が慣れ、ぼやけた視界が徐々に輪郭を取り戻していく。


「ここは……? あたし、どうしたんだっけぇ……?」


 眠る前の記憶を辿ろうと、額に手を当てて考え込む。


(確か、金海さんとお買い物に行って、それから……?)


 棒のようなもので殴られて倒れるサツキの姿、取り押さえられる自分の身体。

 記憶はそこで途切れていた。


 咄嗟に自分の身体をまさぐり、変なことをされていないかチェックをするエリィ。

 衣服の乱れも特になく、乱暴をされた形跡も見当たらないのでホッと胸をなでおろす。


「あれ? ここって……」


 目が暗闇に対応して初めて、エリィは自分が今、キャリーフレームのコックピットに座っていることに気づいた。

 外を映し出す全周囲モニターやコンソールこそ点灯していないが、たしかにここはパイロットシートの上だった。


 電源を入れられないかと、手探りで起動キーを探すエリィ。

 そうこうしていると、勝手に明かりが灯り、周囲のモニターが外の風景を映し出した。

 急な明るさに目をチカチカさせながら、エリィは冷静に周囲を見下ろす。


 色あせた雑草に覆われた更地と、辺りに点在する廃墟。

 かつて、裕太がガイと戦った町外れの開発地域に、エリィはいた。


「ああん、どうして動かないのぉ?」


 操縦レバーをガチャガチャと動かしても、外の風景が微塵も変化を起こさない。

 OSが立ち上がり、完全に起動はしているのだが、一切の操作を受け付けてくれなかった。


 せめてコックピットハッチだけでも開けられないかと四苦八苦していると、不意にスカートのポケットに入れていた携帯電話が震えだした。


「もしもしぃ?」

「あっ、銀川! 無事か? 大丈夫か!?」


 愛しい人の声を聞き、思わず顔がほころぶエリィ。

 

「あたしは大丈夫よぉ。ただ、何かキャリーフレームのコックピットに閉じ込められてるみたいで……」

「キャリーフレーム……あれか!」

「あれ?」



 ※ ※ ※



 開発地域に足を踏み入れた裕太の前に現れたのは、見覚えのありすぎる形状をした1機の黒いキャリーフレームだった。


「これは……」

『どう見ても……』

「ジェイカイザー……だよな。色違いの」


 そのキャリーフレームは、細部が所々異なることを除けば、ヒーローチックな外見に派手な装飾・武装に至るまでが忠実に模されたジェイカイザーの本体そのものであった。


「塗り直されたわけじゃないよな?」

『本体はちゃんと地下研究所にあるぞ』

「ってことは……」


「グハハハハ! 貴様が光の勇者か! 俺様は黒竜王軍新総帥ゴーワン!」


 遠くから聞こえる高笑い。

 声のする方へと視線を向けると、手に持つ拡声器が不釣り合いな、トカゲ人間……あるいはワニ人間といえる姿をした大男が小高い丘の上に立っていた。

 普通であれば驚くところだが、宇宙で怪虫と戦い、異世界から来た騎士や忍者を退けた裕太は、ちょっとやそっとじゃ驚かない。

 

「お前か! 銀川をさらったのは!」

「光の勇者、貴様を誘い出す餌にしたまでよ! さあ、愛するものが乗るマシーンに踏み潰されて死ねい!」


 ゴーワンが言うと同時に、黒いジェイカイザーの両目のカメラアイが妖しく赤い光を放ち、足を持ち上げ裕太のいる場所を踏み潰しにかかってきた。


「どわっ!?」

『裕太! 私を呼ぶんだ!』

「言われなくとも! 来いっ! ジェイカイザー!!」


 黒い巨体から距離を取り、携帯電話を空高く掲げて裕太が叫ぶ。

 荒れたコンクリートの地面に魔法陣が描かれ、姿を表すジェイカイザー。

 素早く乗り込み、操縦レバーから神経接続。

 コンソールの脇に携帯電話を置き、手早い操作で裕太はエリィの電話に再びコールした。


「もしもし! 笠本くん!」

「その黒いのに乗ってるんだろ、銀川!」

「色はわからないけど、すぐ前にジェイカイザーが見えるから、多分そうよ!」


『覚悟しろ! ブラックジェイカイザー!』

「わーっ! 待て待て!!」


 話している間に勝手にバルカンを放射しようとしていたジェイカイザーを慌てて制止する裕太。

 勝手に敵機を〈ブラックジェイカイザー〉と名付けたのは良い。

 しかし、相手のコックピットがどこで、搭乗者保護がどれだけされているかわからないと攻撃することができない。

 運悪くエリィが乗っているところに直撃するという最悪の結末が頭によぎり、背筋を冷やす。


『止めるな裕太! 私の偽物がいるということに耐えられんのだ!』

「人命優先だ人命優先!! 銀川がどこにいるかもわからないんだぞ!」

『むぅ……』


 なんとかジェイカイザーを抑えたものの、気づけば目の前の〈ブラックジェイカイザー〉が腰からジェイブレードによく似た武器を取り出し、そのライトグリーンに輝くフォトンの刃を振り上げていた。


「あぶねっ!?」


 とっさにペダルを踏み込み、レバー操作と併せて機体をバク転させ斬撃を回避する。

 同時にジェイカイザーもジェイブレードを抜き、フォトンエネルギーを装填し刃を形成した。


「させるかよっ!」


 二の太刀をブレードでガードし、一度距離を取る。

 裕太は〈ブラックジェイカイザー〉の放つ斬撃に「感情」が乗っていないように感じた。

 エリィが乗った〈ヴェクター〉が振り回していた棒には「ためらい」が乗っていたし、グレイの〈ナイトメア〉からは「殺意」「怨嗟」が感じられた。

 しかし、目の前の黒い機体から感じ取れるのは機械のような正確さだけ。

 あえて言うなれば「冷たさ」しか感じられなかった。


「ジェイカイザー、あの〈ブラックジェイカイザー〉から生体反応は?」


 敵との間合いを保ちながら、機械の割に暖かすぎる相棒に問いかける。


『むむ……あの胸の大きさと形状はエリィどので間違いはないが、それ以外には反応はないな』

「いやぁん! 何をスキャンしてるのよぉエッチ!」

「言ってる場合か銀川! キャリーフレームの戦闘AIって、まだできてないんじゃなかったのか!?」

「最近できたばかりとかだったら、わからないわよぉ!」

「おいおい……くっ!?」


 黒い巨碗が放つ無機質な斬撃を同質の武器で受け止める。

 刃同士の接触面からフォトンエネルギー同士がぶつかり、火花が散る鍔迫り合い。

 〈ブラックジェイカイザー〉の重心の動きを感じ取った裕太はとっさに右ペダルを踏み、不意打ち気味に放たれた漆黒のヒザ蹴りをかわす。

 続けざまに放たれた黒いハイキックを後ろ飛びで回避し、眼前に迫った巨大な足の裏に冷や汗を垂らした。



 ※ ※ ※



「グハッハッハ、愉悦ゆえつ愉悦ゆえつ!」


 廃墟の一角から専用の双眼鏡を手に、ゴーワンは笑った。


「人間の作ったイドルとかいう自動操縦装置も、なかなかではないか」

「ゴーワン様、なんでこんな回りくどい方法とるんです? 主力部隊ササッと呼んでやっつければいいじゃないです?」

「このバカモンが」


 ゴーワンの鱗に覆われた太い指が、そばに浮かんでいた頭の悪い妖精の額を小突いた。

 空中で崩しかけたバランスを立て直したフリアが、痛そうに叩かれたところを抑えて涙目になる。


「痛いですー!」

「この世界の軍隊は我々の戦力より数はともかく質が上だ。迂闊に刺激すればこちらが壊滅させられる。こうやってぎりぎり軍隊沙汰にならないレベルで目標を達成せねばならんのだ」


 ゴーワンは狡猾だった。

 目の上のコブたる黒竜王を、この世界の軍隊に始末させると同時にその力量を測っていた。

 その結果判明した、この世界の制圧などという非現実的な目標は棄て、後にタズム界で脅威となる烈火の英傑・光の勇者の始末へとシフトする。


 ゴーワンは狡猾だった。



  ────Dパートへ続く

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