第3話「金色の転校生」【Cパート ドキドキ一緒の帰宅道】
【4】
「へぇー! 2脚バイクから見た景色ってこんな感じなんですね!」
その日の帰り道、ガションガションと音を立てながら歩く2脚バイクの後部座席から、弾んだ声でサツキが感嘆の声をあげた。
2脚バイクはバイクの一種ではあるのだが、歩行者と同じくらいの速度ならば歩道を通行することが許されている。
不整地でも悠々と走れ、うまく操縦すれば柵を飛び越えるといった芸当も可能な2脚バイクは最近の若者のトレンドだ。
……とはいえ、通常の2輪バイクよりもやや高い値段な上、整備費用やら保険料やら諸々で更にお金がかかるのでよほど金を持ってないと保有するのは難しいのだが。
「フ、金海さん。揺れは大丈夫かい?」
「はい! 気持ちがいいです!」
「それは良かった。乗り物酔いで気分を害しているのではないかと心配していたのでな」
「なぁにが『それは良かった』だよ。心細いからって俺たちを呼んだくせに」
楽しそうに話す2人の横で、裕太が小声で悪態をつく。
進次郎は昼食の報告の際、裕太たちにも一緒に帰ってくれないかと土下座する勢いで頼み込んできたのだった。
裕太とエリィの帰り道は、進次郎の帰り道とは少しルートが違うのだが、親友の頼みを断るわけにもいかないので渋々付き合うことにしたのである。
「まぁまぁ、いいじゃない! これを機にあたしたちも金海さんと友達になれそうだしぃ」
「お前はポジティブだなぁ」
ビル街を通る大通りの脇の歩道を進みながら、進次郎が積極的にサツキに話しかける。
「金海さん。君はここに引っ越してくる前はどんなところに住んでいたんだい?」
サツキは顎に人差し指をくっつけながら数秒ほど考えた後。
「えーっと…星の光が綺麗な場所でした!」
「ほう、君は星を見るのが好きなのかい?」
「いえ、そういうわけじゃありません!」
「あぐっ」
輝くようなニコニコとした笑顔で話を強制終了され、進次郎がズッコケそうになる。
慣れないことをするから……と裕太は同情したが、進次郎は疾風のごとく気を取り直したのか、一言「よし」と気合を入れて再びサツキへと質問をしようとする。
「えっと、じゃあ好きな食べ物とかは──」
その時だった。
「逃げろーー!!」
そう叫びが聞こえたかと思うと、裕太達の目の前に空から車が降ってきた。
「……ん? どわーーっ!?」
進次郎の操縦する2脚バイクが急停止した衝撃でバランスを崩し、サツキ共々横に倒れてしまう。
落下した車は前面の方からグシャリと潰れ、車内からは黒い煙が漏れ出ていた。
「進次郎、大丈夫か!?」
「痛た……僕は大丈夫だ。それよりも金海さんは!」
立ち上がった進次郎が辺りを見回すと、いつの間にか立ち上がっていたサツキが大通りの先を指差していた。
「見てください、あそこ!」
その方向に目を向けると、渋滞している車の奥で腕が長く、頭部の平たい妙な形状のキャリーフレームが大型トラックを持ち上げていた。
『裕太、あのロボットは一体!?』
「工事現場とかで見るやつだが……」
「あれはJIO製の建築用キャリーフレーム〈ハイアーム〉よぉ! 全高7.8メートル、本体重量7トン。蛇腹状の長い腕が特徴の、1万2000馬力を誇るパワー型キャリーフレームなのぉ!」
「……いつも思うけど、お前よくそんなスラスラと情報が出てくるな」
褒められ照れているエリィを無視して辺りを見回すと、裕太達の近くにパトカーが停まり、拡声器を持った警察官が〈ハイアーム〉に向かって叫びだした。
「速やかに抵抗を止めキャリーフレームから降りなさい! 何をしているのかわかっているのか!」
すると、一瞬ガピーというハウリング音が響いた後に〈ハイアーム〉のスピーカーからパイロットのものと思われる野太い男の声が聞こえてきた。
「なんだとぉ! 舐め腐った腐敗公務員共に正義の鉄槌をくだしてやろうってんだよ!」
そう言い終えると、〈ハイアーム〉は持ち上げていた大型トラックを警察官のいる辺りに向けて放り投げた。
「た、退避ーーーっ!」
落ちてくるトラックに警察官が情けない叫び声を上げながら散り散りになってその場を離れる。
裕太も慌ててエリィの手を掴み、この場から逃げようと促そうとするが。
「笠本くん、あそこ!」
エリィが指差した先を見ると、転んだ子供が泣きじゃくっていた。
このままだとトラックの下敷きになってしまう!
そう思った瞬間、その子供に向かってサツキが駆け出した。
「あぶなーーーい!」
「金海さん!?」
進次郎が止めようとするのも聞かず、サツキは子供のいる場所に飛び込んだ。
と同時にトラックが道路に落下し濃い砂埃が舞い上がり、辺りが一瞬見えなくなる。
砂埃が晴れると、そこには横倒しになったトラックのコンテナに片足を挟まれたサツキと、彼女に抱かれるようにして守られた子供の姿があった。
「金海さん、大丈夫か!」
進次郎が慌てて駆け寄ると、サツキはにっこりと微笑みながら。
「私は大丈夫です! それよりもこの子供を!」
「大丈夫って、片足挟まれてるのに……」
そう言いかけた瞬間、挟まれていたはず足がするりとコンテナから抜け、何事もなかったかのようにサツキが立ち上がった。
「えっ……!?」
「今どうやって……!?」
信じられないと言った表情で言葉を失う裕太とエリィを見てか、サツキは戸惑った様子で「ごめんなさい」とひとこと言い、突然その場から逃げるように走り去った。
「あ、おい金海さん! 裕太、僕は金海さんを追いかける! 2脚バイクは頼んだぞ!」
そう言って進次郎もサツキの後を追いかけるように走っていき、人混みの中へと消えていった。
───Dパートへ続く