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第22話「出現! ブラックジェイカイザー」【Aパート 暗き世界の者たち】

 【1】


 メビウス電子社内にある小さな会議室の中。

 黒竜王軍の新総帥、ゴーワンが床に座り込みボーっとしていると、扉の隙間から手のひらサイズの妖精の少女が一人、ふわりと部屋に入った。


「ゴーワン様。これが三輪とかいう人間から借りた、光の勇者の戦いの記録ですですっ」

「フリア、ご苦労。……ほう、この円盤が。どれどれ……人間の機械というものは複雑すぎてかなわん」


 部下の妖精・フリアが運んできた映像ディスクを、ゴーワンは説明書を片手にディスクトレイの上に乗せ、そのままトレイを鱗で覆われた太く頑丈な指先でそっと押し込んだ。

 トレイを飲み込んだ機械から小さな駆動音が鳴り初め、真っ黒だったディスプレイに映像が映し出される。


 裕太の呼び声を受けて、魔法陣から現れるジェイカイザー。

 周囲の物を活用し敵を翻弄する機械の戦士。

 巨大な剣でロボットを一刀両断する雄々しい勇者。


 映像が終わり画面が再び暗転すると、羽音を立てながらその場で浮かんでいたフリアがゴーワンの眼前に移動した。


「ゴーワン様、何かわかったです?」

「……とりあえず、光の勇者とその魔術巨神マギデウスが名に違わぬ強さを持っていることはわかった」

「ゴーワン様、この世界の魔術巨神マギデウスみたいな物はキャリーフレームって言うらしいです」

「魔法陣から出てきているのにか?」

「あれ、ただの趣味なんですって」

「……ルアリ人(ここの人間)の考えていることはわからん」


 取り出しボタンを押して出てきた映像ディスクを、丁寧にケースに戻すゴーワン。

 そのケースをフリアに押し付け、モニターを外部入力からテレビに切り替える。

 すると、画面の中に小奇麗な女性が映し出され、淡々とニュースを読み上げているところだった。


「先日のニューヨーク上空に現れた未確認巨大生物の出現とともに、モスクワ、ロンドン、北京に現れた謎の軍勢による襲撃がありました。しかし、各政府発表によると、その全てが現地の軍隊によって撃退された模様です。現在──」


「これで、古いうみは絞り出せたな」

この世界(ルアリ)の軍隊さまさまですっ。それにしてもこうも成功すると面白いですねゴーワン様」

「ワシのような者でなければ、厄介者を戦死させて片付けるという策は思い浮かばんよ。まさか、黒竜王とその側近共も吾輩が謀反を起こすとは思ってなかったようだからな、グハハ」

「あちしがこの世界の戦力を過剰に弱く報告したおかげでもありますからね」

「かわいいやつよのう、フリア。これで目下の障害はあの英傑どもだけとなったわけだが……」


 そう言ってゴーワンは、懐からビー玉サイズの水晶玉を取り出し、手のひらの上において強く念じた。


 ぼうっと水晶玉が淡く光り、その中から金属がぶつかりあうような騒がしい音が聞こえ始める。


「技術部、出来はどうだ?」

「ゴーワン新総帥! こちら黒竜王軍技術部! 例の設計図から起こした新兵器はバッチリできる寸前でっせ! 後は色を塗らなきゃならんのですが、おとぎ話の無敵の竜騎士にちなんで肩でも赤く塗りましょか?」

「余計なことをするな! ……そうだな、どうせなら黒にしてくれ」

「黒、ですか?」

「ああ。黒竜王が倒れた直後で、軍内に少々混乱が見える。軍のシンボルカラーを使うことで、士気の高揚になるだろうよ」

「さっすが総帥! 黒基調でバッチリかっこよく塗らせていただきまっせ! シッシッシ!」


 音が消えて静かになると同時に、輝きを失う水晶玉。

 と同時に壁にかかっている電話が鳴り響いたので、ゴーワンは「人間も魔水晶を使えば便利だというのに」と小声で愚痴りながら受話器を持ち上げ、耳にあてた。


「気分はどうだい、ゴーワン閣下」

「三輪とかいうこの組織のトップだったか?」

「社長だよ、社長。役職の名前くらい覚えてもらわないと生きていけないぞ?」

「フン、吾輩が人間ならぬ身ゆえ外に出られないのが不満だが、まあまあ悪い気分ではないな」

「それは良かった。僕らの組織(・・・・・)としても君たちの活躍には期待しているからね。それで、例の光の勇者クンを倒す算段はついたかな?」

「……知れたこと。奴が大事にしているものと、開発させた新兵器を使えばあんな小僧ひとり一捻りだ」

「それは頼もしい。人手が必要ならなんだって言ってくれ。僕と君は同志なのだから」

「グハッハッハ。ならば、まずは…………」



 ※ ※ ※



 訓馬は、机を固く握りしめた拳で殴打した。

 収集した戦闘データからリバースエンジニアリングして作り上げた設計図、そのデータのひずみが意味することが、彼の怒りを増幅する。


「……あの、狸野郎がッ!」


 年甲斐もなく激昂し、吐き捨てる。

 幾歳も重ねた年月が形成した老人特有の落ち着きをかなぐり捨て、シワだらけの顔が更に深く彫り込まれるほど、彼は怒りの感情に満ちていた。


「……誰だっ!?」


 扉を開ける物音に、訓馬はは咄嗟に懐に隠し持った拳銃を取り出して音の主へと銃口を向ける。


「ちょっ!? ウチやウチ!」

「……なんだ、内宮か。驚かせるな」

「それはこっちのセリフや! はようその物騒なモン仕舞うてな! ……訓馬はん、何をそんなにブチ切れとったんや?」


 内宮の質問に、訓馬は拳銃を仕舞いながら彼女に背を向ける。


「そろそろこの組織に見切りをつけるときが来たと確信したのでな」

「訓馬はん、ここ辞めるんか? キーザはん寂しがるやろうなぁ」

「……拳銃のことについては聞かないのか?」


 訓馬が振り向くと、内宮は自室でくつろぐかのように椅子に座り頬杖をついていた。


「そら、物騒な世の中やし。それ聞いてうちが痛い目見るのもアホらしいからな。せっかく弟が退院したんやし」

「君の弟……そうだったな。君は弟の入院費を稼ぐために私のもとで働いていたんだったな」


 このような娘に、自らの目的のために手を汚させていたということを訓馬は後悔した。

 それでも、自らがキャリーフレームの操縦などできず、人手がいる以上、それは仕方のないことだと割り切るほかはなかった。


「内宮千秋、君は……もう帰りたまえ。ここには二度と来ないほうが良い」

「えっ? 何や突然……」

「色々と事情が変わったのだ。キーザは長期出張で、私がここを去れば君はここに来る意味がなくなるはずだ」

「うん……せやな。確かに訓馬はんの言うとおりやけど……」

「今まで君には世話になった。これは、せめてもの礼代わりだ」


 そう言いながら、訓馬は自らのカバンから万札の詰まった封筒を取り出し、内宮に押し付けるように手渡した。

 急に大金を渡され狼狽える内宮であったが、訓馬の迫力に押されたのか、黙ってその封筒を通学カバンへと滑り込ませた。


「ほな……訓馬はん、いろいろありがとな」

「ああ。二度と会うことはないだろう」


 内宮は名残り惜しそうな、寂しそうな表情を見せながらオフィスから出ていった。


 これで良かったのだ。

 訓馬はため息を吐きながら、自分を肯定した。



  ────Bパートへ続く

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