第21話「決着!? 黒竜王!」【Dパート 逆転の新奥義】
「ならば、カトンソードで焼き切ってやる!」
燃え盛る忍者刀を構え、素早い動きで飛びかかる〈ショーゾック〉。
しかし軽部の〈アストロ〉はたじろぎひとつ見せず、その場で受け止めるような構えを取った。
忍者刀の刃が今にも〈アストロ〉に刺さろうかというその時、〈アストロ〉の全身が滑るように僅かに横に逸れ、コックピット部に狙いを定めていた刃が〈アストロ〉の左腕の甲に突き刺さる。
「なっ!?」
「避け切れはしなかったが……直線的な攻撃程度ならなぁっ!」
頑丈な腕部で刃を受け止められ、一瞬だけ動きを止める〈ショーゾック〉。
その一瞬で軽部には十分だったのか、〈アストロ〉は持ち直した鋼鉄スティックで、先程殴打した〈ショーゾック〉の背部装甲を一突きした。
2度も同じところを打たれた背部装甲は耐えきれずにひしゃげ、音を立てて剥がれ落ちた。
と、同時に刃が刺さった〈アストロ〉の左腕が煙を吹き、小さな爆発と共にダランと力なく垂れ下がる。
「お、おのれぇっ!」
「制御系が飛んじまったが、一太刀は浴びせられたぞ!」
再び向かい合う2機の巨人。
息を呑んで戦いを見守る裕太とガイ。
「笠本くん! 大丈夫!?」
頭上から再び聞こえた声に裕太が顔をあげると、内宮の隣で同じように身を乗り出した銀川の姿があった。
裕太は手のひらを口に当て、「軽部先生が戦ってるんだ」と大声で返事をする。
「あの〈アストロ〉に先生が!?」
「なんとかやりあってるが、結構ピンチだ! 俺たちは召喚封じの結界とやらでジェイカイザーも〈赤竜丸〉も呼び出せねえ!」
「結界って、どうやって作ってるのぉ?」
3階層越しに会話をするのに息を切らせながらも、エリィが投げかけた疑問に裕太はふと引っかりを感じた。
「……なあ、オヤジ。結界ってどうやって作るんだ?」
「ふむ。結界を生成する魔力を込めた紙を、結界を張りたい場所に貼り付けるだけでござる」
「紙を貼り付ける……あっ!!」
その時、落ちた装甲の内側にお札のようなものが張り付いているのが裕太の目にはしっかり見えた。
「オヤジ、あの紙ッペラってもしかして!?」
「紙ッペラでござるか? どれどれ……」
手のひらを額に当て、地面に落ちた装甲を眺め見るガイ。
それが何かわかったのか、目を細めたガイが軽部に向かって叫んだ。
「軽部どのっ! 落ちた装甲の札を破るでござる!!」
「フダぁ!?」
装甲をやられ背中がスパークを起こす〈ショーゾック〉が、〈アストロ〉に飛びかかる。
その攻撃を回避した〈アストロ〉は、動く右腕で鋼鉄スティックを投げつけ、〈ショーゾック〉を怯ませた。
「フダって何だよ!?」
「さっき落ちた装甲を壊してくれ、先生!」
「よくわからんが……こいつを壊せば良いんだな!?」
〈アストロ〉が忍者型魔術巨神落ちた装甲を踏みつけ、粉砕する。
すると一瞬、装甲に貼られていたお札が発光し、周囲を包んでいた妙な気配が消え去った。
「しまった! 召喚封じの結界が!!」
「軽部どの! 後は拙者らに任せ、後退を!」
「あ、ああ! すまねえ!」
忍者刀が刺さり深手を追った軽部の〈アストロ〉は、元あった場所に戻るようにして戦線を離脱した。
先生の無事にホッとしていると、裕太の携帯電話からジェイカイザーの声が響き渡る。
『裕太、今だ! 私を呼べ!!』
「よし、分かった!!」
裕太はガイと頷き合い、今一度携帯電話を天高く掲げ、叫んだ。
「来いっ! ジェイカイザァァァ!」
「いでよ! 赤竜丸ゥゥゥ!!」
グラウンドの土の上に赤と青、ふたつの魔法陣が同時に描かれる。
赤の魔法陣には天からの光が、青の魔法陣からは巨大な頭部がせり上がり、ふたつの巨体が姿を表した。
光に包まれ〈赤竜丸〉の中へと吸い込まれるように消えるガイ。
現れたジェイカイザーのコックピットに乗り込み、レバーを握って神経接続を果たす裕太。
『ジェイッ! カイッ! ザァァァ!』
「烈火の英傑が魔術巨神、〈赤竜丸〉見参ッ!!」
一瞬で承認を終えて取り出したビームセイバーを構えるジェイカイザー。
同じく剣を取り出して構えを取る〈赤竜丸〉。
2体の勇者に刃を向けられ、〈ショーゾック〉が後ずさった。
「さあ、2対1でござるぞ!」
「降参するなら早くしろよー!」
「ええい、黒竜王軍を舐めるなーっ!」
カエデがそう言うなり〈ショーゾック〉がバック宙で距離を取り、先に見せた2種とは違う新たな印をその手で結び始めた。
「黒竜忍術・秘技 カラクリ分身の術!!」
〈ショーゾック〉から赤い光が放たれると同時にその姿が8つに分かれ、一瞬で裕太たちを取り囲んだ。
「おいオヤジ! 本物はどれだ!?」
「勇者どの、カラクリ分身の術は無人の魔術巨神を呼び出す術! すべてが実体であり、敵でござる!」
「全部が実体か……だったら!」
裕太は、かねてよりジェイカイザーと考えてはいたものの使う相手がいなかった必殺技を実行に移す時が来たと心を踊らせた。
向かい来る分身の〈ショーゾック〉1機に向かって、ビームセイバーを一直線に投げつける。
間髪入れずにジェイアンカーを放ち、胴体に突き刺さったビームセイバーの柄をアンカーで掴む。
「オヤジ、伏せとけ!」
「なっ!?」
「にっ!?」
裕太が思いっきり操縦レバーを引き倒すと、ジェイカイザーの腕がアンカーのワイヤーを引っ張り、遠心力でアンカーに掴まれたビームセイバーが大きな弧を描く。
「必殺! 竜巻回転斬り!!」
『必殺! カイザースラッシャー!!』
ビームセイバーが描く光の奔流が円を描くように広がり、裕太の声に反応して伏せた〈赤竜丸〉と、本物の〈ショーゾック〉以外の分身は、次々と光の渦を浴びて胴体から真っ二つになっていく。
そして、致命傷を受けたカラクリ分身はすべて爆発を起こして消滅していった。
「は、8体の分身がこうも簡単に……!?」
「トドメは任せるでござるぞ! 勇者どの!」
「ひっ……!?」
〈赤竜丸〉が手に持った宝剣を天高く剣を掲げると、その刃から炎が吹き出した。
そして剣から噴き出す炎が徐々に熱量を上げ、周囲の空気が文字通り渦を巻く。
〈ショーゾック〉が逃げようと背を向けようとするよりも早く、〈赤竜丸〉が足を踏み出し、跳び上がった。
「必殺奥義! 翔・龍・斬!!」
巨大な炎を纏った刃を〈ショーゾック〉の足元から大きく振り上げると、刃の炎が〈ショーゾック〉へと襲い掛かった。
〈ショーゾック〉を守る黒い装甲を、鋭い炎が穿ち貫く。
「黒竜王さまぁぁぁ!!」
カエデの悲鳴を残し、〈ショーゾック〉が空中で四散した。
後には黒い残骸とうつ伏せで倒れるカエデ、そして技を決め終わり格好をつけた〈赤竜丸〉が立っていた。
『やったぞ裕太! 我々の勝利だ!!』
「……俺、分身を倒しただけじゃねーか」
コックピットの中で、安堵と落胆が混じったため息を裕太はひとり吐いた。
…………Eパートへ続く