第21話「決着!? 黒竜王!」【Cパート 仕掛けられた罠】
【4】
女忍者を追って校舎から飛び出した裕太は、グラウンドの中心で立ち止まっているカエデのもとにたどり着いた。
レモン汁を目に浴びたからか充血した不気味な目で、不敵な笑みを浮かべながら裕太を見据えている。
「警察も呼んだし、もうすぐオヤジも来る。観念しろ!」
「フッフフフ……痛たた。じゃない、えーと……光の勇者! あなたこそ覚悟するときよ! いでよ、魔術巨神〈ショーゾック〉!!」
カエデが手にした短刀を振り上げると、彼女の足元に漆黒の魔法陣が描かれ、土を突き破るようにして陣の中心から黒いロボットが姿を現した。
デフォルメされた黒装束の忍者、といった風貌の機械の中へとカエデの姿が吸い込まれるように消え、目のようなカメラアイが不気味に赤く点灯する。
威圧感からか、周囲の空気が淀んだようにどんよりと重くなった。
「待たれぇぇぇい!」
頭上から声が聞こえたと同時に、3階の窓から降ってくるガイ。
轟音と共にグラウンドに人型の穴を空け、その中から無傷で這い出るオッサン英傑に裕太は思わず引いてしまった。
「オヤジ、不死身かよ……」
「心配ご無用! 魔術巨神で来るならこちらも魔術巨神を呼ぶまででござる!!」
ガイが鉄色に輝く竹刀を抜き、地面へと勢い良く突き刺した。
「いでよ、〈赤竜丸〉ゥゥゥ!!」
裕太が見るのは2回目となる、ガイの愛機・魔術巨神の〈赤竜丸〉を呼び出す大仰なアクション。
……しかし、いくら待っても魔法陣が現れることもなければ雷鳴も轟かず、ただただ微妙な空気がグラウンドに流れるだけだった。
「なっ、なぜ召喚できぬ!?」
「オヤジ、何やってんだか……。来い、ジェイカイザー!!」
今度は裕太が携帯電話を振り上げて叫ぶ。
しかし、何も起こらなかった。
「……おいジェイカイザー! どういうことだ!?」
『わからん! 圏外というわけではないのだが……』
「アッハハハ! すでに私の術中にハマっているのよ、あんたたちは!」
「術中だと!?」
カエデの乗る〈ショーゾック〉が一歩前に足を踏み出し、大地を揺らした。
周囲の空が不気味な紫色に変色するのを見るに、何か空間に異常が発生しているんじゃないかと感づく裕太。
「この空間には今さっき、召喚封じの結界を張ったのさ! 外からマシーンを呼び出そうったって無駄だよ! 死ねぃ!」
「「どわぁっ!!」」
ショーゾックが投げた巨大手裏剣型エネルギー弾を、間一髪ヘッドスライディングでかわす裕太。
召喚封じの結界とやらでジェイカイザーの呼び出しを封じられている以上、今の裕太に打つ手はない。
「何やっとるんや笠本はん! 早う逃げぇ!」
頭上の窓から身を乗り出した内宮の声が聞こえたが、裕太はその提案に乗るわけにはいかなかった。
ここで逃げれば敵の矛先が校舎に向き、最悪中にいるクラスメイト達に危害が及びかねない。
「〈赤竜丸〉無くとも、この拙者の剣術ならば!!」
無謀にも竹刀を片手に〈ショーゾック〉へと走るガイ。
竹刀一本で魔術巨神に立ち向かう戦士をあざ笑うかのように、〈ショーゾック〉の肩部から爆竹のような物体が放射され、次々とグラウンドの上で爆発を起こす。
熱量の弾幕を物ともせず回避し、踏み潰そうとする巨大な黒い足を避け、肉薄したガイが気合の叫びを放ちながら竹刀を振り下ろした。
「必殺剣! 丸太割り!!」
が、しかし。
竹刀は〈ショーゾック〉の装甲に弾かれ、ペチンという情けない音を鳴らした後ガイごと蹴り飛ばされてしまった。
「どわぁぁぁ……」
「竹刀じゃ無理だろ」
地響きを鳴らしながら裕太の方へと向く〈ショーゾック〉。
忍者型の魔術巨神が巨大な手を広げると、その手のひらの上に光輝く手裏剣が生み出された。
(万事休すか……!)
〈ショーゾック〉が振りかぶり、裕太が覚悟を決めたその時だった。
「死ねい! 光の勇ぐあっ!?」
「どっせぇええい!!」
校舎の陰から突如現れ、ショルダータックルをぶちかます汎用キャリーフレーム〈アストロ〉。
キャリーフレーム部の備品であるその機体に乗り、声を張り上げて〈ショーゾック〉を吹き飛ばした人物は、一人しか思い浮かばない。
「軽部先生! 何やってるんですか!?」
「へっ! うちの用務員と可愛い生徒を見殺しにはできないんでね! やいやいやい! よくも好き勝手してくれやがったな!」
不意打ちを受けてよろめきながら立ち上がる〈ショーゾック〉に向き直る軽部の〈アストロ〉。
忍者の外見に違わぬ手の動きで素早く〈ショーゾック〉が印を結び、再び手元に光り輝く手裏剣を生み出し、振りかぶる。
「何者かは知らんが失せろ! 光魔手裏剣!!」
「軽部どの、無茶でござるぞぉ!!」
〈ショーゾック〉の手から放たれた手裏剣が空中で分裂し、〈アストロ〉に襲いかかった。
無数の光弾に囲まれ、逃げ場を失う〈アストロ〉。
「甘いんだよぉっ!!」
軽部の叫びとともに〈アストロ〉が姿勢を下げ、スライディングで光弾のカーテンをくぐり抜けた。
そのまま前転し、背後から〈ショーゾック〉に模擬戦用の鋼鉄スティックで横薙ぎに殴りつける。
確実に倒せると高をくくり油断していたのか、黒い魔術巨神の巨体がいとも簡単にグラリとバランスを崩した。
「があっ!?」
「こう見えてもエレベーター・ガード時代に海賊とドンパチやってんだ!」
倒れそうになったところを器用に空中で一回転し、体勢を整える〈ショーゾック〉。
今度は巨大な忍者刀を懐から抜き、片手で印を結ぶとその刀が炎に包まれた。
────Dパートへ続く