第21話「決着!? 黒竜王!」【Bパート 出現!竜王の刺客】
「勇者どの~!」
学校の廊下で見かけるやいなや、走り寄ってくるガイ。
裕太は内宮のクラスに行こうとしていたのを足止めされたので、ムッと眉間にしわを寄せた。
「なんだよ、オヤジ」
「何だよとはひどいでござるな。拙者、先程この校内に邪気を感じたんでござるよ」
「邪気?」
抽象的な概念を感じたと言われ、首をかしげる裕太。
まだ裕太はガイに対して完全に心を許しているわけではない。
「黒竜王軍の気配でござる。刺客が勇者どのの命を狙っているやもしれぬ」
「な、何で俺が狙われなきゃいけないんだよ!?」
「それはもちろん、勇者どのは我ら四英傑の一角の息子。この世界の防衛の要であるゆえに狙われるのは必然であろう」
真面目な顔でファンタジックな話をされ、理解が追いつかない裕太。
ガイは「拙者がいる限り好きにはさせぬ」と言い、腰の竹刀に手をかけてあたりを見回しながら去っていった。
傍から見たら完全に不審人物である。
気を取り直し、裕太は内宮のいる教室の前に立ち、扉を開けて覗き込む。
ガヤガヤと賑やかな話し声が響き渡る教室の中、隅の席にポツリと退屈そうに一人でいる内宮の姿を見つけた。
向こうも裕太の姿に気がついたのか、嬉しそうな足取りでこちらに歩み寄って来る。
「笠本はーん! 何や、うちに用かいなっ? 軽部先生やったらうちの部の〈アストロ〉の整備行っとるけど」
裕太は(内宮ってクラスに友達いないのか?)と思いつつも、懐からプレゼントを取り出し、恥ずかしさ混じりで視線をそらしながらそっと手渡した。
「えーと、ほら。もうすぐ誕生日って言ってただろ? 少し早いかもしれないが、おめでとう」
「な……な……な……!?」
箱を受け取り手を震わせる内宮。
裕太は一瞬、早く渡すのはマズかったか? と思ったが、すぐにその震えの意味が違うことを理解した。
「じょ、冗談のつもりやったのに、ホンマに渡してくれるなんて……笠本はん、ほんまありがとうな! なあ、今開けてもええか!?」
内宮の興奮ぶりにやや引き気味になりながら、裕太が「お、おう」と了承すると、内宮はプレゼントの包装を手で雑に破り、箱の中からネックレスを取り出した。
飾りとしてついている小さな歯車が、陽の光を受けてキラリと輝く。
そのまま内宮はネックレスを首にかけ、顔を赤らめてモジモジしながら「に、似合うか?」と質問する。
いつものガサツな態度から想像できない、少女らしい内宮の姿にドキリとする裕太。
慣れない空気の中、言葉に詰まった末に「似合ってるよ」と月並みな褒め言葉を返すと、細目の関西弁少女は「おおきに!」と満面の笑みを裕太に向けた。
※ ※ ※
僅かな建物の揺れと、眩しい光が爆音とともに廊下に響き渡ったのは、まさにその時だった。
ホームルーム前の教室から野次馬にならんとする生徒たちが次々とざわつきながら飛び出し、爆発の起こった方へと向かっていく。
良いところやったのに……と内宮は内心舌打ちをしつつ、裕太と共に現場へと走り向かった。
「よう、裕太。今日は銀川とじゃないんだな」
「いや、あのな? うちと笠本はんはそんなんじゃ……」
「茶化すなよ進次郎。向こうで何があったんだ?」
途中の廊下で鉢合わせた進次郎に詰め寄る裕太。
「さあな? あの熱血騎士用務員が向こうに走っていったら爆発が起こったということは知っているが」
「まさか、あのオヤジが何かしでかしたんじゃ……!?」
進次郎が指差した人混みの方向へと駆け出す裕太。
釣られるように内宮も後を追いながら「オヤジって何や?」と裕太に尋ねる。
「えっと……。最近来た新しい用務員いるだろ?」
「ああ。笠本はんを勇者だ何だって言ってるようわからんオッサンやろ?」
「……まあ、とりあえず百聞は一見にしかずって感じで」
「?」
内宮は首を傾げながら、現場に群がる生徒たちの前で裕太と同時に内宮は足を止めた。
人混みをかきわけて言った先に見えたのは、黒い煙が広がる中で用務員のガイが竹刀を握り、何者かと向き合っている姿。
その相手は、ほどほど露出のある黒装束を着込み、全身を網タイツのようなもので身を包んだ女。
女忍者、すなわちくノ一以外に形容することができないその女は、手に持った鋭い手裏剣をガイに向けて投げつけた。
「むっ! でござる!」
刹那、ガイの竹刀が宙を裂き、金属同士がぶつかる音とともに弾き落とされた手裏剣が床へと突き刺さる。
足元に刺さった本物の手裏剣に、内宮はタラリと冷や汗を床に落とした。
「な、何やこら……。映画の撮影にしちゃあ派手すぎひんか!?」
「おいオヤジ! この騒ぎは何だか説明しろ!」
「勇者どの! 来てはならぬでござる! むっ!?」
ガイが制止するのを見てか、ゆらりと身体をくねらせ懐から短刀を抜いて飛びかかる女忍者。
裕太を狙ったその刃を、ガイは的確な剣撃で受け止め、女忍者ごと跳ね飛ばす。
空中で2回転した女は、そのまま床に綺麗に着地し、口を開いた。
「……さすがは烈火の英傑。一筋縄ではいかないってことね!」
「黒竜王軍の刺客でござるな! 名を名乗れい!!」
「いいだろう! 我が名はカエデ、黒竜王軍の暗殺部隊の配下の忍者部隊の配下の第7遊撃部隊がひとり!」
堂々とした名乗りを受け、場が凍りつく。
黒竜王軍だの暗殺部隊だの突拍子もない単語が飛び交ったのもあるが、内宮は一点だけすごいツッコミどころに気づいてしまった。
「……つまりあんさん、下請けの孫受けのそのまた下請けみたいなもんちゃうか?」
「言うなーっ!!」
その場で激昂するカエデ。
その次の瞬間、内宮の後方から透明な液体が飛来し、カエデの顔にビシャっとぶつかった。
「うわーっ!?」
「なんや今の……?」
「どうだ、この天才的な射撃術!」
自信満々に姿を表したのは、手に水鉄砲を持った進次郎の姿。
どこからそんな物を? と内宮は疑問に思ったが、水鉄砲からかすかに聞こえる「やりましたね進次郎さん」というサツキのような女の子の声を聞いて、裕太は何かを察したようだった。
「ううっ!? い、一体私に何をかけた!?」
急に液体をかけられ、もがくカエデが進次郎に向けて叫ぶ。
質問を受けた天才は、手元で水鉄砲をクルクルと回し、びしっとカエデの顔を指差した。
「聞きたいか? ならば応えてやろう。レモン汁だ!」
「ア゛ーッ!!?」
目に染み込んだのか、我慢の限界を越えたらしいカエデは開いている窓をわざわざ閉め、ガラスを破って外へと飛び降りた。
ガラスを破られ、用務員のガイが頭に血を上らせる。
「あの刺客め! わざわざガラスを割る必要はないでござろうが!! 許さん!!」
「追うのか、オヤジ!?」
「無論……だが、窓を直してからでござるよ」
「「だあっ!?」」
廊下に散らばったガラス片を箒でかき集めるガイに、その場でずっこける裕太と内宮。
まあ、仕事はせんとアカンわな……と内宮が思っていると、裕太が階段の方へ向かおうとしているのに気づき、制服の裾を掴んで止める。
「笠本はん! あんな危ない奴んとこ、行く必要あらへんやろ!」
「いや。放っておいたら学校に被害が出るかもしれねえ。それに……」
「それに?」
「こんなド派手な事件、解決したらいくら報酬が出るかわからんからな!!」
「あらーっ!?」
その場で内宮がずっこけている内に、階段で下へと向かう裕太。
彼の背中を見送りながら、内宮は。
(笠本はん、うちの知らんところでも戦っとるんやな……)
と何故か少し胸が締め付けられるような感触を抱いた。
────Cパートへ続く