第21話「決着!? 黒竜王!」【Aパート プレゼンとプレゼント】
【1】
「さて諸君……といっても顔の知っているメンバーだけだが、お前たちに集まってもらったのは他でもない」
「他、になりそうな理由がいくつも散見されるんですけど……」
壇上に登った大田原にツッコミを入れながら、裕太は壁を指差した。
多目的室の壁は「特殊交通機動隊設立10周年」と書かれた華やかなプレートや「【祝】照瀬巡査部長復帰」と厚紙に手書きで書いた文字、そして紙の輪っかを鎖のようにいくつも繋げた子供っぽい飾りで彩られている。
「……それは、まああれだ。この後やるささやかな宴会の題目だ。参加したいなら3000円の参加費を──」
「いいから、早く本題に入ってほしいんだけどぉ……」
裕太の隣りに座るエリィに急かされ、大田原はゴホンと咳払いをしてリモコンのボタンを押した。
彼の背後の壁に、「愛国社の活動とグールについて」とプレゼン用スライドのタイトルが映し出される。
「まずこいつを……ありゃ? なんで画面が変わらないんだ」
ペン状のデバイスをカチカチする大田原。
裕太の後ろに座っていた富永が慌てて壇上に駆け寄り、「上の方のボタンであります!」とアドバイス。
首を傾げた大田原は、ボールペンをノックするようにデバイスを操作し、スライドが変わったことに胸を撫で下ろす。
新たに映し出されたスライドには、いくつものキャリーフレームの名称がリスト状に並べられていた。
「えーと、このリストがグール及び愛国社の使っていたキャリーフレーム。こっちのリストが地球やコロニーで盗難被害にあったキャリーフレーム。まあ見たらわかるが、連中の使っている機体はほぼ盗品だったわけだ」
「むしろ、今までわからなかったのぉ?」
「足が付きづらいようにほとんどを地球外縁のコロニーで調達して、宇宙海賊の手を借りて陸揚げしてたようでな。しかも盗みの手口もまるで忍者がやったかのように痕跡が皆無だった」
「忍者ねぇ……」
そんな、フィクションやファンタジーじゃあるまいし……と裕太は考えたが、最近まさにそのファンタジーな世界からやってきた男のことを思い出した。
(まさか……な?)
スライドから目をそらし、裕太はボーっと紙製の壁飾りを眺めていた。
【2】
結局、「愛国社とグールは繋がっていて、使う機体は盗品だった」以上の情報がなかったプレゼンを聞き終えた裕太とエリィ。
ふたりはその後の警察署でのパーティの誘いを断り、家路についていた。
通り道にある商店街を横切りつつ、エリィが横から裕太の顔を覗き込む。
「パーティ、参加すればよかったのにぃ」
「大人のパーティって、酒の飲ませ合いだろ? 俺達が参加しても良いこと無いって」
『ジュンナちゃんにコールタールを貰えばよいのではないか?』
「ジェイカイザー、お前は酒と油の違いから勉強しろ」
しょぼくれて声の小さくなるジェイカイザー。
いつも適当ばかり言いやがって、と裕太が思いながら視線を横に向けると、雑貨屋の店頭に目線が吸い寄せられた。
外に出されたワゴンに近づき、安売りの文字と一緒に陳列されたアクセサリー類を覗き込む。
裕太は無数にある商品の中から、小さな歯車を飾りとしてあしらったネックレスを手に取った。
「どうしたのぉ? もしかして、あたしへのプレゼント!?」
「いや、内宮にだよ。あいつ、この前誕生日近いって言ってただろ? すいませーん、これくださーい!」
裕太は店員を呼び、千円札一枚で代金を支払った。
プレゼント用の包装に包まれたネックレスを受け取り、店をあとにする。
「まぁ、あたしへの贈り物なら安売りの棚からは取らないでしょうねぇ♥」
「いや、容赦なく特売品を選ぶぞ。俺の経済状態を知ってるだろ、銀川も」
歩き出しながらムスッと頬を膨らませ不満を露わにするエリィ。
彼女が言いたいことはわからなくもないが、裕太にとっては莫大な借金に対する心構えを緩める方が危険だった。
※ ※ ※
エリィを彼女の家まで送り、ひとり自宅へと戻りついた裕太は鍵を開けて玄関の扉を押し開けた。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
「ただいまー……うおっ!?」
メイド服姿で丁寧に出迎えたジュンナを見て、裕太は驚愕する。
「どうなさいました?」
「どうもこうも……だってジュンナ、お前腕が!」
「腕? あー」
腕、というより右肩から先が無いジュンナは、今気づいたとばかりに露出した接合部を撫でた。
チラリと見えるコネクタを繋ぐ穴の奥は、何のものかは不明だが淡いオレンジ色の光が漏れている。
「お風呂掃除をしていたら、誤って浸水させてしまったので干してるんですよ」
『よかった! てっきり私は通りすがりの怪物に腕を食われたのかと思ったぞ!』
「腕を食うような怪物に通りすがられてたまるかよ。とにかく、精神衛生上よくないから乾いたらすぐに腕をつけろよ」
「かしこまりました」
そういえば、ジュンナの身体は機械だったな。と裕太は思い出した。
修学旅行先の月の街で出会って、ジェイカイザーの提案で裕太の家のメイドとなった彼女。
中身が機械とは思えない、人間と何一つ変わらない容姿にすっかり慣れてしまっていれそのことを忘れてしまっていた。
自室に戻った裕太が、ベランダに干されているジュンナの腕を見て絶叫するのはそれから少し後のことである。
【3】
翌日。
空が灰色の雲で覆われた中、手に包装されたプレゼントを持ってジュンナに見送られながら家を出た裕太。
通り道にあるエリィの住むマンションの前で、彼女と合流する。
「おはよっ! 笠本くん!」
「おはよう。銀川」
「あっ、それって昨日の?」
エリィが指差したのは昨日購入した内宮宛のプレゼント。
歩道を歩きながら、裕太は気恥ずかしくなって箱をカバンの中にしまった。
「あれ? でも内宮さんの誕生日ってまだじゃなかったかしらぁ?」
『そうだぞ。私のデータによると内宮どのの誕生日まではあと1週間といったところだ』
「わかってるよ。忘れそうだから早めに渡すんだ。遅れるよりはいいだろ」
少し誇らしげに裕太が言うと、呆れたようにエリィは苦笑いを浮かべた。
────Bパートへ続く