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第20話「ふたりのオッサン ひとりの婦警」【Fパート 富永の勇気】

 【11】


「それで、あいつの弱点は何か聞き出せたのか!?」


 通信越しにツバを飛ばす勢いで詰め寄るカーティスに、富永はため息を返した。

 まさか、こっちの武器が全部効かないだろうからジェイカイザーが到着するまで待てと言われるとは思っていなかった。

 踏みつけようと足を上げた〈アドラース〉から離れるように後ろ跳びをし、巨体を武器にした攻撃からかろうじて逃れる。


 かれこれ30分以上も、富永たちは今のような防戦を続けていた。

 制空権を押さえられている〈ヘリオン〉は不得意な地上戦を強いられ、〈赤竜丸〉は耐久性のない〈クロドーベル〉を守るために死力を尽くしてくれている。

 時折反撃とばかりに弾丸を打ち込むが、暖簾のれんに腕押しをそのまま表したような結果になるばかりだった。


 敵のミサイルが弾切れを起こし、こちらが地上戦をしている間は対空ビームも放たれないため、〈アドラース〉の戦法が巨体を活かした攻撃だけになっているのが幸いである。


「かくなる上は……!」


 ガイが剣を抜く音がして、〈赤竜丸〉が炎を吹き上げる剣を天高く掲げた。

 が、次の瞬間〈赤竜丸〉めがけて飛んでくる巨大な腕。

 慌てて剣をおろしてその場から逃げ出す姿に、富永はピンときていた。


「ガイさん、もしかしてなにかすごい技が出せるでありますか?」

「うむ。拙者の奥義、翔龍斬しょうりゅうざんならば一矢報いれると思ったのでござるが、こうも攻撃が激しいと……」


 このまま逃げ続けるのも無理があると考えた富永は、焦りで少し手間取りながらもカーティスに回線を繋いだ。


「もしもしもしもし!」

「あンだよ!? こんな時に!」

「ガイさんが、必殺技を出す時間を稼げないでありますかね!?」

「必殺技だぁ?」


 ゲームでしか効かないような単語に難色を示しているのは声色でわかった。

 しかし、今は他に手が考えられないので富永は通信越しに頭を下げて頼み込む。


「私の〈クロドーベル〉の運動性だと限界があるであります! だからカーティスさん、どうか……」

「チッ、しゃあねえな。その代わりコイツの報酬、色を付けろよ!」


 通信が切れると同時に〈ヘリオン〉がジャンプした。

 空中でヘリコプター形態に変形すると〈アドラース〉の目の前を悠然と舞い上がる。

 あの〈アドラース〉の操縦者からしてみれば、ここまで来て逃げられるのは癪だろう。

 それ故、対空ビームに行動を移すのは想像にかたくない。


「おらっ! オレ様が命がけで注意引いてんだからさっさとぶっ放しちまいな!」

「了解でござる!!」


 オーバーフレームの意識が空を駆ける〈ヘリオン〉に奪われている間に、再び〈赤竜丸〉が天高く剣を掲げた。

 剣から噴き出す炎が徐々に熱量を上げ、周囲の空気が文字通り渦を巻く。


 こちらが何かしようとしていると〈アドラース〉が気づいた頃には、〈赤竜丸〉が足を踏み出し、跳び上がっていた。


「必殺奥義! しょうりゅうざん!!」


 巨大な炎を纏った刃をアドラースの足元から大きく振り上げると、刃の炎がアドラースの巨体へと襲い掛かった。

 アドラースの頑強な装甲を物ともせず、炎は肩を穿ち貫く。

 衝撃で発生した凄まじい風圧に飛ばされないように〈クロドーベル〉の姿勢を低くし、耐える富永。

 やがて剣の炎が消え、荒れた大地に〈赤竜丸〉が降り立った。


「やったでありますか!?」

「……いや、残念ながら」

「へ?」


 この程度のダメージなど物ともせずといった風に、〈アドラース〉は再び対空ビームを辺りにばら撒き始めた。

 ダメだったのか、と富永は一瞬肩を落とす。

 しかしモニター越しに見える巨体の、肩の付け根あたりがスパースを起こしているのがたしかに見えて、富永はハッと顔を上げた。


 瞬時にショックライフルを構え、〈アドラース〉の傷めがけて引き金を引く。

 しかし、いくらトリガーを引こうともライフルから銃声が轟くことはない。


 「弾切れでありますか……!」


 カーティスは空で気を引いてる中、ガイの〈赤竜丸〉は必殺技を撃ったばかりで満身創痍。

 今動けるのは自分だけ。

 しかし、うまくいくはずがないという不安が、富永がペダルを踏むのを躊躇ためらわせていた。


(私が、私がやらなきゃガイさんや、カーティスが……!)


 コックピットの中でひとり顔をブンブンと振り、頬を自分でパンパンと叩く。

 頭のなかに浮かんだ、昨日ガイに言われた言葉を富永は思い返す。


   成功を思い描き、勇気を持って行動せよ。

   能力が伴っていれば、失敗することはない。


「……いくでありますっ!!」


 富永は叫びながらレバーを操作し、ペダルを踏み込んだ。

 ショックライフルを右に投げ捨て、電磁警棒を抜いた〈クロドーベル〉が駆ける。

 こちらの動きに気づいたのか、〈アドラース〉の巨大な腕がこちらに向けて伸びてくる。

 しかし、注意がこちらに向ききっていないのが幸いしたのだろう。その腕が叩き潰したのは投げ捨てら乾いた落下音を響かせていたショックライフルの方だった。


 大地に突き刺さった腕へと飛び乗り、そのまま駆け上がりガラ空きの本体へと急接近する〈クロドーベル〉。


「喰らえ、であります!!」


 人間、危機的状況の陥るほど逆に覚醒したかのように冷静になれる場合がある。

 現在の富永はまさにそのような状態であり、ガイの決死の攻撃が作った傷口へと〈アドラース〉の首元から的確に電磁警棒を挿入する事ができた。


 しかし警棒は一瞬激しい光を放ったのみで、〈クロドーベル〉は振り払おうとする〈アドラース〉鋼鉄の手に弾かれ、落下してしまう。

 このままの高さから地面に叩きつけられれば、空中戦など考慮されていない〈クロドーベル〉は無事ではすまない。


「ぬぅぅっ! 富永どのぉっ!!」


 重力に引かれ落ちる〈クロドーベル〉を、跳び上がった〈赤竜丸〉が空中で受け止めた。

 刹那、金属音と共に荒れた土の上を転がる2機。

 富永は上空に見える〈ヘリオン〉を見上げ、叫んだ。


「カーティス! チャンスでありますよ!!」

「ハッハッハー! うまいとこだけオレ様がいただきだぜぇぇ!」


 対空ビームを間一髪で回避しながら、空中でキャリーフレーム形態へと変形する〈ヘリオン〉。

 そのまま重力に身を任せながら斜め下に足を伸ばし、踏みつけの要領で刺さったままの警棒を傷口深く押し込んだ。


 直後、〈アドラース〉の右腕から次々とスパークが起こり、火花が輝き、煙が吹き上がる。

 そして派手な爆発が右肩で起こったかと思うと、糸の切られた人形ように〈アドラース〉の肩から先が機能停止しダランと垂れ下がった。


 今の爆発で動力系にもダメージがあったのだろう。

 〈アドラース〉は見るからに動きが鈍くなり、残った左肩から照射される対空ビームもとぎれとぎれで、明らかに出が悪くなっていた。


「よし、効いているでござるよ!」

「あと一歩であります!」

「トドメを撃たせてもら……」


「喰らえ! ハイパージェイブレード!!」

『縦、一文字斬りぃぃぃ!!』


 〈アドラース〉の頭頂部から股下へと緑色に輝く巨刀が振り下ろされた。

 巨大な身体が断面を露わにし、その間に電撃が走る。

 刹那、燃料が火花に引火する形で大爆発が起こり、〈アドラース〉の巨体が光へと消えた。


 これからが本番だと思ってた矢先に敵を失い、呆然とする3人の前に降り立つジェイカイザー。


『やったな裕太! 大金星だ!』

「……あれ、これってもしかしてタイミング最悪だった?」


 荒野に4つの、立ち尽くす人型の影。

 巻き上げられた土が地面に落ちるパラパラという音だけが、しきりに鳴り続けていた。



  …………Gパートへ続く

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