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第20話「ふたりのオッサン ひとりの婦警」【Dパート 白昼の空中戦】

 【8】


 通報が来たことを知らせるサイレンがなるのは、いつも前触れが無い。

 今回も、談笑の途中で水を差すように警報がなったので、大きな音を予期していなかった富永の耳が痛くなった。


「特殊交通機動隊に通達、特殊交通機動隊に通達! 代多市よたし塀田区へいたく3丁目4番地にて、キャリーフレーム数機による破壊活動を確認! 繰り返す──」


 廊下が走り回る整備員や職員で慌ただしくなる中、大田原がどっしりとパイプ椅子に座りテレビのリモコンを手に取った。

 落ち着き払った彼の態度に、ガイが唾を飛ばす勢いで詰め寄るものだから、大田原は顔を渋くする。


「大田原殿下! これは敵が現れたということではござらぬか!?」

「唾を飛ばすな、汚えなぁもう。敵を知り己を知れば百戦危うからず、って言うだろ? 相手が誰かわからなきゃどう動くかも決まらんだろうが」


 そう言いつつリモコンのボタンを押すが、棚の上に置かれた安物のテレビは反応をしない。

 大田原が「誰だ主電源落としたの」と小言を言いつつテレビ本体の横のスイッチを押すと、パッとニュースの中継映像が表示され、その中でマイクを手にしたアナウンサーが空を指差していた。


「あっ! 今犯人のキャリーフレームが飛び立ちました! 専門家によると、あれは〈ウィング〉と〈ガブリン〉というキャリーフレームのようです! 今、破壊された家屋から住人が救出されました!」


「ええい、民家の方はいい。キャリーフレームの方を映せって」

「テレビに文句言っても仕方ないでありましょう。でも、相手の機種が分かったのはラッキーでありますね」


 これ以上情報が得られそうにないテレビの電源を落とし、出動命令を待つ。

 出動する前にクロドーベルの最終点検や、それを運ぶ大型トラックのエンジンを暖めなきゃいけないのでタイムラグが発生するのは仕方のないことである。


「よっしゃあ! 手柄はオレ様が頂いてやるぜ!」


 黙って空気に徹していたカーティスが立ち上がり、窓からスタイリッシュに外へと飛び出る。

 追いかけるように富永も広場に出ると、遠くからバラバラとヘリコプターの音が聞こえだし、カーティスの頭上にヘリ形態の〈ヘリオン〉が静止した。

 確か、カーティスの機体は携帯電話で座標を送ると、自動操縦で飛んできてくれる仕組みになっているらしい。


「じゃあ富永ちゃん、お先!」


 ロープを掴んで上空の〈ヘリオン〉へと乗り込むカーティス。

 富永を追ったガイが外に出てくる頃には、〈ヘリオン〉は現場の方向へと飛び去っていた。


「富永どの、拙者たちも向かうでござるよ!」

「そう言われてもでありますね。塀田区へいたくは遠いでありますから、今から行って間に合うかどうか……」

「ならば、拙者に任されよう! いでよ、〈赤竜丸〉!!」


 ガイが銀色に輝く竹刀の先端をコンクリートの地面に打ち付けると、床に魔法陣が描かれその中から赤いマシーンが出現した。

 吸い込まれるようにガイが乗り込むと、〈赤竜丸〉はうつぶせになるように姿勢を変えつつその姿を変化させる。

 数秒の後、〈赤竜丸〉は例えるなら翼竜のような姿へと変形した。


「さあ富永どの、〈赤竜丸〉の背中に乗られよう! 一瞬で目的地まで運ぶでござるよ!」

「ちょ、ちょっと待つであります! 大田原さん、いいんでありますか!?」


 富永が背後にいた大田原に是非を問うと、大田原は「いいんじゃねーの」とやる気のない了承をしながら手でトラックを呼び寄せた。

 許可を得た富永はトラックの荷台へ駆け上り、その上に寝そべる形で置かれていた〈クロドーベル〉のコックピットへと入り込む。


 起動キーを捻り動力部を活性化させ、操縦レバーを握って神経接続。

 周囲の風景を映し出すモニターに明かりが灯ると同時にペダルを慎重に踏み込むと、トラックのを傷つけないように〈クロドーベル〉が起き上がり、荷台から降りた。

 そのまま不安を抱きながらも、ガイを信じて〈赤竜丸〉の背中に〈クロドーベル〉の足を載せ、両手でつののように飛び出ている突起を掴む。


「ガイさん、乗ったでありますよ!」

「よし、しっかりと捕まっているでござるよ! いざ出陣!」


 フワリ、とまるで物理法則を無視するかのごとく〈赤竜丸〉が浮かび上がり、ぐんぐんその高度を増していく。

 そして、地上に残った大田原が点のようになって見えなくなると、現場である塀田区へいたくの方へと進み始めた。



 ※ ※ ※



 流れる雲を追い越し、眼下には無数のビルが通り過ぎる中、コンソールに表示された地図と照らし合わせながらガイに方向を指示する富永。

 足元の〈赤竜丸〉は通信機を内蔵していないらしいので、やり取りはハンズフリーの携帯電話越しになってしまう。


「えーと、もう少し右でありますね」

「富永どの。拙者思ったのでござるが、敵は飛んでいるということはもう既に向かっている場所から離れているのではござらんか?」

「あっ」


 思わず言葉を失う富永。

 とりあえず現場に向かうことだけを考えて、そういった判断ができなくなっていた。

 これがもし照瀬がいれば彼が早い段階で指示を修正していたのであるが、今ここにいない人間を言い訳にするほど富永は不出来ではない。


「ええと、あそこからあっちの方向に飛んだと考えるとでありますね……」

「富永どの! 前方から弾が!」

「はえっ!?」


 咄嗟に〈クロドーベル〉の姿勢を下げると同時に頭上を通り過ぎていく巨大な弾丸。

 判断が一瞬でも遅れていれば、|〈クロドーベル〉の頭部メインセンサーを吹き飛ばされていただろう。

 冷や汗をかきながらレーダーに目を通すと、そこに映っているのは3つの光点。


 ほぼ重なっている2点は愛国社のもの。残るひとつは……。


「ええい、ちょこまかと!」

「どわぁっ!?」


 通信機越しに聞こえるカーティスの叫び声と共にこちらに飛んでくる巨大レールガンの砲弾。

 〈赤竜丸〉が機首を上げて宙返りして回避するが、その過程で一瞬逆さまになる〈クロドーベル〉。

 上下の反転する風景に目を回しながらも、富永はキャリーフレームが持つ慣性制御装置の存在に感謝をした。

 もしなければ、今頃頭を天井に打ち付けていただろう。


「あだっ! 頭を打ったでござる!」


 ……足元から軽い悲鳴を上げるガイのように。


 レーダーに映る2つ重なった光点が、クロドーベルの脇をすり抜け通り過ぎる。

 それを追うように〈ヘリオン〉も加速し、主翼を〈赤竜丸〉の翼にぶつけて去っていく。


「あの男、失礼でござるな!」

「言ってる場合じゃないであります! 追うであります!」

「了解つかまつった!」


 機体を右に傾け、〈クロドーベル〉を乗せた〈赤竜丸〉が旋回した。



  …………Eパートへ続く

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