第3話「金色の転校生」【Bパート サツキの魅力】
【2】
その日、教室はとにかくお祭り騒ぎだった。
男子生徒達はサツキの心を掴まんと、話しかけたり質問をしたり。
一方サツキの小動物のような容姿に庇護欲をそそられたのか、女生徒達も男子生徒達からサツキを守るように囲んで会話に混じらせたり、教科書を貸してあげたりしてサポートをしていた。
サツキはというと、彼ら彼女らに笑顔を絶やさず感謝を忘れず、素直に誠実に受け答えをしている。
裕太はその騒ぎを傍観者のように、自分の席から頬杖をついて見ているだけであった。
ぼーっとしていた裕太の背後から、弁当箱を持ってエリィがにこやかに肩を叩く。
「ねぇ、お昼食べに行きましょ!」
「ン……そうするか」
「なにボンヤリしてるのよぉ。あ、わかった! 金海さんのことねぇ?」
「あれだけ質問攻めされて、よく笑顔でいられるな~って。お前なんか、似たような立場だったとき不機嫌そうだったじゃないか」
「そういえばそんなこともあったわねぇ」
数ヶ月前のことなのに昔懐かしむような表情のエリィを眺めていると、教室の後ろの方から悲痛な叫びが聞こえてきた。
「あーっ! 500円玉落としちゃった!」
「うわ、隙間に入っちまって取れねぇぞ!」
そのやり取りを聞いて(かわいそうに)と裕太は思った。
あのロッカーの隙間に小物が入ったら最後、長定規でも使わないと取り出すのは困難であることはこの教室の者なら誰でも知っている。
カネ絡みのため裕太がやや同情しながらも教室を立ち去ろうとすると、女生徒達と話していたサツキが立ち上がり、彼らに近づいて声をかけた。
「私が取りましょうか?」
男子たちは大丈夫だと断っていたが、サツキは件のロッカーの前でうつ伏せになり隙間に手を入れると、しばらくして立ち上がった。
サツキの小さな手には少しホコリを被った500円玉が握られている。
「はい、どうぞ! 私、手が小さいから隙間に入っちゃうんです!」
サツキは頬がホコリで少し汚れた顔をニッコリとさせながら、500円玉を落とし主に手渡した。
その様子を見ていて立ち止まっていた裕太の顔を、不思議そうな顔でエリィが覗き込む。
「笠本くん、どうしたの?」
「あ、ああ? 何でもないよ。飯にいこっか」
「うん!」
スキップで前を歩くエリィを追いかけるように、裕太は教室を後にした。
廊下を歩きながら、裕太はさっきの光景になにか違和感を感じていたが、エリィに早くと催促されたので忘れてしまった。
【3】
「金海さんの人気、本当にすごいわねぇ」
裕太とエリィは中庭のベンチで弁当を食べつつ、昼休みまでの教室の光景を思い返していた。
「外見が良くて、素直で優しい女の子ってのは男の目からしたら魅力的だからなあ」
「あら、外見が良くて素直で優しい女の子ならここにもいるわよぉ?」
「お前が素直? どうだかねぇ」
「なによぉ、失礼ねぇ!」
頬を膨らませてぷいっとそっぽを向くエリィを見てか、携帯電話の中からジェイカイザーが反応する。
『裕太、これがツンデレというものなのか!』
「絶対に違うと思うぞ」
「うふふ、ジェイカイザーもまだまだ勉強不足ねぇ!」
「あのさあ、萌えの概念をAIに教え込むのってどうかと思うんだが」
裕太が今日何度目かの呆れ果てた表情をする。
ジェイカイザーと出会ってからというものの、裕太はジェイカイザーの奇行に対して呆れる以外の反応が出来ないことが多々起こっていた。
もっと物語に出てくるような、例えば「命令を、マスター」と言ってくれるような冷静で素直で機械的なAIだったらなあ、と裕太は何度思ったことだろうか。
「そういえば、ジェイカイザーの本体って今どうなっているんだっけぇ?」
ジェイカイザーと一緒に笑いあっていたエリィが、ふと思いついたように裕太に聞いた。
「ジェイカイザーの作られた研究所ってのが、偶然警察署近くの地下だったらしくてな。大田原さんが便宜をはかってくれて、そこへの運び入れから整備まで警察でやってくれるってさ」
「ふぅん。警察も太っ腹ねぇ」
「まあ、大田原さんとは親関連で色々世話したりされたりだったから、けっこう親切にしてくれるんだ」
『あの研究所にあるのならば、片道だけだがワープによる移動もできるからな! 裕太が私を呼べばGPSで位置を把握してその場所にワープ移動だ!』
「ああ、最初に校庭に出てきたのってそれだったのか」
「そうだ、最初の時みたいに飛んで移動とかはできないのぉ?」
『大田原殿に経費削減のために飛行用バーニアの燃料を抜かれてしまって……』
「俺が言うのも何だが、ケチ臭いな……ん?」
裕太は正面から、進次郎が興奮した様子でこちらに走って向かっていることに気づいた。
「フ、裕太よ。やっぱり僕は天才だ! 僕はやったぞ!」
腕をバタバタと振り回しながらそう叫ぶ進次郎に、裕太は冷ややかな目をくれながら。
「何だ? ついに新しい彼女ができたのか? 今度はどのゲームの何てキャラ?」
「あのな裕太……いくら僕が相手とはいえ少々酷くないか?」
「そうよぉ。岸辺くんだって……岸辺くんだって……やっぱりこないだの新作の娘?」
「いやいやいや、そういうことじゃあない! この天才の岸辺進次郎は、なんと金海さんと一緒に帰る約束をこぎつけたのだ!!」
眼鏡を光らせながらのドヤ顔戦勝報告を聞き、裕太とエリィは鳩が豆鉄砲を食ったような表情になる。
「なにぃ? お前のような自称天才の割には対してそうでもなく、日々エロゲを嗜む陰気臭いオタクがどうやって?」
「よく口をついてこの僕への罵詈雑言をつらつらと並べることができるな貴様は! 僕が2脚バイクで通学していることを伝えたら、一度乗ってみたいと思っていたらしく、あっさりと了承を貰ったのだ」
そう言われてふと、進次郎が数週間前に最新型の2脚バイクを買っていたと自慢していたことを思い出す。
というのも、ジェイカイザーのバルカンで、チンピラの2脚バイクがスクラップよりひでぇ状態になった事件があったせいで、そのことがすっかり頭から離れていたのだった。
「あら、岸部くんにもついに春がくるのかしらぁ?」
「そううまく話が行くかよ。明日には別の男子と帰るぜ、きっと」
ニヤニヤした表情で言うエリィに対し、裕太は辛辣に返した。
進次郎は以前にも別の女生徒数人にアプローチをかけ、撃沈を繰り返している前科がある。
「フ、この僕は天才だからな。今日の帰り道で彼女の心をつかんでみせるさ」
「それができてたらお前は今頃ハーレム漫画の主人公だよ」
『よし、裕太! 今度は電子書籍でハーレム漫画というのを買って社会勉強に役立てることを決めたぞ!』
「決めるな。金の無駄だ」
『酷いぞ! 裕太!』
───Cパートへ続く