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第20話「ふたりのオッサン ひとりの婦警」【Bパート 挟撃、コンビニ強盗!】

 【4】


「かーさーもーとーはんっ!」


 土曜日ゆえに午前だけで授業を終えて校舎から出た裕太を、背後から内宮がトンと肩を叩いた。


「何だよ、内宮」

「いや、背中が見えたから呼んだだけや。ウチ、これからバイトやし」

「……の割には楽しそうねぇ」

「まあ、好きでやっとる仕事でもあるからな。そやそや、ウチもうすぐ誕生日なんや。プレゼント、期待しとるで~」


 そう言ってスキップで校門を通り過ぎる糸目少女の背中をボーっと見送る裕太たち。

 確か、内宮のバイト先はメビウス電子だったっけと思い返す。

 あれだけ楽しそうに行くということは、何かやりがいのある仕事を任されているのだろう。

 以前、コロニーで相談されたときのような悩みはもう無さそうだ。


「誕生日プレゼントかぁ、借金で首が回らねえってのに……」

「ねえ。笠本くんって、内宮さんのことどう思ってるのぉ?」

「へ?」


 唐突にエリィから投げかけられた質問に、裕太は目を丸くした。


「どう……って、面白いやつだなぁとかって言えばいいのか?」

「そ、そう? それならいいのよぉ」


 なぜか今の問答でご機嫌になるエリィに首を傾げる裕太。

 その意味を裕太が理解するのには、もう半年ほどの時間を要することになる。



 ※ ※ ※



「ほいな、訓馬はん。呼ばれて飛び出たウチやけど……ってなんやこれ」


 メールで呼び出され、メビウス電子の地下にやってきた内宮を待っていたのは、キャリーフレームを超える巨大なマシーンだった。

 機械の整備員に指示を出していた老人が、内宮の姿を見て「すごいだろう?」と口元をニヤつかせる。


「訓馬はん、もしかしてウチがこれ操縦するんか?」

「いかにも、まあいつもの戦闘データ収集だがな。イドルの出来を評価した社長が無理強いをしてきたのだよ」

「ほーん……」


 近寄り、見上げてみて改めて分かるその巨大さ。

 目測でも、通常のキャリーフレームの全高8メートルの2倍は超えるであろう巨大マシーン。

 これを操縦すると思うと、内宮は身体の中に高ぶるものを感じるとともに、不安も生まれた。


「なあ訓馬はん。こないな巨大なもん動かせるんは嬉しいけど、流石に町中で暴れさすにはデカすぎひんか?」

「心配は不要だ。社長が考案した作戦があるという。私たちはただ支持に従うだけだ」

「そうなんや。ふ~ん……」


 自身のサイドテールを指で触りながら、内宮はもう一度巨大な機械を見上げた。



 【5】


 日が傾き辺りがオレンジ色に染まりつつある頃、仕事を終えたガイは給料袋を片手に家路についていた。

 まとまった資産をまだ持っていない異星人保護プログラムの対象は、特別に数ヶ月は日給制となる。

 一日一日の収入を糧に変え、地球での生活リズムを掴んでもらう狙いがあるのだという。


(今晩はカップ麺にするか。それよりもコンビニ弁当というのもいいかもしれん)


 晩飯のことを考え、楽しみにふけながら歩いていると、突如として町中に響く女の悲鳴。

 ガイが声の方に振り返ると、行きつけのコンビニから逃げるように飛び出す、フルフェイスのヘルメットで顔を隠した怪しげな男の姿。

 その手には鋭利なナイフと、パンパンに何かが詰まった小柄なカバンが握られている。

 この世界の情勢に疎いガイでも、その男がコンビニで金銭を奪った強盗であることを一瞬で察することができた。


「どけぇ! どかねぇと刺し殺すぞ!」


 強盗犯がナイフを振り回し、通行人をかきわけて爆走する。

 悲鳴を上げ、逃げ惑う人々の中で、ガイは強盗の向かってくる方向を塞ぐように仁王立ちをした。

 たとえ人間相手でも、人々の生活を脅かす賊であるならば捕らえねばならぬ。

 持ち前の正義感が、彼を自然に突き動かしていた。


「どけって言ってるだろうが!!」


 強盗がナイフを前方に突き出し、ガイへと突進する。

 だが、ガイはその場から一歩も動くこと無く、強く握りしめた手の甲でその刃を受け止めた。


「!」


 深々と突き刺さ……ることもなく、切っ先が肉に埋まった形で止まるナイフ。

 予想外の事態に恐れをなしたのか、強盗犯はナイフを抜いてきびすを返した。


「賊め! お縄に付くでござるよ!!」

「くそっ!」


 その場から逃げ出した強盗犯を追いかけるガイ。

 2脚バイクの速さに生身で追いつくガイの脚力ならば、強盗犯が捕まるのも時間の問題である。

 しかし──。


「止まれ! とまらねえとこの女の命はねえぞ!」


 進路上にいた、メガネを掛けた女性を捕まえた強盗犯は、彼女の首に腕を回す形で動きを封じてナイフを突きつけた。

 人質をとられてはさすがのガイも足を止めるしか無く、その場で立ち尽くすしかできなかった。


「いいか、俺が逃げるまで誰も動くんじゃ……ぐぼっ!?」


 瞬間、人質にされていた女性が犯人の腹部に肘鉄を放ちその身体を一瞬浮かせた。

 その隙をついて拘束から抜け出した彼女は、そのまま強盗の腕を掴み、流れるような動きで男の体を背負い込む形で持ち上げる。


「せえいっ! であります!」

「ぐえっ!?」


 そのままコンクリートの地面に叩きつけられ、ぐったりと倒れる強盗犯。

 ガイは仰向けに倒れた強盗の腕からこぼれたナイフを取り上げ、そのまま体重をかけて男の身動きを封じた。



 ※ ※ ※



「逮捕協力、ありがとうでありました!」


 強盗の身柄をパトカーで駆けつけた警察官に引き渡した後、富永と名乗った女性は捕り物劇で乱れた服を直し、笑顔でガイに敬礼をした。

 見よう見まねで、ガイも慣れない現代風の敬礼を返す。


「拙者も騎士として、民衆の生活を脅かす賊は放っておけぬでござる。富永どのも、女性ながら勇気あるたくましい働きでござった」

「お褒めに預かり光栄であります……って、手をケガしているではありませんか!」

「この程度、ケガのうちには入らんでござるよ」


 強盗に刺され、血がにじみ出る手の甲をさすりながら余裕の表情をするガイ。

 実際、彼の屈強な肉体は向こうの世界(タズム界)で鍛えられたこともあり、ナイフに刺されてもかすり傷程度のダメージしか受けていない。

 しかし、富永はムッと顔つきをこわばらせた。


「ダメでありますよ、ナイフで斬られたのなら大問題であります! 傷が浅かったとしても傷口からバイキンが入ってしまったら大変でありますからね! ……そうだ、ちょっと待っててであります!」


 そう言って、眼鏡の勇ましい女性はパタパタとコンビニへと走っていった。

 少しして、白いビニール袋を持って戻ってくる富永。

 その中から消毒液の容器を取り出し、買ったばかりのガーゼに染み込ませてガイの傷口へと当てる。

 傷に薬品が染み込む、鈍い痛みが手に走る。


「ぬっ……!」

「ちょっと我慢であります。消毒したら、絆創膏ばんそうこうを貼って……」


 富永の手でぺたりと傷口に貼られた大きめの絆創膏を、ガイは思わず指先でさする。

 異世界《タズム界》で生きてきた彼にとって怪我の治療とは魔法を使っての回復に他ならず、こうやって道具を使っての処置を受けるのは珍しい体験だった。

 自分よりも年が下の、健気な女性に治療を施され、思わず顔を赤らめるガイ。


「お、恩に着るでござる。で、では拙者はこれで」


 なんだか気恥ずかしくなり、逃げるようにその場を離れようとするガイの腕を、富永が掴んで止めた。


「急に動くと傷口が開くかもであります。ジュースも買って来たでありますから、少し休憩するであります!」



  ────Cパートへ続く

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