第19話「異世界からの刺客 赤竜丸」【Gパート 交錯する必殺技】
「融合!!」
男が剣を地面に突き刺してそう叫ぶと、その身体がひとつの光の玉へと変化し、SD体型を現実にしたようなマシーンの頭部へと吸い込まれ、機体の目が白い光を宿した。
その瞳の輝きは、メインカメラアイの正常稼働を示すキャリーフレームのライトサインとは違う。
光の中に魂を感じる。〈赤竜丸〉と呼ばれたそのマシンの中に、裕太は確かに意思を感じていた。
「さあ来い、黒竜王軍の魔術巨神! 拙者、烈火の英傑ガイが尋常に相手をいたす!!」
〈赤竜丸〉の中から堂々と名乗りを上げた鎧の男──ガイの声とともに、巨大な鞘から剣が引き抜かれる。
その剣の刃には、まるでコーティングされているかのごとく炎が纏われていた。
『裕太、あの剣燃えているぞ!』
「……明らかに自然現象じゃないよな。銀川、見覚えあるか?」
「ううん、全然ないわ。デザインも体型もキャリーフレームじゃない。それよりもあの機体、まるでファンタジーの世界から飛び出てきたみたい……」
エリィの意見に、裕太は素直に同意をした。
今までに見たことのない未知の機体。
これはかつて、木星軍がヘルヴァニア軍と初遭遇したときのような、ファーストコンタクトかもしれない。
原理も、性能も、力量も不明という状況を認識した裕太は、頬に冷たい汗を垂らしながらビームセイバーの使用申請を手元で送った。
数秒の後、帰ってくる「承認」の文字。
「ネギだかマギだか知らないが、やるぞ、ジェイカイザー!!」
『よっしゃあ! ビームセイバー!!』
ジェイカイザー手に握られた柄から、光の刃が伸びる。
こちらの戦闘態勢を確認したかのように、炎の剣を構えた〈赤竜丸〉が土を蹴り上げた。
縦に振り下ろされる赤い刃をビームセイバーの光が受け止める。
裕太がビームセイバーを選択したのは、相手の武器が未知数であったからだ。
相手の攻撃が未知のものである以上、実体にフォトンエネルギー纏わせるジェイブレードよりも、非実体のビームそのものを刀身とするビームセイバーの方がガードを抜かれた時のリスクが低い。
そして裕太の予想通り、ビームの刃は熱エネルギーの塊たる炎の刃を受け止めることに成功した。
まるで花火を上げたかのような激しい閃光が、鍔迫り合いをした刃の間からほとばしる。
その状態のままジェイカイザーが蹴りを入れようと足を動かすと、その動きを察知したのか〈赤竜丸〉が後方へと飛び退いた。
空を蹴る形となったジェイカイザーに向け、少し離れた位置で〈赤竜丸〉は剣を構え、縦に振り下ろす。
「我が魂の炎よ、地獄の輪となり邪を払え! 獄炎輪!!」
剣から放たれた、直径がジェイカイザーの全長ほどもある火炎の輪っかが地面に炎を立ち上らせながら向かってくる。
裕太は咄嗟にペダルを踏み込み、バーニアを吹かせてその場から横へとステップをさせた。
対象を外した炎のリングがコンクリート製の壁にぶつかり弾けて消える。
すぐさまジェイカイザーの開いた手がショックライフルを掴み、トリガーを引いて〈赤竜丸〉へと光弾を放つ。
しかし、迫るプラズマ粒子の弾丸を素早い太刀筋が弾き、光弾があらぬ方向へと飛んで消えた。
「笑止! なかなかやるようだが、そのような軟弱な攻撃、拙者に届くはずもない!」
『裕太、すごく強いぞあのマシーン!!』
「笠本くん、普通の攻撃じゃ通用しないわ!」
「わかってる! 耳元で叫ぶな!」
再びビームセイバーを構え、〈赤竜丸〉と向き合うジェイカイザー。
ふと、裕太は〈赤竜丸〉から得体の知れない圧力・プレッシャーを感じ始めていた。
その見えない力は徐々に増大し、それに伴うように剣の炎が輝きを増していく。
(……大技か!)
ただならぬ気配を感じた裕太は、無言でコンソールをテキパキと操作しウェポンブースターを起動した。
回避に専念するのも一つの手だが、この状況で出したということは追尾性のある技か、あるいは広範囲の技に違いない。
ならば、回避ではなく同等の力で打ち消す方向に持っていった方が確実だという咄嗟の判断だった。
互いに得物を空に掲げ、エネルギーを増す2機のマシーン。
奇しくも同時にチャージが完了し、示し合わせたかのようにふたつの刃が動き出す。
「やっちゃえ! ハイパービーム斬りよぉ!」
「喰らえ! 強化ビームセイバー!!」
『カイザービーム一文字斬りぃぃぃ!』
「翔・龍・斬!!」
ぶつかり合う光と炎の巨大な刃。
強大なエネルギー同士が科学的、あるいは未知の原理により反応しあいその熱量を増していく。
──刹那、巨大な爆発が2機の間に生じ、その巨体が宙を跳ねた。
互いに後方へ、背中で地面をえぐりながら仰向けに滑るジェイカイザーと〈赤竜丸〉。
爆心地にポッカリと開いたクレーターを挟むように、2つの巨体が静止した。
※ ※ ※
「こ、小癪な……!」
先に動いたのは〈赤竜丸〉だった。
勢いを失った炎の剣を杖代わりに、よろめきながらゆっくりと立ち上がる。
……が。
『ジェイバルカン!!』
頭だけを持ち上げたジェイカイザーから放たれた無数の実弾が、満身創痍の〈赤竜丸〉へと突き刺さった。
目に灯っていた光が消え、その場に倒れる〈赤竜丸〉。
その赤い巨体が光を纏って消滅し、後には膝をついた格好の鎧の男、ガイが残った。
遠くから聞こえてくるパトカーのサイレン音に、裕太はコックピットの中で胸を撫で下ろす。
いつもなら無邪気に勝利を喜ぶエリィも、この時ばかりは静かにため息をついていた。
コックピットハッチを開き、念のため警戒しながらガイのもとへと歩く裕太。
ガイはうめき声とともに顔を上げ、裕太を見上げた。
「……拙者が敗れるとは、敵ながら見事な腕前だった。名を聞きたい」
「えー……知らないオヤジに名前教えるの怖いんだけど」
裕太がためらっていると、到着したパトカーから降りてきた大田原が片手を上げて歩いてきた。
「笠本のボウズ、そいつが容疑者か?」
「カサモト……!?」
大田原に手錠をかけられながら、その口から放たれた苗字に驚愕を顔に浮かべるガイ。
「しょ、少年! もしや、少年の母親の名は……ユミエではござらんか!?」
「ど、どうして母さんの名前を!?」
思わぬところから飛び出た母の名に、裕太は思わずガイに詰め寄った。
しかし、ガイはその場でがっくりと肩を落とし、座り込んでしまう。
「そうか、ユミエ殿の息子ならば……拙者が勝てぬわけだ」
意味深な言葉を残して、ガイはパトカーへと連行されていった。
※ ※ ※
「見ーちゃった、見ーちゃった!!」
裕太たちの視界の外。
枯れ木の枝の間から、ひとつの小さな人陰が顔を出してほくそ笑んだ。
まるで童話に出てくる妖精のような姿をしたその少女は、懐から取り出したビー玉サイズの水晶玉へと喋りかける。
「ゴーワン様、ゴーワン様! 報告がありますです!」
水晶玉と会話する妖精の姿に気づいたものは、誰もいなかった。
───Hパートへ続く