第19話「異世界からの刺客 赤竜丸」【Fパート 現れる脅威】
【6】
町外れの開発地域。
開発地域とはいっても、一本に走った煤けた大通りと、そこから伸びる細い街路を挟むようにして、土地の境界線を表すコンクリート製のブロック塀が立つばかりの荒れ地である。
かつてはこの辺りにも規模は小さいが農村があり、それなりの活気に満ち溢れていた。
しかし、10年前に直下で起こった大震災により建物が倒壊し、数年後にはとどめを刺すように事故を起こした飛行機が墜落してからというもの、呪われた土地と言われ人が寄り付かなくなってしまった。
そんな曰く付きの一角に、進次郎はサツキを守るように壁を背にして鎧姿の男の前に立ちふさがっていた。
「そこをどくでこざる、少年よ! 黒竜王軍の魔物を庇い立てしても人類のためにはならんぞ!」
時代劇の侍のような言葉遣いの男が構える、派手な装飾の施された剣の切っ先がキラリと光って進次郎を威圧する。
「人違いではないのか! 黒竜王軍とやらは知らないし、彼女は悪者ではない!」
「哀れな少年でござるな。黒竜王軍に精神を乗っ取られておるとは! 先程その魔物がスライムのように姿を変えたのを見てもそう言うとは!」
話が通じていない、というよりはズレているな、と進次郎は感じていた。
コスプレにしては出来が良すぎている、激しい戦いを語るような幾重もの細かい傷がいたるところに刻まれた鎧。
その鎧を着込んでもなお、2脚バイクに追いつくだけの脚力と屈強な肉体。
言動も含めるとまるで、ファンタジーの世界からやってきた騎士そのものではないか。
背中を掴み震えるサツキの体温を感じながら、進次郎は親友の到着を待った。
いつ目の前の騎士が激昂して斬りかかってくるかわからないが、ほぼ不死身と言えるサツキを盾にするほど非情にはなれないのが、男であるというプライドを誇りに思う進次郎の心である。
「……む!」
それまでまっすぐに進次郎を見据えていた、男の視線が上空へと逸れる。
遠くから聞こえてくるキャリーフレームのバーニア噴射音。
この人気のない場所に飛んでくる機体はひとつしか無かった。
※ ※ ※
「進次郎、無事か!」
「遅かったじゃないか、裕太!」
進次郎とサツキの2人の位置が足の間に来るように、砂煙をあげて着地するジェイカイザー。
裕太がレバーを操作すると、ジェイカイザーは飛び退いた甲冑の男の前に拳を振り下ろし、進次郎たちを守る壁を作った。
「悪い、ジェイカイザーが拗ねてて」
「そんなことで僕が死んだら世界の損失だぞ」
「岸辺くん、金海さん、警察を呼んで早く避難するのよ!」
「はい、わかりました!」
ジェイカイザー陰に隠れるようにしてその場から離れる進次郎たちを確認してから、裕太は正面に立つ鎧の男を真っ直ぐに見据えた。
「おい、そこのオヤジ! これ以上抵抗すると、ケガをしてもらうことになるぞ!」
スピーカー越しに脅しをかける裕太。
無論、裕太は生身の相手に実際に手を出すつもりは毛頭ない。
今この場に来たばかりの裕太とエリィにとって、この男はコスプレをした不審者にしか見えなかったというのもある。
不意に、コンソールの横においた携帯電話が進次郎の名を表示しながら着信音を響かせたので、裕太は通話ボタンをタッチした。
「進次郎、警察は?」
「すぐ来る……が、裕太! 油断するな!」
「油断って……?」
携帯電話の画面から、正面を映すモニターに注意を移すと、鎧姿の男が派手な剣を天高く掲げていた。
「我が宝剣イグナーガの命に依り、出でよ! 赤竜丸!!」
男が叫ぶやいなや、男の背後に赤く光る線で円が浮かび上がり、その中に複雑な図形が描かれていく。
その模様が完成すると天から光が降るように輝きだし、雷鳴と共に一筋の光が陣の中央へと降り注いだ。
光の中から現れる、人型ロボット。
赤と白を基調に金色のラインで縁取られたそれは、キャリーフレームとは異なる低い頭身をしていた。
───Gパートへ続く