第19話「異世界からの刺客 赤竜丸」【Aパート 工事現場に魔法陣】
【1】
「おい、聞いたかあの話」
「あの話? 何のこったよ」
すっかり日もくれた夜の工事現場。
休憩に入ったふたりの作業員が、仕事道具でもありパーソナル・スペースでもある土木作業用キャリーフレーム〈エレファン〉のシートに座ったまま、ハッチを開けて雑談にふけっていた。
二人は、人種の壁を越えた仕事仲間である。
人種が異なると言っても、アジア人だとかイギリス人だとか、国という境界線のどちらで生まれたかということではない。
今は無きグリアス星出身のヘルヴァニア人と地球生まれの日本人。
生まれた星が異なっていても、その間に生まれた仲間意識、友情は同人種同士のものと何も変わりはなかった。
「何年か前に暴れて大勢犠牲者が出たナントカってキャリーフレームがまた出たんだが、民間防衛の奴が倒したって話」
日本人の作業員に、気さくにヘルヴァニア人の作業員が今朝のニュースで見た話を持ちかける。
「ナイトメアとかいうやつだろ? ネットの動画で回ってきたの見たけど、ありゃあ凄かった」
「なんでも、そいつを倒したっていう派手なキャリーフレームのパイロットは、この街に住んでる学生らしいぜ」
「マジかよ。まるでヒーローだな」
ヘルヴァニア人の作業員は、屈託なく笑った。
まるで、地球で流れているアニメみたいじゃないか、と。
フィクションにいるような英雄が実在するならと思えば、彼によって抱えている不安も解消されるのではと思う気持ちにもなった。
「最近出る工事現場荒らしも、そのヒーロー君がやっつけてくれねーかな」
「工事現場荒らし? 何のことだよ」
「知らないのか? 夜な夜な工事現場に現れてはキャリーフレームをぶっ壊していく謎のキャリーフレームが出るんだと。しかも、やられたキャリーフレームは全部、燃えていたんだってよ」
ホラーにしてはお粗末な、しかし現実にしてはリアリティのない話に、日本人作業員は顔を引きつらせた。
「おっかねえ話だな。どうせ愛国社とかいうテロリストの仕業ってオチになりそうだが……」
「おいお前、ここは立入禁止だぞ!」
雑談による賑わいを打ち払うような同僚の怒声に、思わずコックピットから身を乗り出して声のした方に顔を向ける作業員たち。
そこには、作業用の明かりに照らされた、西洋鎧のような甲冑を着込んだ何者かが腰の鞘から剣を取り出す姿があった。
彼らの前に立ちはだかる作業員は、各々ツルハシやスコップを持って対抗する。
すると、鎧の人物がキラリと輝く剣を空高く掲げ、叫んだ。
「我が宝剣イグナーガの命に依り、出でよ! 赤竜丸!!」
男の声が響き渡る中、工事現場の土に大きな赤い魔法陣が描かれ、その中心から白と赤を基調としたロボットが姿を現す。
その機体は奇妙なことに、まるで等身の低いデフォルメキャラのように胴体が短く、頭部が大きい、いびつな形をしていた。
作業員達が驚く間もなく、鎧の男が吸い込まれるようにロボットへと消えていき、その目が白く輝き動き出す。
「「「うわああっ!!」」」
作業員達が逃げ惑い始めるのと、謎のロボットが鞘から抜いた巨大な剣から炎が吹き出したのは、ほぼ同時だった。
───Bパートへ続く