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第18.5話「ある日のメビウス」


「んっふっふ~♪ 笠本はん、さすがやなあ!」


 薄暗いオフィスの一角で、鼻歌交じりに映像を眺める内宮。

 パソコンの画面の中でジェイカイザーが跳び、〈ナイトメア〉が駆け、ビームがぶつかり合う。

 その映像は陰からこっそりと〈ウィングネオ〉で撮影した、裕太とグレイの決闘シーンだった。


 この戦いでグレイが負け、裕太が勝利したのは彼女にとって喜ばしいことだった。

 裕太がもし再起不能でもなってしまったら、二度と裕太にリベンジすることができなくなる。

 いつかまた戦えるチャンスが到来した喜びが、鼻歌の形で外に出ていた。


 もう何度目かわからない映像の巻き戻しをしている中、内宮は背後に人の気配を感じた。


「やけにご機嫌だな、内宮」


 そう言いながらも口元に僅かな笑みを浮かべる訓馬。

 その笑みの理由を、内宮は知っている。


「訓馬はんもお疲れや。その様子やとイドラの実験はうまく行ったようやな」


 訓馬専務が進めているメビウス電子の1プロジェクト、無人戦闘AI・IDOLA(イドラ)(Iam Droid Option Lan Advance)。

 ラテン語で偶像を意味する名を冠したそのAIは、人間に代わってキャリーフレームを操縦し、犯罪者や宇宙海賊と戦う役目を与えられた人工知能である。

 これまで内宮がグールとしてキャリーフレームの実戦データを集めていたのも、すべてはこのイドラに与える”経験値”のためであった。


 そのイドラの開発も既に大詰め。

 現在は模擬戦で実用性を検証しつつ、調整を繰り返している段階だ。

 上機嫌な訓馬の背後から顔を出す、彼と対象的に不機嫌なキーザ。


「クソッ! クソォッ! この私が、三軍将の一角だったこの私が無人機などにぃぃ!!」


 コンクリートの壁に拳を打ち付け、激しく痛がるキーザ。

 今日の実験台がキーザ主任だったというのは、その様子を見るだけで読み取れた。


「まあ、まあ。キーザはんは重機動ロボのパイロットやから、キャリーフレーム乗って負けるのは当たり前っちゅうか。その……元気出しぃや?」


 とっさに内宮の口から出た慰めの言葉。

 しかし、その言葉は逆にキーザの自尊心に傷をつけたようで、激昂したキーザが衝動的に内宮に掴みかかってきた。


「元気が出るかぁ!! おのれ内宮千秋、貴様までもこの私を侮辱す──!」


 もにゅっ。


 内宮の胸に鈍い痛みが走り、ほんのり人肌の暖かさが伝わってくる。

 その原因が、キーザの手が内宮の胸を掴んだことだと理解するのには数秒の沈黙が必要だった。

 自分が何をしたのか冷静になって理解したのか、手はそのままにしどろもどろになるキーザ。


「あ、いや、その、これはだな……」

「んぅふ……な!? な、な、な……何さらしとんじゃこのボケェ~~!!!」


 キーザのみぞおちに突き刺さる、顔を真赤にした内宮の鋭い右ストレート。

 一瞬宙に浮いたキーザのこめかみに、素早い回し蹴りが炸裂した。

 サーカス団もびっくりのその場での横三階転を決めたキーザが、痛々しい音とともに床に崩れ落ちた。


「ハァ……ハァ……ハァ……! あ……キーザはん、息しとる?」


 我に返った内宮は、うつ伏せのままビクンビクンと痙攣するキーザに声をかける。

 しかし返事がない。ただの瀕死のようだ。

 ハァ、と訓馬がわざとらしい大きなため息をついて内宮の肩に手を載せた。


「キーザ君。君はそのようなことをするから女性と縁がないのだよ。内宮、君はもう帰りなさい」

「せ、せやけど……セクハラされた言うても、こんなやってしまったら……」

「彼なら心配はいらない、ヘルヴァニア人は身体が丈夫だからな」

「そ、そうなんか……? ほ、ほな……」


 床の上で震え続けるキーザを横目にオフィスから逃げるように退出する内宮。

 後日、彼女が元気に重機動ロボでイドラに挑戦し、大敗を喫するキーザの姿を見たのはまた別の話。



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