第18話「決戦 ナイトメア!」【Fパート 勝利の対価】
【5】
「やっ……」
『やった……!』
「やってしまったぁぁぁ!!」
『!?』
喜びに打ち震えるのかと思いきや、裕太が突然頭を抱えてうずくまったのを見てか、困惑の声をジェイカイザーが漏らす。
「ついノリと勢いでぶった切っちまったけど、あれ絶対中の人死んだって!! うわああ人殺しになってしまったぁぁぁ!」
『なんだ、そういうことか!』
「何だじゃねーよ! 他人事だと思いやがって……!」
『違うぞ裕太、前を見ろ!』
ジェイカイザーに促されて前を見ると、もくもくと昇る煙の中から炎に包まれながらも無傷な球状のコックピットが姿を表した。
「時間停止防壁、あったのか……」
ホッと胸をなでおろす裕太の前で、むき出しのコックピットは周囲に白い消火剤を噴射した。
周囲の炎が消えると同時にハッチが開き、五体満足なグレイが地面に這いつくばるようにして出て来る。
「くっ……俺の完敗だ。笠本裕太……!」
「あっ、生きてる」
『なっ、私の言ったとおりだろう!』
「貴様……やはり俺を殺す気でやったな! くそ、次は負けんぞ! 覚えてろ!!」
月並みなセリフを言って、グレイはそそくさと走り去っていった。
裕太は改めて、母と照瀬の仇を取れたのだという事実を噛みしめる。
もうあの悪夢に惑わされることは無い。
その達成感で、裕太は胸が一杯になったが、同時にまたグレイと戦う可能性があると思うと、すこし面倒くさくなった。
「笠本く~~ん!!」
退避していた場所から走り寄ってくるエリィと進次郎たち。
サツキの腕に抱かれた、地味な功労者ネコドルの姿もある。
裕太がコックピットハッチを開けて地面に降りると、満面の笑みを浮かべたエリィが裕太の手を握ってぴょんぴょんと飛び跳ねた。
「やったぁ! やったわねぇ! さすがは笠本くんよぉ!」
「ちょっ……! 銀川お前、スカートスカート!!」
「あっ! もう、笠本くんったらエッチ!」
裕太に指摘され、頬を赤らめて下に何も履いていないスカートを両手で抑えるエリィ。
その横で残念そうに舌打ちをした進次郎が、何事もなかったかのように咳払いをした。
「フ……僕の天才的頭脳は、最初からこういう結果になると予想していたぞ」
「と言ってますけど、進次郎さんはずっとハラハラしながら見守っていたんですよ!」
「はらはらニュイ!」
「あ、こらサツキちゃん!」
慌てて訂正しようとする進次郎に、ハハハと乾いた笑いを送る裕太。
背後にいつの間にか立っていたカーティスが、首に腕を回して裕太の胸を叩いた。
「ガキンチョ、やるじゃねーか! すごい戦いだったぜ!」
「いてて……。オッサンの援護射撃、助かったよ」
「へっ、お礼なんてむず痒いぜ。オレ様はただ、貰った報酬の分働いただけだ! おっ……ポリス達が来たぞ!」
サイレンを鳴らさずに走ってくる1台のパトカー。
裕太たちの近くに停まったそのパトカーから、大田原と富永、そして片腕をギプスで固定した照瀬が降りてくる。
「照瀬さん! もう大丈夫なんですか?」
「笠本の小僧、心配は不要だぞ。それにしても、仇討ちご苦労だったな!」
「すごいであります! さすがは笠本さんの息子さんであります!」
次々に褒められ、思わず照れる裕太。
そんな裕太を見て、ニヤニヤとした表情でその頬を指でつつく進次郎達。
喜びに包まれた埠頭で、ひとり大田原だけが複雑な表情をしていた。
「大田原さん、どうしたんですか?」
「えーと、坊主。あのなだな……」
「褒め言葉に迷ってるんですか? なんでも良いですよ!」
「そうか、じゃあ……」
そう言って、懐から一枚の紙を取り出す大田原。
裕太は呑気に「感謝状かな?」とその紙を受け取って目を通す。
読んでいた裕太の顔が、徐々に青ざめていく。
後ろに立っていたエリィが、横から覗き込んだ。
「なぁに、その紙? えっと……ジェイカイザー修理費用、いちじゅうひゃく…………5億円!?」
「ご、ごおく!?」
「お、大田原さん、これ悪い……冗談じゃ……!」
「すまん、坊主」
素直に、まっすぐに頭を深々と下げる大田原。
「お前から預かった500万じゃ、パワーアップどころか修理費にすら足りなくてな。しかもトマスがハッスルしてあれこれ最新機のパーツとその予備を取り寄せたりなんだりやってたら、予算が大幅の大幅にオーバーしちまった。まあ、今後の修理補給代も含めてっつーことで利子も無しにしてやるから、な?」
「な? って……えぇェェェ!!? お、オッサン……!」
金持ちのカーティスに救いを求める眼差しを向ける裕太であったが、無情にもその顔は横に振られる。
「悪いが、〈ヘリオン〉購入資金と引越し費用で資産が今1億切ってるんだ」
「じゃあ、進次郎~~!!」
「僕の資産なんて5000万くらいしか無いぞ!」
「十分すごいと思うけど、5億には届かないわねぇ……って、笠本くんが借金を負ったら将来あたしの借金にもなるんじゃ!!?」
「正確には5億じゃなくて、預かった450万を引いて、4億9550万円であります!!」
「嘘だそんなことぉぉぉぉ!!!」
勝利の喜びから一転、絶望に落ちた裕太の嘆きが、波の音とネコドルフィンの鳴き声に混じって埠頭に響き渡っていった。
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登場マシン紹介No.18
【ジェイカイザー改】
全高:8.9メートル
重量:9.0トン
大破したジェイカイザーを最新の部品で強化・修復したもの。
最新の部品と言っても、大半は民間機用のパーツであるため軍用機ほどのポテンシャルは持っていないものの、以前に比べると数世代分性能が向上している。
新機能として違法武器の使用申請があり、警察組織の上層部へと申請を送ることで、地上でもビームセイバーやジェイブレードなどの法に触れる武器が一時的に許可される。
【ナイトメア・リペア】
全高:8.5メートル
重量:9.8トン
ジェイカイザーとの戦いで少しダメージを受けたナイトメアを修復したもの。
鋭い手刀による格闘戦しかできなかった状態から武装を追加され、右手の手甲からビームカタール、左手の手甲から機関砲を放つことが可能となった。
あくまでも武装の追加のみのため、その他の強化は施されていない。
【ガブリン】
全高:7.8メートル
重量:6.0トン
クレッセント社製の安価な軍用キャリーフレーム。
日本円にして1機が200万円という安価で購入できるため、宇宙海賊やテロリストだけでなく、個人の強盗までもが所有していることのある悪名高い機体。
付属装備として実弾を発射するレールライフルと、鋼鉄製のアックスがついてくる。
パワーや耐久力、運動性などは高価な機体に大幅に劣るものの、数で攻める場合は対人に対しての威圧ならば十分な性能を持っている。
【次回予告】
夜な夜な街に現れるという鎧を着込んだ謎の襲撃者。
その人物は魔法陣から現れる機体を操るという。
胸騒ぎのする裕太達の前に現れる襲撃者。
その出会いは新たなる戦いの予感でもあった。
次回、ロボもの世界の人々第19話「異世界からの刺客 赤竜丸」