第18話「決戦 ナイトメア!」【Eパート 決着】
【4】
互いに刃を向けつつ、動きを止めたまま数十秒。
裕太の額から流れた汗が頬を伝って膝に落ち、ズボンに僅かなシミを作る。
全く隙のない相手の構えに、攻めるタイミングを決めあぐねていた。
「強い……!」
これまで相手にしたことのない強さに、裕太は緊張で肌がピリピリする感覚に興奮を覚えていた。
機体性能が互角、というシチュエーションすら稀なこの界隈。
初めて覚える白熱した実戦の熱気に、顔が火照るのを感じていた。
『裕太、裕太!』
不意に、集中を乱すようにジェイカイザーが呼びかける。
裕太は煩わしさを感じつつも、ジェイカイザーの声に耳を傾けた。
「何だジェイカイザー、下らないことだったら怒るぞ」
『裕太、レーダーを見ろ。何かおかしいぞ』
正面に見える〈ナイトメア〉の動きから目を離さずに、一瞬だけ視線をメインコンソールのレーダー部に向ける。
そこには、〈ナイトメア〉以外の数個の機体反応。
そのどれもが、戦場を囲うように置かれたコンテナの中から発せられていた。
『伏兵かもしれん。ここは一旦体勢を……』
「いいから、黙ってろジェイカイザー」
『しかしだな……』
事実に気づいてもなお冷静さを崩さない裕太の表情を見てか、ジェイカイザーが言い淀む。 長年とはいかなくても、数々の戦いをくぐり抜けてきた相棒だ。
言葉をかわさずに、意思の疎通をすることくらいは《《たま》》にできる。
硬直時間が1分に上ろうかとした瞬間、〈ナイトメア〉がしびれを切らしたのかジグザグの軌道で素早いステップを踏みつつこちらに向かってきた。
と同時にコンテナの外壁を破壊して姿を現す、ライフルを持った数機の〈ガブリン〉。
しかし、その〈ガブリン〉は遠距離から放たれたレールガンの弾丸をくらい、海の方向へと吹っ飛びネコドルフィンを巻き上げながら水没していった。
「オッサン、ナイスだ!」
予めカーティスに頼んだ甲斐があったと、裕太はほくそ笑んだ。
予想通り邪魔が入っても、これならグレイ相手に集中できる。
……そう思っていたのだが、左脇のコンテナから現れた〈ガブリン〉に今まさに攻撃されそうになり、裕太は自分の考えの浅はかさを悔いた。。
(ジェイカイザーの陰にいるやつは流石に狙撃は無理か。さて、どうする?)
いままさに斧状の武器を振り上げた〈ガブリン〉をどう対処するか裕太が悩んでいると、〈ナイトメア〉がビームカタールの切っ先を横に逸らし、〈ガブリン〉の首をはねるように頭部を切り裂いた。
倒れた機体から逃げ出すように操縦者が這いでてくるのを尻目に、裕太はキョトンと〈ナイトメア〉の無機質な頭部を見つめる。
「三輪の奴め、余計なことを。俺としてもこの勝負に水を注されるのは不本意だからな」
「先制攻撃したくせによく言うぜ」
「お互い様だろう、笠本裕太!」
一瞬背中を向け合い、レーダーの反応がする方へと弾丸を放つジェイカイザーと〈ナイトメア〉。
次々とコンテナが爆発を起こし、むき出しになった球状のコックピットだけがゴロリとコンテナの中から顔を出す。
つかの間の共闘にグレイと一体感を感じる裕太。
既に裕太にとってこの戦いは、母の仇討ちでもこの間のリベンジでもなく、男と男の意地をかけた勝負となっていた。
レーダーの反応が次々と消え、残りが〈ナイトメア〉のものだけとなる。
改めて双方とも剣を構え直し、律儀に先程の仕切り直しをする。
互いに親の仇同士、腕も互角、機体性能も互角。
違うのは、経験と守りたい存在。
先の1分の空白の間に浮かんだ妙案に、裕太は賭けることにした。
裕太はつばを飲み、深く一度深呼吸をしてからペダルを軽く、足先で叩くように僅かに踏んだ。
ジェイカイザーの背部バーニアが、まるでオイルが切れかけたライターを灯すように一瞬だけ火を吹き、上体を僅かに前に傾ける。
その隙を見逃さないという風に、〈ナイトメア〉がこちらにまっすぐと大股なステップを踏む。
裕太は〈ナイトメア〉が動き出すと同時に強くペダルを踏み込み、ジェイブレードの握る部分を刃に対して垂直に伸びるグリップへと持ち変えた。
脚部のバーニアが激しく火を吹き、〈ナイトメア〉が前に進む速度と同じくらいの速さで後ろへと跳躍するジェイカイザー。
裕太がコンソールを2,3度タップすると、ジェイブレードのフォトンエネルギーが消失し、代わりに中心の刃が真ん中から開き、根本にある銃口が顔を見せる。
「何っ!!」
グレイがジェイブレードの変形機構に気づいたときには〈ナイトメア〉の片足が地につくことから免れず、タイミングを合わせるようにジェイブレードから放たれたフォトンエネルギー弾が着地した足に直撃した。
小さな発光弾だったフォトンエネルギー弾は一瞬にして大きさを増し、〈ナイトメア〉の片足を覆い地面へと結びつける巨大な結晶へとその姿を変える。
片足を地面に固定され、身動きが取れなくなった〈ナイトメア〉に向けて、ジェイカイザーが再びジェイブレードを正しく握り、その腕からフォトン結晶を放出させる。
「これでトドメだ! ジェイカイザー、ウェポンブースター最大出力!」
『うおぉぉぉ!』
ジェイカイザーの唸り声とともに腕から伸びるフォトン結晶がジェイブレードへとまとわりつき、真っ直ぐ上空へと構えた刃がぐんぐんと伸び、その長さと幅を増してゆく。
成長を続けるフォトン刃はジェイカイザーの身長の5倍ほどに伸びたところで止まり、戦艦すら両断できそうな巨大な剣がまっすぐに振り下ろされる。
「喰らえぇぇぇっ!!」
『ハイパージェイブレード、真っ向から竹割りィ!!』
動けない〈ナイトメア〉に、ゆっくりと落ちてくる巨大な刃。
グレイが「ちいっ!!」という声を出しながらビームカタールを受け止めるように構え、カードの体勢を咄嗟に取る。
しかし、ジェイブレードの巨大なフォトンの刃は一瞬だけ火花を散らしてビームカタールを素通りし、そのまま〈ナイトメア〉を頭から真っ二つに両断した。
〈ナイトメアが〉両断された断面をスパークさせるなか、ジェイブレードの巨大な刃はコンクリートの地面に深々と食い込み、切っ先は海水を巻き上げ、ネコドルフィンたちと一緒に飛び散った飛沫で小さな虹がかかった。
そして、〈ナイトメア〉がバーニアのある背部から大きな爆発を起こし、煙が空へと上った。
───Fパートへ続く