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第18話「決戦 ナイトメア!」【Bパート 埠頭再び】

 【2】


「裕太。おい裕太! 大丈夫か?」


 進次郎の操縦する2脚バイクに揺られながらまどろんでいた裕太は、彼の呼びかけによって回想の世界から現実に意識を戻した。

 手すりに捕まったまま背後を向くと、サツキが擬態した2脚バイクを操縦して後をついてくるエリィの姿。

 彼女の操縦する2脚バイクの後部座席にはシートベルトに巻かれた、サツキのペットのネコドルフィン。


 そのネコドルフィンが「きついニュイ~」としきりに抗議の声をあげているのを聞いて、裕太の緊張が少しほぐれた。



 現在、裕太たちは大田原たちの警察署へと届いた、グレイからの果たし状に指定された場所へと向かっていた。

 その場所は、以前〈ナイトメア〉に敗れたところと同じ与多よた埠頭。

 前回の戦いで壊されたコンテナ群が撤去され、一般人には立入禁止区域となった場所ならば、野次馬や邪魔が入ることも無いだろう。


 ちょうど埠頭の入り口にあたる場所に到着した裕太たちは、そこに停まっていたヘリコプター形態の〈ヘリオン〉から降りてきたカーティスと軽い挨拶を交わす。


「来たかガキンチョ。お前が欲しがってたものはちゃんと持ってきてやったぞ」

「サンキュ、オッサン」


 礼を受けながら、カーティスは〈ヘリオン〉が運んできたことがひと目で分かる大きなコンテナの開閉スイッチを強く押し込んだ。

 するとコンテナのフタがモーターの駆動音とともにひとりでに持ち上がり、その中身を見せつけるようにしてあらわとなる。


「こいつが、ジェイカイザーとかいうガキンチョのロボ専用の剣“ジェイブレード”だそうだが……」


 ひと目見ただけでは、おもちゃ売り場で売られているような特撮ヒーローの剣のようなデザインの巨大なブレード。

 柄には金メッキの派手な装飾が施され、刃は鋭利であるが細く、中央に一本の筋が縦一文字に入っている。

 また、左右に伸びるつばの片方は長く伸び、グリップのような形状となっていた。


「なんかあんまり強くなさそうな剣だな。なあガキンチョ、ビームセイバーのほうが良かったんじゃねえのか?」

「いや、ジェイカイザーがこれを使いたいって言って聞かなかったんだよ。今はあいつを俺は信じたい」

「そういや喋るって話だったな、お前の機体。外見の派手さといい、珍妙な武器といい、わけのわからん機体だぜ」


 まじまじとジェイブレードを眺めながら首をひねるカーティスに、裕太は前もって伝えていた作戦のことを確認する。

 しかし、カーティスは「そこまでするギリはねえな」とニヤついた顔で断った。


「ちょっと待て、話が違うじゃないか。確かにこの間、保険として見張っててくれるって……」

「オレ様が了承したのはこのコンテナの運搬だけだ。その後の保険には一言も触れちゃいないぜ」


 このオッサンを頼ったのは間違いだったか、と裕太は静かに歯ぎしりした。

 グレイの背後に何かしらの組織が絡んでいることは、〈ナイトメア〉の整備具合を見てわかっている。

 万が一、グレイが負けそうになった時に横槍を入れられる可能性は大きい。

 そのために助っ人として、遠方から狙撃が可能な〈ヘリオン〉を頼りたかったのだが。


 立ち尽くす裕太を押しのけるようにして、進次郎が鼻を鳴らしながら躍り出る。


「よし裕太、ここは交渉をするんだ。カーティス、見張りをする報酬として何か欲しいものはあったりしないか?」

「あン?」


 報酬と聞いて、口端をにやりと上げるカーティス。

 顎に手を当てしばし考えると、良い答えを思いついたとばかりに嫌らしい笑みを浮かべながら口を開いた。


「そうだな、女子高生のパンツでも貰えたら考えが変わるかもしれんなあ!」

「……おい、そんなものどうやって」

「わかったわぁ」

「「えっ」」


 快い返事をし、エリィが近くの茂みに隠れるように入っていく。

 しばらくガサガサと音を立てると、顔を赤らめながら片手に純白のパンツを持ったエリィが戻ってきた。


「はい、お望みの品よぉ」

「お、おう……」


 まさか本当に渡されるとは思っていなかったのか、エリィの体温が残った脱ぎたての下着を手渡されたカーティスは、顔をひきつらせて複雑な表情で固まった。

 突然、大胆な行動に出たエリィに裕太は思わず問いただした。


「っておい銀川! お前それでいいのかよ!!」

「あたしだってやりたくてやったわけじゃないわよぉ! でも、笠本くんの安全があたしの行動で保証されるんだったら……」


 恥ずかしさとか、後悔とか、いろいろな感情が渦巻いているのだろう。

 頬を真っ赤に染めながら目を泳がせるエリィに、裕太たちは何も言えなかった。


「し、仕方ねえな! 嬢ちゃんの心意気に免じて、頼みを聞いてやるよ!」


 そう言ってカーティスは、エリィのパンツを握ったまま〈ヘリオン〉のコックピットに乗り込み、埠頭を見下ろせる小高い丘へと飛んでいった。

 なるほど、あそこからなら埠頭のどこに敵が現れても狙撃ができるだろう。


「みんな、そろそろ時間になる。安全な場所へ避難してくれ」


 振り返り、短いスカートを手で抑えるエリィ含む友人たちに退避を促す裕太。

 去り際に、エリィが裕太の手をギュッと包み込むように握り、「気をつけてね」と声をかける。

 彼女の手の暖かさに活力をもらいながら、裕太は潮風を受けてひらひらするスカートの方をなるべく見ないようにまっすぐに彼女の目を見つめた。


「大丈夫。俺はもう負けないし、怪我をするつもりもない」

「信じてるからね……!」


 そう言い手を離し笑顔を向けるエリィに、裕太は微笑みを送った。

 進次郎とサツキは既に離れた場所に退避しており、エリィは彼らの後を追うようにこの場を去っていく。


(風でスカートがめくれ上がらなきゃいいけど)


 裕太はエリィを心配しながら、ひとり埠頭の中心へと足を踏み入れた。



    ───Cパートへ続く

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