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第18話「決戦 ナイトメア!」【Aパート 裕太の決意】

 【1】


「母さん、今日も勝ったよ……と」


 携帯電話の画面を軽快に動く指でタップし、送信ボタンを押す。

 と同時に、自分の汗を拭ったタオルに描かれている母が縫い付けた自分の名前を見て、今朝バタバタと急ぐように家を出ていった母の姿を思い出した。


(そうか、今日は忙しい日なんだっけか)


 キャリーフレーム同士を戦わせる、フレームファイトの試合で疲れ切った身体をいたわるように、長椅子の上で体を横にする。


 朝に起こった事件の対応に出て、解決のために戦い、後始末や事務処理に一日を費やす。

 たまに家族揃って夕飯を囲むときに、たびたび母が愚痴っていたハードな労働スケジュール。

 今日はその流れの日だと思えば、母からの祝勝の言葉が返っては来ないだろうと、頭が自然と理解した。


(父さんがそろそろ迎えに来てくれるはずだけど、遅いな)


 息子の晴れ舞台を、母が忙しい時でも欠かさず見に来てくれている父ならば、褒め言葉をくれるだろう。

 誰かに褒めてもらいたいという無邪気な欲求は、一見すると子供らしいが、人間のモチベーション向上としてこれ以上のカンフル剤は存在しない。

 来るのが遅れている父をこちらから迎えに行こうと、立て付けの悪い重いドアを押し開けると、父の姿がそこにあった。

 いつも穏やかな父らしからぬ、丁寧な中に焦りを混じえた声を携帯電話にぶつける父の背中。


「何……本当ですか!? はい、はい……わかりました。今から向かいます……!」


 電話を切り、ひどく落ち込んだような暗い表情を見せる父の顔を、その場に立ち尽くしてじっと見つめる。

 こちらに気づいた父は、小さく「すまない」と言って、大きな手で両肩を優しく掴んだ。


「裕太、落ち着いて聞いてくれ。母さんが──」



 ※ ※ ※



 それからのことは、おぼろげにしか覚えていない。

 父に連れられて向かった先の病室で見た、全身を包帯で巻かれたままベッドに横たわる母の姿。

 ひとり家に帰りニュース映像で見た、母がそのようになった原因となる事件映像。

 その映像に鮮明に映っていた、ワインのような赤紫色のキャリーフレーム〈ナイトメア〉。


 ──即ち、母の仇。


 裕太はそれから、あれほど入れ込んでいたフレームファイトの世界から姿を消した。

 競技のための訓練、大会を勝ち進むための勝利に、何の意味があるというのか。

 若くして大会を連覇したとしても、最愛の母を守ることすらかなわない。


 その場にいなかった、というのは裕太にとって言い訳にはならなかった。

 むしろ、大会になど出ていなければ母を救うことができたかもしれない。

 中学生の子供が考えた浅はかで安易な論理だったが、当時の裕太にはそれが大きな後悔となっていた。


 ……大切な人を守れるための力を手に入れなければ。


 その後、父が稼ぎのために江草重工に入り、スペースコロニーへと単身赴任して家に一人暮らしになった裕太は、キャリーフレーム操縦の教本を読み漁った。

 それも、フレームファイトのための技術ではなく、コロニー防衛軍とか傭兵向けの実戦教本。

 お金があれば、高級なバーチャルリアリティ(VR)装置を購入して、現実と近しいキャリーフレームの操縦シミュレーションが可能である。

 しかし父から送られてくる僅かな仕送りで、細々とした貧しい暮らしを強いられている裕太には、その道はなかった。

 だからこそ、本から技術を得て、脳内のシミュレートを繰り返すことで戦いの方法を頭に叩き込んでいく他に手段はなかった。


 ……そして今、そうやって得た技術を発揮する機会が刻一刻と近づいてきていた。



    ───Bパートへ続く

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