第17話「アメリカから来た男」【Fパート 名探偵進次郎?】
「あーわからねー。おい進次郎、お前の天才的頭脳でパパっと答えを出してくれないか? ……ってお前、何の本を見てるんだ?」
「フ……あの強盗団が集合し、遠方への逃走を考えているのであれば封鎖されたら終わりな陸路を行き続けるとは思えんからな。地図帳でこの近くにある民間が利用できる飛行場、あるいは埠頭を調べているのだ」
「確かに、そう考えると空路か陸路ってことか。それで、どこに何があるんだ?」
裕太の問いに答える代わりにソファーに地図帳を広げた進次郎は、携帯電話の地図と地図帳を見比べながら、チラシの裏紙にボールペンでスラスラと地名を書いていく。
少しして進次郎は「よし」と言って地図帳を机の上に置き直し、地名とその位置を指で指し示しながら説明を始めた。
「まず候補1つ目が、この前裕太が〈ナイトメア〉と戦った【代多埠頭】。ここはこの時期利用する人間が少なく、こっそり逃走用の船を着けるにはうってつけだ。それから少し東に位置する【目取港】。この港は昼間こそ人で賑わっているが夜は人通りが少ない。隠れていれば夜の内に船で逃げることもできるだろう」
ふたつ目の場所を説明した進次郎は、今度は地図の内陸の方へと指を滑らせ、説明を続ける。
「ここにあるのは雑布飛行場。個人が利用できる小さな飛行場だから、空輸をするのならばここを使う可能性が高いだろう。最後は戸干空港。国際便もある巨大な空港だが端の小さな滑走路は小型機やヘリコプターの発着場として貸し出されている……といったところだな」
「わぁ、すごぉい! さすがは岸辺くんね!」
エリィに拍手されながら褒められ、フフンと得意気に鼻を鳴らす進次郎。
裕太は頭のなかで進次郎が言った4つの地名を整理する。
第1候補:代多埠頭
第2候補:目取港
第3候補:雑布飛行場
第4候補:戸干空港
「……この4つの内のどれかってことか。どれが正解かは、先の暗号を解けばわかるってことだろうけどさ」
4択になったとはいえ、未だ実質手がかり無しの状況。
〈ドゥワウフ〉の射撃場付近……というのはシンプル過ぎて、逆にその意図が分かりづらかった。
いつの間にか謎解きグループに富永も加わって、みんなでウンウン唸りながら謎を解こうとする。
なお、大田原は窓から外を見ながら、ボーッとした顔で特濃トマトジュースをズゾゾと飲んでおり、なぜかジュンナもその横でトマトジュースを吸っていた。
「……なあ銀川、〈ドゥワウフ〉って前に俺が戦った機体だよな?」
「ええ、そうねぇ。少し前までアメリカ陸軍の主力機体だったキャリーフレームで、全高8.1メートル、重さ12.3トン。ビームライフルとビームセイバーを主兵装とするシンプルで頑丈なクレッセント社製の軍用機よぉ」
「相変わらずすごいスラスラと知識が出てくるもんだな」
「──そうか、わかったぞ!」
これが推理アニメだったら電流が走った演出が出そうなくらい、進次郎が目を見開いて立ち上がった。
一人で答えを掴みニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる進次郎を、裕太は不満げに睨みつける。
「一人で納得してるんじゃねえよ、進次郎。……で、答えは何なんだ?」
「まあ待て裕太。まず、ドゥワウフの射撃場 ──これはドゥワウフの主兵装であるビームライフルを示しているんだ」
推理小説の探偵気分なのか、ドヤ顔で解説しだす進次郎に不服ながらも視線を向けて黙って話を聞く裕太。
エリィとカーティス、それから富永も食い入るように進次郎の説明に耳を傾ける。
「そして射撃場の近く。この【近く】というのは場所の遠近のことではなく音の聞こえる場所ということ。つまりこの暗号のキモはビームライフルと音だということが導ける」
「ってことは、ビームライフルの発射音が答えっていうこと?」
「そうなるな。さて、ビームライフルの発射音とは?」
早く答えを言えばいいものを、何故かもったいぶる進次郎に不満を覚えつつも、裕太は馬鹿正直に付き合うことにした。
「そりゃあ……バキュンとか?」
「ドヒューンとも聞こえるわよぉ?」
「バンバン! でありますか?」
三者三様に回答を述べるが、そのどれもが先の4択にかすりもしていない。
半ば脳内で(その推理は違ってるんじゃないのか?)と裕太が思っていると、静かにカーティスが手のひらに拳をポンと打ち付けた。
「……なるほど、ZAPってことか!」
「ザップ?」
唐突にカーティスが言った聞きなれない言葉に、裕太は疑問符を頭に浮かべた。
「近頃のガキンチョどもは知らねえだろうが、ZAPってのはアメリカンコミック、いわゆるアメコミのベタなビーム発射音として使われる擬音なんだよ。そうか、つまりドゥワウフっていう指定はアメリカの概念で考えろってことだったんだな!」
その場で一人ガッツポーズをするカーティス。
暗号の答えがZAPで正しいのであれば、該当する地名は一つだけだ。
「……つまり、雑布飛行場が強盗の集合地点ってことか!」
「正解だ裕太。さあ、さっさと向かわないと強盗が高飛びしてしまうかもしれん」
「よっしゃ! 行くぜ!」
力強い掛け声と共に、カーティスが部屋を飛び出した。
ここまで来たら乗りかかった船だ、と裕太もつられてその背中を追いかける。
外へと続く廊下を歩きながら、カーティスが裕太に声をかけた。
「おい待てガキンチョ。お前の機体はたしか修理中じゃなかったのか?」
「そ、そりゃあそうだけど……せめて付いていくだけでも」
「確かに俺の〈ヘリオン〉には人員運搬の機能もあるけどよ……」
「──坊主、お前の乗る機体ならあるぜ」
背後から裕太の肩を叩く大田原。
「それはどういう……」と裕太が言う前に、大田原はキャリーフレームの起動キーを投げ渡した。
そのキーには、警察のシンボルマークである旭日章が刻まれている。
「大田原さん。このキーは……?」
「場所は3番格納庫だ。後は見ればわかる」
伝えたい意図はわからなかったが、想いは理解できた裕太。
その意志を汲むべく、建物を出てからまっすぐ3番格納庫を目指して駆け出した。
───Gパートへ続く