第17話「アメリカから来た男」【Dパート カーティス・エイムズ】
【3】
「えーと、カーティス・エイムズ 29歳。元アメリカ陸軍の〈ヘリオン〉パイロットで、1年前に退役して日本に転居……で合ってるか?」
「ああ、あってるよ。なんでオレ様が尋問されなきゃなんねーんだよ。せっかく悪党を叩きのめしたっていうのに…………」
「尋問じゃなくて、調書だって言ってるだろ? 俺がいなきゃあのまま留置所送りだったんだから感謝してほしいがねぇ」
頭を掻く大田原の目の前で、取調室の椅子にふんぞり返り、露骨に不満そうな顔をするオールバックの男……もとい、カーティス・エイムズ。
一方、裕太はその様子を隣の部屋から窓越しに眺めつつ、エリィと進次郎と一緒に富永の運んできた緑茶を喉に通していた。
「どうでありますか? お茶っ葉を1ランクいいものに変えたんでありますよ」
「なかなかの美味ですね。それはそうとコールタールはありませんか?」
「警察署にあるわけ無いでしょ」
「マスター、今のはマシーンジョークですよ」
ジョークと言いながらも残念そうな顔をして緑茶をすするジュンナに、呆れた表情でジト目を送るエリィ。
なぜかワイングラスのように、クルクルと湯呑みを優雅に手で回す進次郎の隣で裕太は富永にカーティスの処遇について尋ねた。
「あの男の人ですか? うーん、町中で騒いでいたから誤逮捕というわけでもないでありますからねぇ。けれども強盗一味の逮捕に貢献したという事実もあるでありますし……」
「天才の僕としてはあの男の経歴が知りたいがね。住所を見るに僕の家のある高級住宅地に豪邸を持っているそうだし」
「豪邸かぁ。きっと地下に射撃訓練場あるんだろうなあ」
「おい裕太。僕の家の異質な部分だけを豪邸の基準にするんじゃない」
「確かに、自前で〈ヘリオン〉なんていう高級機体持ってるんだし、相当なお金持ちなんでしょうねぇ」
そう言ってエリィは部屋の窓を開けて身を乗り出す。
裕太もその横に立って一緒に外を見ると、カーティスの乗っていた〈ヘリオン〉がヘリコプター形態で裏手の駐機場に置かれており、トマス率いる整備班が集まっていた。
それが調査をしているのか、整備をしているのかはこの部屋からではわからない。
『あのキャリーフレームが放っていた空気の渦のようなものは一体何だったのであろうか?』
「多分、大型レールガン空気弾を発射するエアブラスターね。町中での損害を少なくするための兵装なんだけど、カスタム装備だから……あの〈ヘリオン〉、日本円で言うと200億はくだらないんじゃないかしら」
「200億って、ゼロがひとつふたつ……って数えたくもねえや。そんだけカネ持ってるってことは只者じゃねえってことかあのオッサン……」
裕太は羨ましげに、そして恨めしげに取調室のカーティスに視線を戻した。
───Eパートへ続く