第17話「アメリカから来た男」【Cパート 逮捕される外国人】
「ヘッヘヘ! まずは1匹!」
〈ヘリオン〉の中から聞こえるオールバックの声に、もう1機の〈ガブリン〉が恐れを現すように数歩後ずさりし、そのまま〈ヘリオン〉に背を向けて先に逃げたトラックの方へと駆け出した。
と同時に〈ヘリオン〉がその場で跳び上がり、空中でヘリコプター形態に一瞬で変形をすると〈ガブリン〉の上を飛び越すようにして飛行する。
そして今度はキャリーフレーム形態に変形し直し、〈ガブリン〉の行く手を遮るように着地して砲身を胴体に突きつけた。
「どこへ逃げようってぇんだ? あーん?」
オールバックがそう言うと、巨大な砲身から今度は鉄塊が放たれ〈ガブリン〉が周囲に破片を飛び散らせながら宙を舞った。
しかし、球状のコックピット部分だけは破壊を免れ空中で静止したまま浮かんでおり、抜け殻のように吹っ飛んだ外装が道路の上に崩れ落ちる。
数秒がたち、浮いていたコックピットもまるで吊っていた糸が切れたように、道路に音を立てて落下した。
「い、今コックピットが浮かんでなかったか?」
「あれは搭乗者を守る時間停止防壁よぉ。コックピットに直接攻撃された時に発動して、あらゆる事象から操縦席を守ってくれる最新技術ね」
『時間停止……閃いた!』
「通報した」
『はうっ!』
「マスター。あらゆる攻撃から身を守れるということは、そのフィールドで全身を覆えば無敵なのではないでしょうか?」
「そうもいかないのよ。発動範囲は限られているし、無線とかも通じなくなっちゃうから外に干渉もできなくなっちゃうからねぇ」
長々とエリィが時間停止防壁について解説している間に、動かなくなった2機の〈ガブリン〉を前に立ちはだかった〈ヘリオン〉のコックピットから、件の金髪オールバックのサングラス男が顔を出した。
「さあてもう抵抗できねえぞ強盗野郎! ……おっ、ちょうど警察の連中も来たみたいだな」
遠くから聞こえてきたパトカーのサイレン音に気づいたのか、オールバックは道路に降りて〈ガブリン〉に近寄った。
そして数台のパトカーが次々と〈ガブリン〉の周辺に停車し、中からゾロゾロと警官が現れ、そして──
「容疑者発見! よし、確保ーっ!」
「「「おおーっ!」」」
「ちょ、待て! なんで俺に来るんだ! ぐわーっ!」
──大勢の警官に飛びかかられ、オールバックの手に手錠がかけられた。
「おー、やってるやってる」
遅れて到着した1台のパトカーから、特濃トマトジュースを片手に大田原が降り、警官たちに連行されるオールバックを見て満足そうに頷いた。
一部始終を見ていた裕太が大田原の肩をトントンと指でつつくと、「おお、いたのか坊主」と言いながら紙パックをズゾゾと鳴らして振り返る。
「大田原さん、なんであの人捕まっちゃったんです? 強盗のキャリーフレームを倒したのはあの人ですよ」
「……本当か? ここいらで電柱に蹴り入れてる怪しい男が出た、というのとキャリーフレーム使った銀行強盗が出た、という通報がほぼ同時刻にあってな。俺はキャリーフレーム絡みってんで顔出しに来たんだが」
そう言っている内に強盗のキャリーフレームを倒した功労者を乗せたパトカーが、サイレンを鳴らしながら走り去っていく。
もののついでのように、機能停止した〈ガブリン〉から引きずり出された強盗の一味が警官たちによって取り押さえられ、手錠をかけられパトカーで連行されていった。
「あっ、行っちゃった……」
パトカーの群れが見えなくなってから、大田原はバツが悪そうな顔で携帯電話を手に取り、ディスプレイを指でつつき始めた。
「刑事課の連中は血の気が多いからな。警察の評判が下がっても困るし、一応一報入れとくか……。坊主どもも悪いが弁護のために来てやってくれないか?」
「え、まあいいですけど……」
場の状況に流されるように、裕太たちは頷き合って大田原のパトカーに乗り込んだ。
───Dパートへ続く